かわゆい神様、自作PCに挑戦する~雑に作っても動く!~

雪野湯

第1話 前振り劇場

――地球・日本のとある安アパート



 築四十年は超えようかとするおんぼろなアパートの二階に、どういうわけか異国の神様である龍神が住んでいました。

 龍神の名はケツァルコアトル。北米に伝わるアステカ神話において、文化・農耕・風の神。

 彼女は故あって日本に住み着き、ここでは龍野たつのアスカと名乗って人間の女の子の姿をして暮らしています。


 アスカは窓ガラスに映る自分の姿を黄金の瞳で見つめます。

 瞳に宿るは、絹糸のように艶やかな桃色の長い髪。そこから飛び出た山羊のような角。そして、白い肌に真っ白なワンピースを纏う十二歳前後の少女の姿。



「ふふ、ワシはいつ見てもかわゆいの~」

 自惚れに酔うアスカは、幼い容姿に不似合いな老人のような言葉遣いを見せてにんまりと笑います。

 次に窓を開けて、憎らしいほど真っ青な夏の空を見上げ、げんなりした表情を見せました。


「あっついの~、エコなんかくそくらえのエアコンがガンガン効いた部屋のままでいたいが、こうやってたまに風を通してやらんと家が腐るからのぅ。ほんと、おんぼろな家じゃ」


 エアコンの除湿では追いつかない夏の湿気は、年老いた家に大きなダメージを与えてしまいます。

 彼女は窓を背にして室内を見渡します。

 あるのは四畳半一間の畳部屋。古臭く、太陽光もあまり入らず、陰気な部屋。

 そのど真ん中にアスカよりも幼い容姿をした十歳前後の少女が胡坐をかいて座っていました。



 その少女は真っ黒なゴスロリ服を纏い、血のように真っ赤な瞳を光らせて、お尻からは七匹の蛇たちがしっぽのように生えています。

 髪は長髪のくせっ毛で、お空の雲のように真っ白。ボリューム満点の髪のおかげで後姿は毛玉そのもの。


 アスカは友人である少女の名を呼びます。

「ヤマタノ、おぬし、何をしに来たんじゃ?」

「吾輩は暇つぶしきたの~」


 ヤマタノと呼ばれた少女。

 その正体は龍神八岐大蛇やまたのおろち

 本当の姿は八つの頭を持つ龍ですが、今は語尾に『の~』とつけちゃうのが口癖のかわいい少女の姿。



 少女は琥珀色の液体が揺れるガラスのコップを片手に持っています。

「うぃ~、山〇のウイスキーはやっぱり美味しいの~」

「ほんっとに何をしに来たんじゃ、おぬしは?」


「だから、暇つぶしなの~」

「暇つぶしに人の家で酒を煽りに来たのか?」

「ちがうのちがうの~。これをアスカちゃんに押し付け……プレゼントしようと思ってやってきたの~」

「本音が漏れとるぞ。で、何をくれるというんじゃ?」

「パソコンのパーツなの~」



 ヤマタノは空間を操り、何もない場所から段ボールを生み出しました。

 それをデンっとアスカの前に置きます。

「アスカちゃんにパソコンを組み立ててほしいの~」

「ワシが? 何故じゃ?」

「あのね、パソコンのパーツを貰ったんだけど、作れないからアスカちゃんに丸投げすることにしたの~」


「おぬしな……というか、ワシはパソコンなぞ作ったことないぞ」

「アスカちゃん、神なのにパソコン持ってるし、使ってるの」

「持ってるからと言って作れるわけでは――」

「じゃあ、おいてくから、あとは好きにしてほしいの~」



 そう言葉を残して、ヤマタノは空間を操って歪みを生じさせて、そこに飛び込み姿を消しました。

 残ったのは、アスカとパソコンのパーツが入った段ボールだけ……。

「あやつ、人の家に来て酒飲んでモノだけ置いていきやがったのじゃ。マジで何しに来たんじゃ? それにしても……」


 段ボールをちらりと見る。

「作れと言われてもの~。どうやって作れというんじゃ……ちょいと、ネットで調べてみるかの? 動画サイトで、『自作PC 作り方』をっと……ふむふむ、ふむふむふむ。ほ~、案外簡単そうじゃな! 今使っておるPCも古くなってきたし、ちょうどよい機会かもしれん。れっつ、自作パソコンなのじゃ!!」



※物語風味はここまで。次話からはメタい感じで話が進みます。

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