幕間21

「出身があそこだから……、あの病院か」

「知ってたのか。有名らしいけど」

「君の出身県でもトップクラスの心スポじゃないかな」


もっとも、私は心霊スポットに詳しいわけではないのだが。さわりの部分だけは知っている。


「一回引っ越したって言ってなかったっけ?」

「引っ越す前の家が親の実家で、俺らが引っ越しても祖父母が住んでたから」


引っ越した先が私の通っていた中学のある地区だったと、そういうことらしい。

彼は都子の友人の一人で、私自身はあまり深くかかわっていなかったと思うのだが、怪談を教えてもらえるくらいには仲が良かったようだ。


「それで、大学卒業してからUターン」

「なるほど」


十数年ぶりに会って聞いたところ、市役所勤務らしい。私には到底できない仕事だ、と思う。そもそも他の人と働くのに無理がある。


「私はあのあたりに行ったことはないんだけど、確か都子が物見遊山感覚で行ったことがあるらしいよ」

「へえ、あいつ霊感あるとか言ってたっけ?」

「無いから平気で楽しめるんだと」


ちなみに、ネットで見たどこぞのトンネルの方が数十倍やばそうだった、とのことだ。病院で人が死ぬのは当然のことであって、それだけで強い心霊スポットが出来ていたら世話ない。


「心霊っていえばさ」


と、彼は切り出した。


「厄払いにいい神社だか寺だか知らねえ?」

「厄払い?」

「いや、最近ちょっと嫌なことが続いてさ」


悲痛な面持ちでそういった。


「昨日、閉館時間ギリギリで図書館に行ってさ。借りてた本返したんだけど、新しく本を借りようって時に、図書館の登録証を車に忘れてたのに気づいてさ。そこの図書館、駐車してたとことまあ近いから急いでとって戻ってきたらもう図書館閉まってたんだよな」

「あー、まああることだけど」

「それでとぼとぼと車に戻ってたらさ。縁石に足ひっかけてずっこけた」

「……走ったの?」

「いや全然歩いてた。がっつり他の人に見られたし、そん時手にスマホ持っててさあ」

「下敷きにしたわけ?」

「いや、手から吹っ飛んだ。で今これ」


これ、と言いながら彼は薄く黒い板を取り出す。当然のようにスマホだが、どこか破損しているようには見えない。

訝し気にしている私の前で、彼はスマホの側面についている電源ボタンを押す。画面は真っ暗なままだ。


「画面が2ピクセルを残して完全に死んだ」

「うわ」

「タップも効かないんだよな」


ちなみに音楽は聴ける、と彼は言った。画面がいかれているだけで中身は無事——だと信じているとのことだ。信じるって何だよ。


「え、じゃあ何も操作できないじゃん」

「できないよ。携帯ショップに問い合わせても、週明けじゃないと対応できないって言われたし」

「あちゃー」

「いやまあ、仕事に支障はないんだけどさ、なんというかこう、落胆……? 軽めの絶望?」

「スマホぶっ壊れたことが?」

「じゃなくてさ、何もかも上手くいかないなって」


仕事もだし、と彼は溜息を吐く。


「まあ一個言えるとしたら、こういう時に人って自殺するんだろうなとは思った」

「あれ私、話聞き逃した?」

「聞き逃してないよ。こう、茫然とするっていうの? 唖然のほうが近いか。『あ、俺駄目っぽいわ』って。逆に感心かもしれん」

「わからんでもないけど」


にしても、厄払いね、と私は呟く。彼にとっては大した厄日だっただろう。そこまで考えて、何かが記憶の琴線に触れた。

彼が『俺ら厄年だもんなぁ』としみじみと言ってるのを聞き、やっと思い出した。


「私も厄払いに行けって言われてるんだった」

「まじかー」


彼が感情のこもっていない返事をする。脊髄反射のように答えているに違いない。


「まあ近所の神社とかでいいんじゃないの? ってか氏神様とかいるでしょ、多分」

「調べたらわかるかなぁ」

「初詣の時によくいく神社とかでいいでしょ。大事なのは気持ちな気がする」


随分とふわっとした言い方だが、専門外なのだから仕方がない。頭が悪いのか何なのか、神社や神様や作法に関する本を読んでも、いまいちよくわからない。


「近所の神社ね」


氏神様かどうかは知らないが、まあそういうのは大体近所だろう。見当違いのところにお参りに行ったって、効果のあるなしはともかく、祟られたりはしないだろうし。なんせ神様なんだから。




————————

【悲報】

厄払いに行こうと思った原因、作者の実話。というか昨日の出来事。

そしてお察しの通りネタ切れしてます。厄日なのかなんなのか……。

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