第21話 廃病院

入院してたって聞いたけど大丈夫? あー、ほぼ日帰り? いやあ、大怪我じゃなくてよかったよ。本当に。


で、なんだっけ。俺が知ってる怪談? 体験したことがある方がいい……つっても、大したことないけど。


俺が昔住んでたところからそう遠くないところに、古い病院の廃墟があったんだけどさ。


そこがまあまあ有名な心霊スポットになってて、入院患者だった子供の霊が出るとか、明かりがついているのを見たとか、そういう話には事欠かなかった。とはいっても、どこかで聞いたような話の焼き直しって印象が強かったな。実際、証言は全部バラバラで一貫性が無かったし。


まあでも、心霊スポットとして有名ってだけで気味が悪いし、そもそも街灯も人通りも少ないから、暗くなってからその近くに行くことはまず無かった。


それで、社会人になってから一年目とか、二年目だったと思うんだけど。出張……ってほど大したもんじゃないけど、地域の零細企業に訪問しなきゃいけなくなって。つかそういう仕事だったから、しょっちゅうあることだった。


それで、俺の担当してた仕事っていうのが、俺と、二回りくらい年上の先輩、その二人しかいないとこで。訪問先から直帰してもいいよって個人の判断でできるようなゆるさだったんだよな。今ほど個人情報に厳しくなかったし、田舎だったし、そもそも大層な個人情報は扱ってなかったし。


それで、帰り道のほうに例の廃病院があってさ。避けてたのは暗いし気味が悪いってだけだったから、普通に廃病院の前を通る道を行ってた。それ以前と違って、車で移動してたしな。


それで、病院の前の道に差し掛かる時でさ。やっぱし暗いな、なんて思いながら車を運転してたんだけど。ふっと、なんとなく病院の方を見たんだ。


誰かに強く睨まれていた。


それも尋常じゃなくて、憎悪って言うの? 親の仇か何かかってくらいの、感じたことのない敵意だった。


無視して帰ったけど。


いや、無視っていうより、びっくりしてそのまま帰っちゃったんだよな。事故らなくて本当に良かったと思うよ。


それで帰ってから気づいたんだけど、あの病院、本当に暗いんだよね。落ち着いて考えたら。


人が居たって絶対にわからないほど暗いんだよ。


それなのになんで睨まれたって思ったのか、さっぱりわからないんだけど。視線を感じたことなんて、その一件以外には全くないし。


やっぱり気味が悪いねって話になって、結局そのあと廃病院には近づかなくなった。まあ、元からそんなに通るところでもないし、支障は特になかった。


何かが起きたってわけじゃない、地味な話だけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る