転生勇者は破滅回避のために黒幕として君臨する
空野進
プロローグ
『世界を救った勇者は王女と結婚し、幸せに過ごしました』
それは王道ファンタジーRPGで定番のハッピーエンドである。
苦労して世界を救った勇者への最大のご褒美。
ゲームが終わった後にも幸せな生活が待っていることを暗示していた。
ただ、もし結婚相手の王女が
ご褒美であるはずの王女との結婚がもはや破滅ルートに早変わりである。
そして、それが今の俺が置かれた状況でもあった。
弱小貴族の三男として生まれた俺、アルトゥール・フォン・ライツ・ユルグノアは十歳になったある日、初めて出会った
まるでオークがドレスを着て歩いているかのような体型。
その手にはこれでもかというほど山盛りにされたケーキ。
口の中に物を入れながらしゃべるせいで何を言っているのかわからずに「ぶひっぶひっ」としか聞こえない口調。
人を蔑むような視線。
高貴な身分を表す豪華絢爛なドレスももはや豚に真珠状態である。
挙げればキリがないほどに強烈な姿をしている彼女の名前はミーナ・フォン・アーノルド・リングスタッド。
信じられないことに彼女こそがこのリングスタッド王国の王女だったのだ。
脳の処理が追い付かずにそのまま倒れてしまった俺は一晩うなされたあと、次の日に前世の記憶を思い出していた。
それほどに昨晩の出来事は衝撃的だったとも言える。
ただ、それは絶望への新たな一歩とも言えなくなかったのだ。
まず記憶を思い出したことでわかったことはこの世界のことである。
国民的RPGゲーム『ルミナス・ファンタジー』。
光の勇者が仲間たちと共に世界を脅かす黒幕を倒すという王道ファンタジーゲームの世界そのままだったのだ。
更に俺はそのゲームの主人公に転生……、いや憑依か。
どちらにしてもメインキャラとして新たな生を得てしまったようだ。
人々から羨望の眼差しを向けられる勇者になったことで、俺は思わずガッツポーズをしそうになる。
勇者であるという時点でチート持ちであるのだ。約束された栄光。しかも黒幕を倒した時点で王女と結婚できるのだ……。王女との結婚……。結婚……。
「ちょっと待て!? 俺はあの
ゲームの黒幕である大魔王は世界を滅ぼそうとしているだけあってかなりの強敵である。
主人公も長い間旅に出て、自身のレベルを上げ、頼りになる仲間を集め、更には伝説の武具などを集めてようやく対抗できるほどである。
そこまで苦労して世界を救った上で与えられるのが王女との結婚なのだ。
他に金品や爵位を受け取ったという話はゲーム中にはない。
もしかしたら、とも思うが勇者を一人でろくな装備や金も待たさずに旅立たせる王国だ。
追加の報酬はまず考えられない。
他の仲間たちはそれぞれの職の頂点に君臨するという未来が描かれているが、俺に与えられるのは
こんなものはハッピーエンドどころかバッドエンドだ。
苦労して黒幕を倒した先に待っているのがどうして人生の破滅なんだよ!?
悪態の一つも吐きたくなる。
ただそうは言っても黒幕を倒さないという選択肢もない。
もし黒幕を倒さなかった場合に待ち構えるのは世界の滅びである。
はい、こちらも破滅です!
しかもなんの罠か、黒幕を倒すにはとある
進むも破滅、退くも破滅。
もはや破滅しか道が用意されていなかった。
思わず頭を抱え、ベッドの上で転がりまわる。
|王女との結婚か世界の滅び、どちらかを選べなんて言われても選べるはずもない。
これならば前世で流行っていたモブや悪役に転生する小説の方がまだ展開がマシだ。
あっちはイベントを回避さえすれば破滅を免れるんだから。
そういった小説では勇者が悪く書かれることが多々ある。
ただそうなる気持ちもよくわかる。
破滅しかない道を歩くには、ヤケになることでしかやってられないのだ。
いや、まだだ。
俺が勇者として旅に出るのは十五歳の誕生日を迎える日である。
今はまだ十歳。
破滅回避のためにできることがあるはずだ。
ゲームのイベントも含めて今後の行動方針を考える。
まずは黒幕である大魔王退治。
これはやらなければ世界が滅んでしまうので必須である。
でも、倒したことが知られると国王から褒美に
つまり黒幕を倒した上で黒幕が存在し続けたらいい。
いや、黒幕を倒してるんだから存在するわけないじゃないか。
そもそも別の黒幕が現れたとしても勇者である俺が倒しに行くことになるだろう。
ポッと出の黒幕が大魔王よりも強いとも考えにくいし、そいつを倒してしまっても、エンディングは変わらずに
しかし、倒さなければそいつもおそらくは世界の滅亡を狙うだろう。
ゲームの黒幕になるような人物なのだからそれは仕方ない。
世界平和を目指している、俺と同等の力を持つ黒幕が現れるなんて、宝くじが当たるよりも低い確率だろう。
俺がもう一人いれば勇者をやりながら黒幕もできるのに……。
そんなありもしない妄想に思わず苦笑いが出る。
俺がもう一人なんているはずないのに。
……いや、待てよ。
俺が二人いることはないが、どちらも兼任することはできるのではないだろうか?
黒幕を討伐するはずの勇者が実は黒幕。
俺が生きている間は絶対に
しかも黒幕が俺であるから世界滅亡なんて起こさせない。
思考を巡らせるほど、これしか破滅回避の方法がこれしかないように思える。
つまり、この世界で俺が平穏に暮らすためには“黒幕勇者”になるしかない。
こうして、弱小貴族でいずれ勇者になる主人公に転生した俺は、
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