第6話 新生活②
「あれは2年前のことだ。国境付近のサネガル地区で事故があってな。それでクリスが調べに行ったんだ」
サネガル地区。確かコルデア国とジオルド王国との国境近くにある地区だったはず。
「事故現場は炭鉱と近くの村までの道でな」
アデル様はどこか言い
「調べて呪いに?」
「それは……分からん」
「どうしてですか?」
「炭鉱付近にはいわくつきの物もないし、村にも変わった信仰もない。それに呪われるならクリスではなく、調査の現場責任者だ」
「ん? クリス様が現場責任者では?」
「いや、クリスが到着した時には問題は解決済みであとは事故調査の確認だ。確認も書類や証人から話を聞くようなもの。呪いを受けるようなことは何一つなかった」
「では、呪いを受けたのはそのサネガル地区以外では?」
「俺もそう考えたが、クリス自身があの日からおかしいと言っている。俺も個人で念入りに調べたが何も見つけられなくてな」
アデル様はそう言って髪をかけ上げた。
「そうでしたか」
「貴女は何か気づいたことはあるか?」
「すみません」
「いやいい。専門分野ではないだろう。それにうちが雇った一流の専門分野の者達さえ、匙を投げたんだ」
「でも私がクリス様と婚姻の運びとなったのは呪いを解くためなのでは?」
そこでアデル様は息を吐いた。
「この婚姻には色々な思惑があり、その1つが貴女が言ったこと。けど、多少の期待があっただけで、本気にしてたわけではない。それに貴女はよくこの屋敷に溜まった呪いを薄めてくれた」
そしてアデル様は屋敷を見渡す。
「前は近づくだけで億劫で、中に入れば体が重く、長く居座ると酔ってしまう。それをこうも打ち消してくれるとは嬉しい限りだよ」
「そう言っていただき身に余る光栄です」
◯
アデル様が帰った後、私は庭掃除をしていました。
庭は広く、そして雑草が覆い茂っており、かなり
庭掃除の時、元は花壇か家庭菜園用の黒い土のエリアも見つけました。
ここで野菜を育てるのもありかなと考えていたその時、1体の精霊が私のもとにやってきました。
「どうしたの? え? 怪しい子供?」
精霊が門扉の方に動くので、門扉の方に目を向けると、小さな女の子が門扉に身を隠しながら、こちらを伺っていました。
目が合うと女の子は顔を引っ込めます。
(あの顔は……確かクリス様のご息女エルザ様だったはず)
私は門扉に向かうとエルザ様が道路にいました。
「どうかしたの?」
私は膝を曲げ、屈む。
「クリスは大丈夫なの?」
エルザ様はおどおどと聞く。
「……ええ。今は安静にしていらっしゃるわ」
「お花持ってきたの」
そう言ってエルザ様は手に持つ数輪の花を私に向ける。
「ありがとうございます。クリス様も喜びになると思います」
私は花を受け取る。
「エルザ様はお一人でこちらへ?」
「うん」
ここから城へはそう離れてないとはいえ、幼い子供が1人で来るには大人が心配する距離だ。
「少々ここでお待ちください」
私は精霊を1体、エルザのもとに残して急いで屋敷の裏手に周り、使われていない花瓶を見つけ、そこに花を差した。
門扉へ戻ろうとするとエルザ様が屋敷の玄関口にいた。
「エルザ様! どうしたのです?」
「えっとね、前とは違うなと思って」
「違う?」
「うん。前はね、なんか胸がキューと苦しくなって、怖くて目が向けられなかったの。でも、今日は何もない」
呪いのことを仰っているのでしょう。
「でも、まだ危険ですので近づいてはいけませんよ」
「ティ、ティ……」
「ティアナです」
「ティアナは平気なの? セーレーの力だから?」
おや? 幼いエルザ様にまで精霊の話がお耳に入っているとは。
「まあ、そうですね。さ、帰りましょう。アデル様もご心配してます。近くまで送らせていただきます」
「えー!」
「もう夕方ですよ。陽が落ちてはお一人では帰れないでしょ?」
私はエルザ様の手を繋ぎ、門扉を越えて、道をエルザ様と共に歩きます。
◯
無事エルザ様を送り届けた後、来た道を戻っていると前方にメイドの女性がいました。そのメイドの女性は台車を押して唸っていました。
どうやら穴に台車のタイヤが
積荷は野菜や瓶、箱が積まれていて、どうやら私の屋敷に向かう途中だったのでしょう。
「手伝います」
私も一緒に台車を押します。
「助かります」
しかし、台車はしっかり嵌っていて、女性2人の力ではビクともしません。それで私は精霊の力を使い、台車を持ち上げました。
「え? 浮いた?」
「今のうちに前へ」
「あ、うん」
私達は台車を前に進ませます。
「ありがとう。助かったわ」
メイドの女性が頭を下げて礼を言う。
「いえいえ」
精霊に穴を塞いでおくようにと頼んで、私達は道を進む。
「ちなみにクリス様のお屋敷はこの道まっすぐで良いのかしら?」
「はい。もうすぐすると門扉が見えますよ」
「あ、あれかしら? ありがとう助かったわ」
「お気になさらず」
そして私も門扉をくぐる。
「ここまででいいわよ」
「いえ、私もこちらに……」
そこで私はこの方は私の素性に気づいてないと分かりました。
「ナーシャ、遅いよ!」
屋敷の裏手側から顔を出したメイドが女性に手招きする。
「うるさい。こっちは穴に嵌って大変だったんだよ」
ナーシャと呼ばれるこのメイドは台車を押してずかずかとした足取りで裏手に周る。
その後ろを私はついて行く。
「どうして中に入らないんだよ。お前、
「それが鍵がかかってさ」
先に屋敷の裏手にいたメイドは昼に昼食を届けに来た人であった。
「人がいないのか?」
「うん。ティアナさ……いた!?」
「いた? なんだ? 幽霊か? まじで出るのか?」
「そうじゃなくて後ろ?」
「う、後ろ! ……て、人じゃん。びっくりさせんなよ。テトラ、この人は困ってた私を助けてくれた人。てか、あなたもここに用があったんだっけ?」
「ナーシャ、その人だよ?」
「ん?」
「その人がティアナ様だよ!」
「え、えええー!?」
ナーシャと呼ばれるメイドの女性は大きく驚いた。その声に驚いて森の鳥が数羽、飛び去って行った。
◯
「ティアナ様とは知らずご無礼」
ナーシャは頭を深く下げる。
「もういいのですよ。名乗らなかった私にも非があります。お顔を上げてください」
「そう言っていただき、助かります」
「私の方からもお詫びを。ナーシャは教養がない身でありまして」
もう1人のメイド、テトラも隣で頭を下げる。
「本当にもういいですから。それより中に入りましょう。食材を蔵に入れましょう」
生モノもあると言っていた。このままだと腐らせてしまう。
◯
蔵はひんやりとしていた。それは陽の当たらない暗い地下の部屋だからとかではなく、魔法が影響していた。
蔵の四方には丸い玉を嵌める台座があり、水色の魔力石が嵌められている。
この水色の魔力石が蔵の気温を下げている。
「これは力が薄まってますね」
テトラが魔力石を見て言う。
「そうですね。足しておきましょう」
「え?」
私は魔力石に自身の魔力を注ぐ。
「「おお!?」」
メイド2人は声を上げて驚いた。
「すごいですね。魔力を注ぐなんて。これも王家の力ってやつですか?」
「まあ、そんなところです」
「屋敷の重たい気もないですし、クリス様の呪いも解けるんですか?」
「残念ながらクリス様の呪いは無理です」
「……そうでしたか」
「バカッ」と言って、ナーシャがテトラの頭を小突く。
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