第1話 出立

 あの後、私は執務室へと通された。

 そして中央テーブルのある下座の席に座らされた。


 部屋には私以外にも妃と兄弟姉妹達きょうだいが中央テーブルから離れた席に足を組んだり、頬杖をついたりして、私を見ている。


 ここに呼ばれたということは隣国の第3王子との縁談の件だろう。


 第3王子といえばそれなりの身分のはず。

 それがどうしてこの私に。


 しかも周りは憎悪や憤怒ではなく、嘲笑の表情をしている。


 それはどうしてか?


 まるでそれはという意味だろうか。

 ならそれは──。


 そこへ父である王と執事が執務室に入って来た。

 王が上座に座り、私は一瞥する。


 その目は蔑みの色を持っていた。

 妾腹といえど、私は貴方の子ですよ。


「第4王女ティアナ・ガスティーヌよ」

「はい」

「そちに隣国ジオルド王国第3王子クリス・マークライトとの婚姻する運びとなった」


 それは玉座の間でも聞いたこと。


「これは決定事項だ。異論は認めん」

「……はい」


 私が王へ返事をすると王女しまいの誰かが小さく、だがはっきりと聞こえるように笑った。


「何か聞きたいことはあるか?」


 異論を含めずに質問とは難しい。少しでも懐疑的な質問だった場合、異論と言われそうだ。


「どうして私なのでしょうか?」


 目下一番聞きたいことはそれだった。

 妾腹の王女である私にどうして隣国の第4王子のと婚姻が結ばれるのか?


「隣国の第3王子は少し病弱でな」

「…………」

「…………」


 え? それだけですか?


「とにかく。お前には出て行ってもらう。いいな? 期日は来週だ」


 そして王は話はもうない。出ていけという視線を向ける。

 私は席を立ち、執務室を出る。


 出た瞬間、執務室から「やーと、邪魔者がいなくなってせいせいするわねー」という言葉が聞こえた。たぶんこれも私に聞こえるように言っているのだろう。


  ◯


 屋敷に戻り、身支度を済ませる。

 想いのある物は少ないため、身支度は簡単に終わった。

 あとは当日を待つだけ。


 精霊が数体、私の周りを飛び交う。


「……そうだね。暇だから遊ぼうか」


 ボードゲームを取り出し、私は精霊と遊ぶ。


「第3王子って、どんな人だろう。イケメンだったらいいな」


 というか相手の歳や背格好を聞いていなかった。


 王は第3王子が病弱であるとだけ告げていた。それだけ十分じゅうぶんなように。

 病弱であるというなら、私はすぐに未亡人になるのではないだろうか。確かジオルド王国では王家の者と結婚し、未亡人になった場合、再婚は出来ない。


 つまりマークライト王国の血が他へ流れないということ。さらに妾腹の血もそこで途切れるということ。

 ジオルド王国には一応縁が出来し、恩も着せることが出来る。

 それが王の狙いなのだろう。


  ◯


 1週間後、ついに隣国ジオルド王国へ出立の日がきた。


 いつもとは違う豪華な馬車。後続には執事とメイド達の馬車、そして護衛兵士が馬に乗り、列を作っている。


 一応、王女であるため、我が国の尊厳を落とさぬよう、それなりに見栄えを良くしている。


 王や妃、兄弟姉妹きょうだいの誰も見送りに来なかった。

 最後まで私は異端扱い。

 王家の血を引いても、穢れた血として扱われる。


 寂しくはない。

 元々私も彼らには家族としての想いはなかった。

 私の家族は亡き母のみ。


 私は1人、豪華な馬車に乗り、窓から王都を眺める。民が盛大に見送ることもなく、ただ物珍しさ程度の目を向けるだけ。ほとんどがいつもの日常生活を営む。


 だが、それで良かったと思う。


 盛大に見送られては私も反応に困るもの。

 ガタガタと馬車は門を抜けて、外に出る。窓からは山と草原が景色に映る。


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