神殺しの英雄《アルゴノーツ》~世界唯一の闇属性を発現させた俺は、剣一本でスラム孤児の底辺から帝國最強にまで成り上がる~

KAZU@灰の世界連載中

第1話 神殺しの英雄になりたくてー1

 天使がいたならば、きっとこんな姿をしているだろう。


 絵画のような芸術的なまでの裸体、少しだけ日焼けした小麦色の健康的な肌。

 そして、燃え盛る炎のような赤いショートヘアと、同じぐらい真っ赤な下着を履いた半裸の美少女が俺の前にいた。


 なんでかって? まぁ、つまるところ。


「…………へ?」

「…………ふぇ?」


 部屋を間違えました。


 飛行艇のデッキで日課の素振りをし、汗をかいたのでシャワーを浴びようと部屋に戻ったが、どうやら俺の部屋は隣だったようだ。


「フレア……言いたいことはわかる。これは疑いようもなく俺が悪い。だから剣を置いてくれ」


 俺の前でタオル一枚でわなわなと震えているこの美少女こと――フレア・フェザーフィールドは魔剣を握り、今まさに俺に切りかかろうとしていた。


 このままだと本当に切られると思った俺は、自分のベルトを外す。


「とりあえず俺も脱ぐから、痛み分けってことにしよう」

「なるわけないでしょうがぁぁぁ!!」


 ちょっとした流血事件があったが、俺と、フレアは飛行艇で世界最大国家、リベルティア帝国へと到着した。

 神を殺す英雄になるための登竜門――リベルティア帝国騎士入団試験のために。



「なぁフレア。そろそろ許してくれ。ぼーっとしてたんだって」


「乙女の裸を見といて、ごめんで済んだら帝国騎士は必要ないの! それになんで自分も脱いだら許されるって発想になるの? 普通に怖かったんだけど」


「気が動転してたんだ。ほら、言うだろ。目の前でこけた人がいたら手を差し伸べるんじゃなくて、一緒にこけてあげるべきだって」


「じゃあ百歩譲って事故だったとしてあげる。でも5秒ぐらいガン見してたよね? 見てない見てない! チラっ。ていうお決まりのパターンもなかったよね?」


「……あ、あまりに君が魅力的すぎたんだ」


「ふぇ?」


 フレアの顔が赤くなった。


「そうだ! 罪だというならフレアの美しさが罪なんだよ」


「そ、そう……なの?」


「もちろん! 帝国一といっても過言じゃない! (このまま押し切れそうだな)」


 俺は大げさな演技で、とりあえず褒めちぎったら何とかなりそうだなとフレアを褒め殺しした。

 照れながら満更でもなさそうなフレア。ふっ、ちょろいな。


「ふ、ふーん。そうなんだ……」


 髪をくるくるとしながら、くねくねしている。

 よし、あと一息だ。


「そう! 燃えるようなルージュの下着、フレアの髪と同じ色で最高にエロい!」

「…………」


 その言葉を発した瞬間、俺は全身から冷や汗を流した。

 どうやら俺は言葉選びを間違えたようだ。

 エロいではなく、魅力的というべきだったな。


「ノア、選ばせてあげる。二度と覗きができないようにその目をえぐって」


「せ、選択肢はどこに?」


「どちらの目かは選ばしてあげる」


「シンプルにえぐい!」


「はぁ……痴話げんかはそろそろいいか?」


 すると仲裁するように、強面の軍人が大きなため息を吐く。

 名をガイヤ・フェザーフィールド。

 フレアのお父さんだ。

 今俺たち三人は、飛行艇のターミナルから、魔道車に乗って帝都アルカナの中心に向かっている。

 

「パパ、ちゃんと怒って! あなたの娘が嫁入り前に傷物にされるわ」

「ノア……もっとうまくやれ」

「父親公認なの!?」


 さすが俺の師匠であり、フレアのお父様。

 冗談もわかる素晴らしい人格者だ。


「まぁ喧嘩もほどほどにな。私は野暮用があるのでここで降りる。本選……頑張れよ二人とも」

「任せてください!」

「うぅ……わかった」


 そうしてガイヤさんと別れ、俺とフレアは試験会場に向かった。



~帝都アルカナ・帝国騎士団総司令本部



「ここが帝国騎士団総司令本部かぁ……テンションあがるなぁ……」

「入団試験本選、18歳まで長かったなぁ。ほんとに……色々あった」


 ぐっと体を伸ばすフレア。

 そのしぐさ、胸が張って目に毒だからやめてほしい。

 

「しかしすごい数だな、さすが大陸中から集まる試験」


 ――リベルティア帝国騎士入団試験。


 合格すれば人生一発逆転、騎士爵を得て帝国貴族の末席に名を連ねることになる。

 受験資格は、18歳以上であること。

 合格条件は、強いこと。

 そして、帝国騎士は堕神と呼ばれる化け物から人類を守る盾となり剣となる。


 神に挑む騎士を選ぶ試験、ゆえに難易度は常軌を逸している。

 毎年数万人の一般枠、つまり俺と同じ下民の受験者がいるのに、全員不合格。


 ――下民。

 

 リベルティア帝国以外の諸外国の住民を帝国民は、蔑むようにそう呼ぶ。

 

「よぉ、フレア……そいつ下民じゃねぇのか? なんで一緒にいるんだよ」

「あ、グレゴリー君」


 総司令本部に足を踏み入れたときだった。

 フレアと同じ黒い制服を着た強面の男が取り巻きとともにこちらに歩いてくる。

 あれは騎士アカデミーの制服、つまりフレアの同級生かな?

 

 髪が真っ黒な俺を見て、一目で帝国民ではない下民と決めつけられた。

 まぁそうなんだが。


「おい、下民。近いんだよ、あとくせぇ。フレアから離れろ。……フレア、そいつとどういう関係だ」

「へぇ? わ、私とノアの関係? そ、それは……」

「友達だが?」


 そう答えるとなぜフレアがむすっとしている。まさかさっきの事件で友達から変態に降格してしまったからだろうか。

 しかしこのグレゴリーと呼ばれた男、間違いなく俺に敵意を持っているな。

 あとたぶんフレアが好きだ、フレアとしゃべるときだけ声のトーンが一つ上がってる。

 あとめっちゃ胸見てる。もはや凝視だ。


「はぁ……皇帝陛下のお慈悲でこの日だけはお前みたいな勘違いの下民が帝都に集まってきやがる。フレア。こんなのと一緒にいるとお前まで低く見られるぞ」

「余計なお世話だよ。友達ぐらい自分で選ぶから。と・も・だ・ち・は!」


 なんか怒ってる?

 そういってフレアは俺を引っ張っていく。

 俺はすれ違いざまにグレゴリーに舌打ちをされて、足を蹴られそうになる。

 俺は足を上げてガードした。

 俺は振り向いて、グレゴリーをにらむ。


「ノア、どうしたの?」

「いや……別に」


 にやにやと笑っているが、こんな奴も騎士を目指すのか。

 今すぐその性根、叩きなおしてやろうか。いや、ここは俺が大人になろう。

 いつまでもスラム育ち、売られた喧嘩は買い叩く主義ではいけないからな。


「じゃあな、プライド無しの玉無し下民」

「……」


 前言撤回、絶対泣かす。

 


◇数時間後。



 予選を勝ち残った百人ほどで行われる帝国騎士入団試験、本選が始まった。

 本選は円形のコロシアムのような闘技場で行われる。

 帝国民の数少ない娯楽として、毎年一般に開放され、多くの観客が新たな英雄の登場を楽しみに待つ。


 すると闘技場全体に、アナウンスが響き渡る。


『今年も英雄を決める闘いが始まる!!  お前たち燃えるような熱い試合がみたいかぁぁ!!』

「おぉぉぉぉ!!!」


 そして始まった帝国騎士入団試験本選一回戦。


『……おっと? これは珍しい一般枠から本選出場! 下民のノア!』

『そして……これは運が悪い。下民の相手は、アカデミー次席! グレゴリー・ノストラム! 血は見たいけど殺しは無しで頼むぞ、グレゴリー!!』


 ノアとグレゴリーが闘技場に現れる。

 両者向かいあうが、下民のノアの倍以上の体格のアカデミー次席のグレゴリー。

 誰が見ても虐殺にしか見えなかった。



◇ノア


「お前も運が悪いな、どんな汚い手を使ったか知らねぇが本選まで来たのに、この俺様と当たるなんてよ」

「いや、運が良い。お前と当たれるなんて」


 俺を見下すグレゴリー、俺は鼻で笑いながら睨み返した。


「下民は……嫌いなんだよ。なんでかって? 身の程を知らねぇからだ」

「俺も嫌いだぞ。生まれが良いだけで、自分が偉いと思ってる奴が」


 グレゴリー君は、血管がぶちぎれそうなほどイラついているようだ。

 めちゃくちゃ怒ってるが、先に仕掛けてきたのはこいつなので、遠慮はしない。


「フレアはな。俺のような貴族で、剣の才能があって、強い男の隣にいるべきだ。間違ってもお前みたいなカスじゃねぇ」


「それはフレアが決めることだ。それにお前とフレアじゃ釣り合いが取れないだろ。顔も強さも、何もかも」


「下民ごときが誰に向かってそんな言葉を吐いてるかわかってんのか?」


「悪いな、口が汚くて。スラム育ちの下民だから許してくれ。貴族のおぼっちゃん」


 ブチッ。


 何かが切れる音がした。


「試験でな……たまに死ぬんだよ。お前みたいな思いあがったバカな下民が」

「それは物騒な話だな」


 グレゴリー君は、ゆっくり剣を抜く。

 刃先は潰してあるが、金属の剣だ。鈍器として優秀すぎる。


「お前もその仲間に入れてやるってんだよ!!! 死んで詫びろやぁぁ下民風情がぁぁ!」


 全力で振り下ろされた剣。

 当たれば頭蓋骨陥没、いや普通に死ぬな。


 俺も剣を抜いて、その剣を優しく撫でるように受け流す。


「ほら、フレアとはレベルが違う」

「はぁ?」


 態勢を崩したグレゴリーの顎に、回し蹴りを一撃。

 グレゴリーの脳は揺れて、白目をむき、スイッチを切ったように全身が弛緩した。


 ドサッ。


 そのまま受け身もとれず失神し、闘技場に倒れた。


「「…………えぇぇぇぇぇ!!!???」」


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