第8話 諸子様々

「おはよう」

 夏休み初日、登校時間に霧子は玄関にいた。

「今日から夏休みだよ」

 パジャマのままの僕、黄色のワンピースを着た霧子。

 いつもと違うことはランドセルを背負っていないことくらい。

「そうらしい、だから八雲と課題をやろうと思ってな」

 そう言うと背中に隠すように持っていた『夏休みの課題』をグッと僕の顔の前に差し出した。

「えっ? 僕の家で?」

「いや、友達とやる宿題は図書室と決まっている、そうであるべきだ」

 フンフンと鼻を鳴らす霧子、きっと憧れていたんだろう。

 友達と図書館というシチュに。

「早く‼」

 玄関で急かす霧子、僕は急かされるままに着替えて課題をバックに詰めて家を出た。

 朝7:20…図書館到着は7:45

「まだ開いてないね」

 そのはずである。

 開館まで75分ある。

「そのようだ」

 きっと霧子はスケジュールを変えることができない。

 決まった時間に決めたことをやる。

 夏休みといえど、同じ時間に迎えに来てしまう。

 たぶん土日は来ない。

 約束をしない限りは来ない。

「困ったな…」

 霧子は珍しく困っていた。

 予定外の空白時間75分に何をしていいか解らなくなっている。

 自分で誘った手前、罰も悪いのだろう。

 僕は気を利かせて

「あのさコンビニでアイスでも買って食べながら待ってようか?」

 霧子の顔がパーッと明るくなった。

「アイスか、そうするか、うん、そうしよう」

 そう言うと、霧子は僕の手を引いて足早に歩きだした。

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