第5話 意義憔悴

「えっ?」

 先生は明らかに動揺していた。

 担任2日目にして、新入生に圧されていた。

 この頃から霧子は圧が強い。

 4倍は生きているであろう相手にも、その圧は遺憾なく発揮される。

 抑する気もない。

 駄々洩れる圧、そう剣豪が納刀していても放つ気のようなものだ。

 立ち合っただけでわかる力量の差を先生は感じていたに違いない。

 しばらく無言の時間が流れ1限開始のチャイムが呑気に流れた。

「じゃあ…教科書を開いて授業を始めますよ霧島さん座りなさい」

 先生の声は上ずっていた。

 そーっと振り返り霧子を見ると、立ったまま先生をあり得ないといった顔で睨んでいた。

 霧子は立ったまま1限目を終えた。

 先生は黒板のほうを向いたまま1度も振り返ることなく授業を進めた。

 僕の6年の人生で一番、時の流れが遅く感じた45分間だった。

 結局、霧子は、その日ずっと立っていた。

 立ったまま授業を受け、立ったまま給食を食べた。

 昼休みも立ったままだった。


 授業が全て終わると、霧子はランドセルを担いで下校した。

 もちろん僕の手を取って。

 無言のまま歩く霧子、その横顔は凛とした表情ではなく悔しそうな顔。

「あのさ…」

 今日は僕から話しかけなければ、そう思ったのだが言葉が続かない。

 ピタッと足を止める霧子。

「どうしたの?」

 言い終わる前に霧子は泣き出した。

「うわぁ~ん‼」

 感情を爆発させたようなギャン泣き。

 意外でもあったのだが、僕は少しホッとした。


 泣いたまま別れて翌日

「おはよう」

 霧子は、いつも通りだった。

 変わったことといえば…担任が休職したことくらい。


 僕はいまだに、その時の担任の名前を思い出せない。


                      ミス・ミスト質問する 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る