未来の中で共倒れ

草森ゆき

あるいは無題


 誰もおらへん夜の海岸沿いを一生ここにいよかなと思いながら呑気にぼんやり歩いてた。夏が終わってもうじき秋やけどまだ暑い日や。俺の前を歩きながら永崎は楽しそうやった。俺を振り返り見て、ほんまにええんですか、と楽しそうなまま聞いてきた。ええよ。ええんですか。もう今更やし。ほんまに言うてますか。ほんまほんま、永崎の好きにしたらええやんか。

「鷹島先輩は何があったんやとしても、最後までおれに付き合う意味はあらへんのに」

「せやなあ」

「見てるだけでも、共犯になるんちゃいますか」

「まあ、それはそれやん」

 永崎は立ち止まって体ごとこっち向いた。波の音が内緒話みたいな聞こえなさで響いとる。夜空はほどほどに曇ってて、生ぬるい潮風が海のほうから吹いてきた。海水の臭い。死にながら生きとるような、すべてが半端で未完成な臭い。永崎はそれを嫌がるみたいにターンして、海に背中向けてどっか行こうとした。どこ行くねん。追い掛けて隣に並んだら見下ろしてきて、こいつ昔は俺より背え低かった癖になあと思うてる間に一回だけ抱き締められた。腕伸ばしたけど抱き返す前にさっさと離れていかれた。なんなん今の。聞いてみたら鷹島先輩て土みたいなんよなて罵倒された。

 どついたろかな思て手え出したけど、

「遠くに住んどるばーちゃんの家、畑あるんですけど、おれそこでゴロゴロすんの好きで、先輩とおんなじ匂いするねん」

 とかなんとか言い出したから、中途半端に上がった手はポケットに突っ込んだ。

「俺、田舎じみとるんか」

「そういうわけちゃいますよ。なんやろ、ここにずっとおれたらなあ、と思うというか」

 せやったら俺と一緒やん。ずっとおったらええやん。いつまでも、ここで駄弁ってたら、ええやん。

 そう言えたら俺はめちゃくちゃ主人公やったけど、そうやないから弁えた。

 ──おれ、親父のこと殺そうと思てるんですよ。

 そう軽い調子でめっちゃ世間話の顔で言うてきた永崎のことを俺はずっと自分の主人公やと思うてて、こいつと知り合った五年前から俺はこいつの生き方ばっかり気にしてて、どうなってまうんかどうやって生活するんかいつまで俺の主人公でいてくれるんか、考えたり考えんかったりどんな結論になろうが俺は永崎になんの影響もあらへんかったとしてもだからこそずっと横におる。

「ほな行きましょ、鷹島先輩」

 親父ぶっ殺す現場に連れてこうとする永崎の顔はどんな快晴よりも清々しくて眩しいねん。初めて会うたあの日と変わらん。

 こいつは生き方がずっとむごいままなんや。

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