~清廉潔白~(『夢時代』より)

天川裕司

~清廉潔白~(『夢時代』より)

~清廉潔白~

 滞り無く新緑が降りて来る夏の日の夜空、ふと奏で足る不幸の柔(やわら)は有を以て孤高を飛び成す誘惑の騎士へと姿を変える。轟々とうねり山川を騙してその儘至極鍛錬された海への崩壊を季節から成る尽力の下にて烏有に結する魅惑と知った今、小言に耐え得る連呼を唱する人の性質(たち)は唯焼噛みに埋れて飛ばず語りをして居り、無闇に呟いた人の緑には相応の魔の手が終ぞ掴み損ねた秀才の火の玉と尽力とを課し、所々で燃え行く歌の昇華に一身を正した。〝悪魔の剣〟と称する物は白粉を研ぎつつ夕闇に消え、小波めく光沢(いのち)は漲り溢れた外に在れと内心から得た侮辱に蔑み記号を重ねる獣数字に拍子が程好く訪れ、人間(ひと)は自ら消え行く痩せの我慢の結晶に人間(ひと)の温みを程好く掴んで淡路を辿り、光の国から牙を取り得た結束の未熟(オルガ)の体にて浅く垣間見、崇高重ねて、云わば穂先を剣に呉れろ、と抑揚付いた人間(ひと)の無双が天から転がる熱の純化を一端に唯整え遣る迄そっと根心算り、行くは三寒極まる固有の主の園へとその身を侍らすのである。丘陵高まる山間の麓では一途に働く農村部民に敷いたオルガの花が束を抱えて都会へ下り行き、根白く咲き切る優良の馬酔木の枝にふと又禁断の果実の具合が程好く実を付け歌を唄って、黒々燃え立つ蛇の襲来に夜雲が鬱蒼と茂らす人間(ひと)の愛羅の冷め行く紋黄の性(さが)を、一点、寸分の狂いの無い儘紋白を付して羽ばたく蝶々夫人に嗾け事無きを得る。白色に乱れた大火の審判とは又、辛辣に盛った尋常の気鋭を何処より冷ませず運用の満たしにそこそこ燃え尽き新たを産み付け、産み付けられ得た群庸の河岸には日向が栄える火の粉に相する魅力の厚顔があわよく慧眼に賭した人間(ひと)の熱(ほのお)を一端とさせ得て新緑に満ち、未知なる山の麓へ身を遣る頃から何処と無く又燃え切ったゆうかしの合力に生産を唱える案山子の晴嵐さえ止み、今又尽力重ねて人生終え行く骸の姿を丁度遍く陽の麓で満ち満ちて己を成した陽天の紛いが一新にすら強直を植え付け、山を下り行く案山子と成った。案山子は踵を打たれて高い夢から落ち行き、雲の欠片に水蜜の煌めきが時折人に見せた新たな計画の程を又、人の世にて見出し、他から手を出せず又洩れない様にと人の結界を張り詰めた頃にはもう直ぐ息衝く闇夜の光年がひたひた静かに脈打った。人は湖の畔迄来てすっと歩を止め、身嗜みを整えるのに三日掛った紳士の成れの果ての宙を鬱と呼んで時は久しく、流れ過ぎた時の効用は人のオルガを程好く温め冷まして又異国の地へと空転し始め、まさか明りの点いた豪邸紛いの新緑の社の果てに己の夢が在るのを人は見頭を掲げて、天へ向けたその頭(こうべ)の下には余りに地が近過ぎた為天迄の高さがその夢想家へ贈り物をした。贈り物は幻と成って錯覚と呼ばれ出し、地上で見るのが初めてながらに透き通って太陽が覗いて、その眩しさにくらくら揺らいだ眼の縁では科学(ついきゅう)への諸刃が根差して人を地上の人に仕立てた。論理を追究するべく地上にだけ生き残ろうと全力と全能とを試みた青年少女は杖を借りずに山岳から平野へ駆け下りる迄険しさに険相を突き立て唯脇目も振らずに自分が男女のどちらに在るかも知れない儘にて唯究極の地に足を立てるに尽した。〝哀れな狩人〟と男は呟きながら、女は歌いながら、既に誰も居なくなった無重の土地に帆を巡らせて自分達の舟と成らせ、喇叭の代わりに口笛吹きつつ何事も唯生きる為にと軽んじて行く。如何でもこの地に自分の論理を追究しながら程好く自身に納得の歯が立ち向く迄手を止められずに想像を止めて、安きに勝る暗雲は無し、人の欲望(よく)は瞬時に決して内はピンクに果ては独房の体裁(いろ)に唯落ち着くものだと儘に縋って酔狂吹きつつ、神と悪魔を己に飼った。先刻承知の無理の刃が時折空を切りつつ〝轟ッ〟と唸って自身達の胸中(むなもと)へすっと届いて行く頃、只管日照った陽光の明度が又人の目前に咲き付く幻を呈する様に帆を立て唯南を向いて控除を吠えつつ、まっしぐらに焼く野望の穂先は木蓮の命に届かずである。白色の幹に寸鉄狂わず嵐と成れば人の脳裏は宜しきを見て頃合いを知り、牧師と信徒が恰幅呈する阿漕の園まで蹂躙する程身を粉にして働く姿が一輪の花の様に芽吹いて愛でたく、密かに闇の内に立脚し行く新参の芽には未来を予知する慧眼を欲した母性が又仄かに己を制して立ち行く姿を今際の園へ映しても居た。俺は小鳥が空で三十二度囀った嵐の小声を他所耳に捕えて異国の地を去り、硝子に埋れた宝石の港へ白雲が己の先頭へ車輪を燃やして独走(はし)って行くのを両目で見知り、海鳥と渡り鳥が烏の鳴く音(ね)を聴き付けパン屑を片手に海辺に佇む黒い主を認めた後で、己の脚色をどの様にしてこの青く咲いた海と空とに同調しようと気を滅入らせて居た。その黒い主は名を少年と言って巷の都じゃジュニアと称され父母や他(ひと)から大事にされたが、孤高に生き孤高に朽ちるを目下に束ねて他(ひと)から離れるを良しとした為住処を乱さず獲得し得ず、努めて見たが結局無意識の内に自分の住処を温存した為町から離れた。昼の光は陽を照らして夜の光は遠慮を蔑み、朝に成れば人の世界が一転すると先人の小言が連呼するので耳を塞がず泳いで聞いて、陽が茂った日向の陰を悠々散歩し草分けながら、己だけが知る神の家を求め始めた。目前へ佇む唯黒く塗り付けられた人工のスクリーンには何時か果て消え行った蔑みの霊がどよめき、踊って少年の家迄闊歩に根付いて住処を荒らし、小麦がその収穫の時を人に忘れさせた為烏麦の内に身を燃やして失せさせ、辛子種の入った小さな人体(うつわ)が白く乱れた街道の畔へ漸く穂立ち目標を見た頃、大人に疲れて羽を拡げた一匹の主(ぬし)の背を見た。

 直ぐ目前には大きな沼が降り立ち、空は鳴くのを止め、白雲は何時しか気取らぬ太古を収めて懐へ立ち、母が示した愛情(あい)への導(しるべ)は女の見知らぬ所で曲を憶えて泥濘み打った。悶絶に取り乱さず少女が唯目前に現れるのを待ちつつ街の中身は空虚に灯って、ノベルが叫んだ人の哲学(むそう、又はゆめ)を猛省しながら辛酸舐めつつ、それでも人の修行と我を忘れた人間(スター)が密かに記した巨人のコートを闇に隠れてこっそり着出して、目上が空に懐いて地上(げんじつ)に戻り行く頃、芽吹いた闇の新芽は日向を知って界を失くした。少年・少女が小さな精神(からだ)に共鳴奏でて小さき歩幅(あし)にて街を出る頃、探偵が踊る白く塗り付けられた教会へと行く小道(みち)の果て迄誘導して行く黒尽くめの相を見た。見知ったからには動転紛いに皺寄せられた人の煩悩には失極の知恵(ほのお)の灯り等胡散霧散に消え去り姿を見せて、躍動して行く小人の主に精神(おもい)を寄せた。密接から成るあめんどうを拡げた少年・少女の空想(おもい)の具体は夫々一端の帆を張り空海を渡り行く商船の身を採り再来させ行き、もう一度自分達の若い記憶がこの地に於いて甦るのだと親身に成りつつ又空を飛んで、人の限界(かいわい)を越えて見ようと生命(いのち)を懸けた。五月半ばの新緑の頃に咲き置かれた幼春(はる)の事である。

 俺は目に入った塵か土を丁寧に海の水で乾かし洗いながらに唯天の川の畔に永遠を持つ二匹のピースに狭い襲来を見て居た。如何でも此処まで心身(からだ)を引き寄せ、来い、と命じた川の主(あるじ)は手っ取り早く俺の胸倉をぐいと掴んで田舎へ放り、明日は未来に櫓を立てた郷愁のアジトを焼き尽くすのだ、と張り切り歌って俺に聴かすのを得手として居て、如何でも体裁の悪い御仕置きの軍歌を手を振り脚を振り、お腹を振って尻を上げた臨終の社(やしろ)が遠に忘れた己の教訓を手笠に曇らす迄は、遂に果(さき)見ず俺に知らぬ処であった。俺はこの夜、布団を出来るだけ首深く迄隠して温みに眠り、十(とう)を数えぬ間に間に聡明隠して胸面(むなも)に温め、知らぬ内輪に虚空を旅するロマンスに深みを得て居た。都会を走るリニアモーターカーを称した鉄道が黒光りする稲妻を地中深くへ何本も落して人を蔑み、そうであるかと是正を得れば次は歯に目を剥き出し子供を乗せて、人の郷里へ旅する流れを路(ろ)に持ち人を包容(つつ)んだ。俺はそうした邪な自然の動静(せつり)に関係無にしてすいすい飛び行き、鉄柱銅柱、銀柱、人柱、数を映さぬ構築の矢の内を無頼を称して解け込み廻って、勢い余って柱の様に銀光りした黒い電車(てっちゅう)に体を打ち掛け地上(ホーム)に立った。夢想に火照った恩知らずの傀儡達には哀れに堕ち行く人の良心に闇が差すのを知らず、その闇とは人の内から出るものであり、白いマントを優雅に着熟す狙撃手の目にふと又恩寵の落ちて行く頃、この世に咲いた演劇場(ビックリハウス)はシナリオには無い空虚を描く。そのシナリオとは又人が取って付け得た対象(もの)として在り、神が用いた人への存在(もの)とは凡そ違いつつ人には真理が程遠い彼方に在る為取って来るのが億劫と成り、何れは全て片付く、と軽く見るふしだらな肢体(て)が如何しても止まなかった。茶色く濁った机上に色取り取りに綴られて行く半端な温度は唯一滴の人の区域を越えずに片言と成り、音に消え行く理想(ゆめ)の増加は何時しか忘れた色彩に帰す。有名無実に明け暮れ咲かせた世紀の萌には個人(ひと)を象る成熟の笠が霧散に解け込み、宇宙を成した人の温もりによっぽど無理を通して孤高を拵(こさ)えた俺の労徒が暫し漂い、泡ぶく青星に聞える個人(ひと)の温度は無理に解け入る自然の熱へと姿を変えた。唐突に人の孤高を塗り替え行った哀しみのドグマは唯矢張り何時まで経っても人の思惑(こころ)を抜けずに咀嚼を返して、唯独り身の自在に友好染みた微かな吐息を心行く迄堪能しようと常識に嫁いで、他人(ひと)は他人(ひと)にて馬車を抱えて奥地へ行こうと所々に忘れたドグマを自分の〝帰路〟へ目立たせ生かせた。白紙に返る嗣業のドグマは言葉少なに軌跡を隠して、やがては消えない世紀を繋いだ人形(ひとかた)の体(てい)にその実(み)を落して小言を終え行く聖所の功へと暫し佇む。急に芽吹いた初春の息吹は初夏の息吹へその実を呈して明媚を乱さず争い隠して、やがては無駄を所々で向き行く醜女(しゅめ)を唄った。〝醜女〟は自ら飼葉に寝かされ得たあの手練の飯綱を陽玉として、その身を囀る孤独の木霊を山から川へと青と白へと成り行き見果てるモンクの色相へ迄その身を昇華(のぼ)らせて行く。はっきりとしない薄い夕暮れの麓では子供が心行く迄堪能し終えた白色のドラマが沢山芽吹いて次期を待つ様に終着と帰し、良く良く豚と見紛い捕えられ行く正義の肢体(てあし)に人の温みが貴重と据えた未来(さき)への起点を現在(いま)から構築(つく)り終え行く盲春の砦と姿を化かして、焼噛み果てずの人の微熱は地表の氷を程好く溶かす。そうして出来た新たな土台は唯人の為にと構築され得た未知のドグマを省みない儘前身して行く遊撃戦士(ジャンヌ・ダルク)を片手に持ち上げ、片手間に作り終え得た人生(ぶたい)の上には花を射止めて霧散に失くす駿女(しゅんめ)に聞えた光の程度が自由を尽した活気を飛び越え、臨界に燃える執念(ほのお)の主(あるじ)を我に諭した。春風止んだ、五月晴(あわ)い日の事。

 俺は唯自然の織り成す空虚の内にて体を畳んで上手に飛んで、見えないPhoneの内輪を体を隠して動静灯し、体に付いた吝嗇の火の粉は上昇しながら空へと消えた。まるで周囲を感じられずにその気配の程度(ほど)は子供の様な脆弱(よわ)い心音(おと)さえ聞き分けられずに成人(おとな)の息吹が密室に在り、素早く解け入る人の思惑(ながさ)は世間に於いてサインと成り得た。俺の目前に礑と姿を止めて一本の電車が白銀に染め上げた車体(からだ)の程度(ほど)を屈曲絶えない陽(ひ)にぶら下げられ得た彼(か)の心音の様に微弱に鳴くと、前面に押し出た車掌の席では祭が奏でた一匹のオルガが佇み俺の眼に愛着寄せて、〝先へどうぞ〟のサインを寄越した。サインを貰った微弱の俺は到底叶わぬ未知が保(も)ち行く伯爵の表情(かお)したときの王者が生きて何かと結託して居り、「何か」は分らぬときの粒子に時折触手を延ばして自ら転ぼう等と夢に打ち出た弄(あそ)びを強いて、敷かれた絨毯(ぬの)には王者が貫録纏って何処へ歩く昔の余韻をたっぷり現在(ここ)迄解いて織り交ぜ融合し得て、俺の志向(ゆくえ)に靄を立たせて地域(みっしつ)を見た。見知った金銭(あぶく)は滔々と流れて溜まる現実に咲いた貯金の様に厚く積まれて、子供と成人(おとな)がその境界線を如何して引くのか教わる者も教える者もこの地に生きた行者は知らずに、恐る恐るの体して又振り返る奇跡の静寂(よいん)に酔い痴れる迄、薄弱迄見た人の生き血は行方を知らさぬ。孤独を呈した夢の主(あるじ)は机上に振舞う一線を画して何処まで見行く精霊の屹立から成る人の労使を弓形に聴く希望の深淵から成る渡航の進路に指折れる思惑を終ぞ奏でて、根絶やしにされた己の心労の程(ていど)を束の間誰かに見知って貰おうとまでこの世で信じた。俺がこの世で初めて目前(め)にした少し変わった暗闇の創造(えき)には、まるで純金で建てられた様な人柱が六本から八本視界(め)に映る限りで用意されて在り何処迄行けどもまるで又同じ景色をその構内で見行く事と成り行き、必ず〝同じ〟では無い〝駅構内〟に咲く夢の模様は覚醒(げんじつ)に置かれた俺の母校を模した純銀の環境(せかい)を上手く騙した。構内に歩く黒色と白色とを見分けたまるで自然(ドグマ)と結託した様な朝(かっき)の程には俺の飛ぶ余地が全く無い様でもあり夜には羽ばたき、〝場所〟そのものが宙に浮き行く神秘(げんしょう)の体には人を映し行く自然(モータル)の在り処を呈した。涼風が人の間(うち)を通って温い午後を生やす六月の様である。俺は自身の目前にぴたりと止まって笑顔を見せない会釈を講じた白銀の素人に軽く帽子を脱いで会釈(あいさつ)を返し、〝笑わぬ男〟の凡庸に灯され得たあの巨畜の不問に灯(ともしび)置かれて自身(このみ)はやや俯き加減に前身して行き、もう直ぐ自由を取り巻くこの駅構内を進み行って未知(とき)へと飛び込む自分の末路を宜(よ)しなに射止めた体を試算しながら転々(ころころ)変る金箔の時流(ながれ)に身を染ませて行く。ふと一張羅を来た少年(こどく)の住処がオルガを隠した一室を西欧の納屋の内へと闊歩を以て独創して行き、汗水垂らして嘆いて出来た季節の社は一匹から複数を束ねた新参の窮屈を灯す鼓動に飢えて勝利を確し、合せ手に見る少年(ひと)の仕合せをドラマを構築し終えた初春(はる)の先から晩春(とき)の内へと目的以て携えて行き、会いたい性格(ひと)に合せる音頭を現在(ここ)にて躰に憶えた。七つ星に至る至高のドレスは時を越えつつ思惑の内で、人の尺度に熱(ゆめ)を得させて麻疹に罹り、七日後(なのかのち)には温まった空虚を取り去り口笛吹いてリズム逆手に怒張を運んで、常盤に満ち得た人の能力(こくう)の内には一匹の渡航鳥(からす)が飛んだ。渡航鳥(からす)は白波を立てて大陸(ゆめ)から大陸(ゆめ)へと移り飛んでく黒色の肢体を仄かに隠して陽を落し、初夏には飛ばずの寡黙なモンクを深海(こんいろ)の底まで引き摺り込むまで体を回転(まわ)して歌声を呼び、供に連れ添う相棒の魔の手を自身の肌から引き離したまま渡海(わた)って行く海鳥の一片(はね)を無闇に化(か)え行き、孫悟空を醸した幼少(どぐう)の具体(ていど)を又片手に乗せて躍らせた儘、〝奴ならこの狭地(きょうち)をどんなにして飛んで行くのか、こんな建物ばかりで障害とも成るキャラが密集して居て、気を遣らねば直ぐ様墜落しそうな在り来たりの地を猛スピードで飛ぶ、とはどんな技術か…〟、等と困惑して居る。まるでシャンデリアが灰色の内にてぴかりと光って己を訴え俺達が飛ぶ狭地の具合(せまさ)を所構わず拡げて行く程有力(ちから)を翳す雨天の下を、滴が空から尽きて地中へ染むまで傘を差した乙女心へ配慮も無しに生きて行こうと成人(おとな)の賛歌を唄って居る頃、俺の麓を泥濘に住む一羽の白鳥(とり)が舌なめずりして頬寄せ足寄せ羽寄せて来て、泥濘(ここ)でしか味わえぬ御馳走なのだ、と一端の口調を採って俺に見せて来たのは丁度七月に差し掛かった俊敏の頃にある。〝鵂(みみずく)は居ないのかい?〟等俺が自身の屍に生命(いのち)を灯して明度(あかるみ)に翳した己の四身(ししん)に生在る文言を垂れる頃には川の蛙(せいあ)は鳴くのを忘れて青空(そら)へ飛び立ち、残った泥濘の面では賢い小鳥(とり)が己を拡げて巣立とうと環境(あたり)を見定めて居た。白日に消えた蛇には終ぞ、己を擡げさせた誰かの手文(しゅぶん)に白紙(あまり)がどれだけ残され得たのか一向気付けず、後戻(こうかい)し得る博虐(はくぎゃく)の私運に迄逝く運起の改築を急かされ、気取りを覚えさせられ得た蛇は言葉を知り得て人に就(あた)った。霧雨が立つ程の地表の海辺を沖まで出ずに躰を濡らし、気運の間に間に進み行く思惑(こころ)の帆を立て泡(あぶく)を蹴散らす両腕(あし)は闇に向って滴の間をすいすい抜けた。掴めぬ自分の砦をこの現実の内で唯どのように改築して行くかを彼(か)のモンクに宛てて手文を届けて見るも慌てた様子で時は薄暗い時空の内をメトロに潜るように体裁隠せず人に知り得る処と成り行き、唯何もして居ない様に見えた自体(じぶん)の醜態を個体の内へと隠し込んで、白紙は今日にも又俺の目前へとその身を羽ばたかせて遣って来るのだ。昔、遠い記憶の内で拾い尽した今は小雨の経験(もんどう)を今ここで、まるで玉手箱でも開く様に自体(じぶん)を開いて話をでっち上げれば、一思いに白雲の上に拡がると夢見て知った安獄の領土へ自身が何者かにより又昇華させられ得ると単色に奏でられ得た昔の音楽(きおく)が唯一線引かれる様に現在と過去とを勝手に分けられ得た己の所業の内で、自由に向った夢の手綱を緩めながら彼のモンクが自体を飛び跳ねさせては又宙へと帰還させられ行く自然(うんせい)の様な周囲に圧倒されて、顔と体が頃合い好く青白く覚めて行くのは目下俺の行方(あしもと)へ転がって居る。夢が呈したお伽の話は遠の昔に潰えさせられた古参の種馬の様なものであるのに、その脚力の程度(ほど)は琥珀色に輝かされてその明度を目に失い色彩の見分けさえ利かずの痩せ馬の様に何も小言を言わなく成りつつ、俺が飛び出たお伽の国の外の国では既によぼよぼに体を屈して仕舞った一匹の主が自身の欲求に敗けた或る種御殿に似せた余分な自宅をそこから遠い自国(くに)へ造り上げ、未だその自宅の内へは身を寄せられず思惑(こころ)も寄せ切れずの刹那に浮び得た季節がもう直ぐ冬の周りへ着きそうな頃、偏に喜ぶ幻惑の鼓動はその老人(おとこ)の密室に啄まれ得たあと春の糧(み)に成り、誰もに教える季節の襲来は寒さ知らずの人の夢想に何輪もの実(はな)を付けて行った。自身が独り身ながらに自然(だれか)の奴隷と成りつつ何時まで経っても他(ひと)の結婚(しあわせ)だけを眼に収めて勇み足にて夢(からだ)を重ねる徒労を憶えた初春(はる)には、一度でも声を響かせ得た事があるか、と自身と時の呈する無色の壁に釘付けした儘、二度と還らぬ固陋の遊戯に漫ろ歩いた身の枷を外せたと信じ込みつつ自然(だれか)が教えた〝魅惑の園〟を仮想(ゲーム)の内に見て、〝言うは乏しき装うは易し〟と己を解し得た闇の吐息に喜び勇んでしどろもどろに独語を吐きつつそれでも頻りに、雨の降る夜への旅路に就けた己の自由は、もう何処へも行けずに行かずに、又他(だれ)にも邪魔され得ぬ内に自分の身分を構築し得ると俺の本能の肢体(てあし)は第二の目と成り、俺を園の内へと舞い戻らせて居た。行く行く自然(だれか)に解体され行く女性(おんな)へ向けた自衛の武器(からだ)は手足を付けて天まで昇ると決めた覚悟の程度(ほど)を自然に示して己を後に付かせた。伸びやかに咲いた青空へ向く自粛の闇討ちには何時か現実(ここ)まで生きる内で俺が知り得た経過の具現(はへん)に己の熱を算して乗せ得た〝華の悪〟を身内へ飼い殺すに成功した一匹の群像体をナイフで切って胡散に帰して、吐息が未だ青白く光り宙へ止まり始める初冬までの季節(あいだ)で自身を総体とする一匹のオルガに妖精の羽ばたきでも見知らせ侍らせながら、蝙蝠の一匹闇討ちへと消え行く様に飛び行く夏から秋の変わり身の早さは俺に存在せぬ程陽気を灯した自然への生死への画策を程好く想わせ、躰を宙(そら)迄飛ばせて哀楽を尽きせぬ廃屋の闇討ちへと解体され得る自然の後退を身内に於いて感じさせ得た。新しい夢(きぼう)が既知の園に置かれたコンピュータの様な制御に制御されずに自体を宙(そら)の闇へと自体(からだ)を隠し切る頃、俺の住処は現在には無く高く構築され得た子供の園の内へとその身を任せた。旋風(つむじかぜ)が舞う巷の澱で俺は自体(じぶん)を宙(そら)から見つつも具に見取れず、如何して煌々と流れる人の動静(ながれ)に付き合って行こうか、真剣に懊悩した時期がその澱の内でも感じ取れて、見る見る自体(そのもの)を大きく引き伸ばして行く暴力の筵へ俺は躰を引き寄せられつつ牧師を嫌い、或る信者を呪って居た。〝キリスト者〟という新しい言葉を具に見詰め、睨みながら肉欲にしがみ付いてるその懊悩の源(もと)が何処まで流れて何処で潰えていようか真剣に思いつつも今朝に在る同じキリスト教会に身を寄せる年増の女性(おんな)から言われた身の上相談が功を奏して俺を引き留め、未だ教会内に燻り残る醜態(みじゅく)な残り香を睨め付けながら不変に構えた虚空(そら)を見詰めた。見詰め上げた矢先には矢張り不変で居座る白雲に敷かれた個人(ひとつ)のパラダイムが在り、俺の傍らに居続け駄弁を啄み掲げた不良の幼児を手許へ置いて、如何して未熟がこうもこの身に伸し掛かるのだろうかという恐怖(ゆうき)に震えた。何処でも何時でも在るものながらに加減を知らぬ自然(げんじつ)の動静(ながれ)はその身を拡げて思考を牛耳り、寄りたくも無い身の上話に首の痛みを気にしながらも延々寄り付いて居た。何度か助け舟の様に他人が傍へ来俺と一人を包容する様に見返して居たが如何も止まない九月の日向に丁度程好い涼風吹いて根絶やしにはせず、俺と一人の根を持つ無駄に咲く話の種とは又、俺の思惑(こころ)から程好く離れた花壇の内に咲き誇り、帰らせまいと、俺の躰を緩く縛った。少なくとも二人の助け舟は半ば俺にも寄って沈められて行き、不良の幼児の駄弁は事も無げに気安く身を挙げ唯竜巻の様に他を荒らして、言葉の風を如何も受理し尽せぬ要塞を保(も)って居た様だ。俺は只管同じ小言を具に認めて何度も小声で話して、大喝の様に狼狽え徘徊して行く不良の賛美は真面に見えて憂いを断ち切り、何時まで経っても解決せずに、丸く成らない談話の程度(ほど)を事の流れに自然に埋めつつ次のドグマをどっちが取るのか、それだけ見詰めて夢は歌った。一瞬間でそんな現実で見えた動静(ながれ)の内実(うち)が俺に現れ声を体に収めて仕舞った為俺の体は言う事を聞かずにずっと飛び回り、今は見知らぬ駅構内をどんな体(てい)を以て飛び回ってやればこの満足が床に立脚するのだろうと孫悟空(キャラ)を思い出し、『ドラゴンボール』にこの実を据えて擦(なぞ)らせて居た。猛スピードで飛ぶ内支柱は構内に於いてもどんどん障害を表し邪魔に思われた為か次はこちらが身を上手く隠す技術(すべ)を見付けなければ成らなく、最早白紙に溜めた安堵の程度(ほど)では身が保(も)たぬとやや逡巡に偏り始めた。先程(さっき)不良が呟いて居たキリスト教会の不埒な牧師の偶像がしつこくこの俺に残って身を構えて咲いて居て、その偶像とも成る牧師の身辺に投じられ得た現実を唄う邪悪な憔悴が程好く構えて俺に向って来て居り、俺は以前に憶えて捨て得た暴力(がらくた)に就いての纏わり言(ごと)を思惑(こころ)の要所で脱ぎ捨てなければ行けなく成って抜け切らず、何度やっても上手く飛べない滑空の程度(ほど)を背後に忘れた。白紙の様に無限に拡がる夢想の大気が夢内ながらに要所で拡がり本能(からだ)を燃やして、次に来る障害等を霧の内に消して仕舞おうとして懸念を隠した。そうして飛び回り行く内に白霧に埋れた臭気の内にて俺は躰を推してすいすい滑空して行き、滑空出来る心体の蜷局を横目に収めて徒労を打消し、世間渡りに功する上手を片手に躍らせ悪態を消し、物腰弱めに両足(あし)を鳴らした体力(からだ)を抱えて固陋を賭した。多少体に自然から成る重力を伸さ張らせて居た故意識が芽生えて手足を動かせ、浮き上がった肢体に迷(おも)いを寄せつつ他を脱がせて流動を止め、止められ行った夢の内の動静(ながれ)は何時しか憶えた静止のドグマに躰を寄せつつ欠伸を知った。体に受けつつ酔いを醒ましたG(じゅうりょく)の軌道に己を潜ませ夢想に着いた俺の心は途端にGを絆して自分と夢とを結ぶ用の溶解(かなめ)とし得て嬉しく成って、その努力を続け遣る内今度は肢体(からだ)の方が満足(ゆめ)を欲しがり飛び跳ね息吐き転げ廻って、如何遣れば速いその飛び方が出来るのか、と憤悶覚えて陥落と化し、如何でも知ろうと肢体(てあし)をばたばた動かしつつも遮られた様にして在る目的迄の道程(みち)を脳裏に沈ませ、俺はそれからうずうずして居た。

 して居る内に今度は黒色をその身に染ませ景色を彩る時雨(あめ)が降り落ち、地表に近い低空の端を歩く様に飛ぶ俺の頭皮は予測を攫って身を乗り出し始めて、〝酸性雨でも降れば髪も抜けておじゃんに成るかも知れぬ…〟とおどおど口調を震わせながら吐息(くうき)は口から出ても言葉(おと)を発さず、淀みを知りつつ泥濘み果て行く諸刃の自然にこの身を押し遣る掟が呈した恐怖を知った。知らず内に随分飛翔を続けた俺の心身(からだ)はモンクを偽り古着を担いで身の粉(こ)を散らし、何処まで行けども容赦を知らない自然の巧妙につい又身を解体されて他所を見遣って、先程(さっき)把握し知り得た母校(だいがく)の領土を今度は大きく構える新緑の大学(ふるさと)へと体裁(み)を化(か)え教えられつつ、俺は一向向った目的地まで逆を独走(はし)って空間(きょり)を知り得た。今まで折角飛んだ分を換算して行き、自身(じぶん)身分を高めて高揚しようと大きく構えた余裕は微塵にも裂かれて一旦地に落ち、次の目的(やさき)に目を遣る頃を遠く眺めて止まない人の苦楽を一新し終えた秋空の月の様に静かに佇み妬みを堪えて、滔々流れる月日の無力を歩に変え夢に掲げて、動静に尽きる自然の動力(ちから)を霧散に散らせる脆弱(よわ)さを好んだ。唯単一に他とは組まずの脆弱(よわ)さの具(ほど)とは開眼させ得る迄の能力(ちから)を宿して矢張りまったり自然(やみ)に浮んで他所(ほか)と絡まり、まるで結託する様な協力の効果を見知らぬ筵の上にてひっそり飛ばして俺に見せ得るそんな効果(けしき)をこうして呈した様で俺には高価で、価値を認めるその基準の程度(ほど)が思惑(こころ)の内で何処に在るのか見当付けずの儘にて又只管欲した斬新を見させた道標(マーク)の脚色へは自ず只管尽力して行く闊歩(じりき)の強靭(つよさ)をふと又採らされ画策され得て、俺の冒険(みらい)を程好く象(と)るのは物理を呈した距離という人への廻転が程好く近付き俺を掴んで、必要以上の距離見て帰路に就くのを後悔しながら無理強いされたいろはの程度(ほど)を知らされても居た。俺の体には〝まるで思って居た駅の出口と正反対に設けられ得た入口に来た〟程度の思惑が逡巡と共に明々(あかあか)照って火照り灯って、止められぬ緑の窓口迄への俺の闊歩(ひしょう)は冷め遣らない儘継続され得て、掴み損ねた海馬の内にはそうして既に見知った空気を逆手に捉えて放擲の海へと沈め遣り行く強靭の姿がふっと現れ立膝突いて、そう成る様に、と見定め置いた試行の吐露には勇気が知り得た未熟の炎がつい束の間ながらに明々するのを感じ得て居た。そうした果てを知らずの無鉄砲が無闇に飛び出す苦心の華(あせ)を散らせながらに散々散るのを何処かで俺は深く吟味し味わい尽した快楽の歩道にすっかり変えられ得て居た魅惑が生き行く人の領土を掴み得飛ばして居た為、何処で終着点が現れようとも具に目論む速読の術を露わにする儘独力の闊歩を続けて居たのだ。白紙に横たえながらにその在り様には既に何重もの脚色を帯びつつ未来(さき)も変え行く個人(ひと)の暴走の程には常に知り得ぬ強靭(ちから)が潜んで一向止まない動静(ながれ)の行方を追いつつ無理を重ねる人のドグマが立って居るのを見て、瞬時と言えども動静着かずの飛ばない肢体の哀れな魅力にほっこりひっそり賛美を掲げて見るのを俺は忘れずに居る。同時に〝レトロ〟を匂わす暗闇の園(まち)から体を浮かせて飛び立つ間際に在った初老の男が、髭を蓄え白髪混じらせ俺の動静の程に一喝入れようと表情顰めて奮発準え発言したのが「こんな所居ったらあかんやん。何してんの?」という藪から棒の進言に在り、「あ~~でも失敗したなぁ、勢い任せで来たのがきっと俺には運の尽きだよ…」等と尻尾を振り振り振り撒き終えつつ他人(ひと)が渡った路地の内へと身を隠して行く頃その進言は独力(ちから)を呈し意識を生を此処にて再度列挙しようと異彩を放つが折見て似合わず、結局パソコン機能を上手く操(と)れない俺には反省文さえ書けないで居た。パソコン画面の明度(あかり)の内から生きたものか、一匹の羽虫が俺の周りをぶんぶん飛んで行くのが気に成って居た。

 視線を外(ず)らして自分の背後(右斜め後方)に置かれた恐らく書棚の硝子戸には画面で躍動(はじ)ける歌手の顔が鬱陶しく動いたものであり、俺の覇気は此処にて二度挫かれて居た。



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~清廉潔白~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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