第16話 薄青色の髪

 蘭くんが私の手に優しく湿布を貼る。


「藤花さん、痛くないですか?その手、痛かったら泣いてもいいですからね。僕や椿さんは、決してあなたを笑ったりしないので……」


 その言葉には全く偽りがないように聞こえた。蘭くんも椿も本当に優しくて良い人だなと思い始めていた。


「お姉ちゃん、泣くな。ほら、ハンカチ!」


 気付いたら、私は泣いていたみたい。一人を除いて本当に良い仲間に恵まれたなと思った。


🪻🪻🪻


 あたしは必死に朝陽を探す。このまま一人にはしておけない。もう日が沈むって、早く見つかんないかな……


「あ、いた!」


 朝陽は公園のブランコで一人で座っていた。隣にあたしが座ってあげる。


「なんで来たんだよ……」


 朝陽があたしを睨みながら呟く。


「俺じゃなくて店長の方行けばいいのに……」


 いや、あっちはもう人足りてるじゃん。それに……


「なんか朝陽のことが放っておけなかったというか……」


 あたしは正直に話す。朝陽を守りたいというか大切って思ってる。


「なにそれ?まあ、ありがとよ」


 朝陽がやっと笑ってくれた。


「朝陽、そういえばなんで、藤花パイセンのこと、よくからかったりするんすか?」


 今なら聞いても答えてくれるかもしれない。


「なんだろうなぁ……俺より優れてるから?"妬み"っていうのかな?自分より優れてるやつってなんかムカつくじゃん」


 あまり共感できなかった。あたしは自分より優れてる人……藤花パイセンとかには妬みってより憧れを抱くから。


「なあ、日夏って好きな人いたりするか?」


 えっ?と思わず口にする。突然、朝陽が言い出した言葉に戸惑う。何故なら私は朝陽の事が……


「俺、お前が好きだ……向日葵みたいに眩しい、お前のことが好きだったんだよ!」


 朝陽が続けて告げる言葉に戸惑う。朝陽があたしの事を好き?それってつまり両想いってこと?頭の中がはてなマークで埋めつくされていく。


「うん、あたしも朝陽が好き」


 あたしたちは頬を赤くする。夕焼けで赤く染まるのは公園だけじゃないみたいだ。


「それじゃあ、みんなのもとへ帰るっすよ」


 あたしはブランコから立ち上がり、朝陽に手を伸ばす。


「ごめん……」


 朝陽がそう呟き、どこかへ走り去っていく。きっと帰ってくるだろうと思い、あたしはみんなのもとに先に帰る。


🪻🪻🪻


 俺は一人、行く先も決めずに夜の道を歩く。


「……君が木原さん?」 


 黒いフードを被った不審者に後ろから声を掛けられる。そいつは俺にナイフを手渡してきた。


「さあ!それを君がどうするかは好きにしてね~。"妬み"で人を殺すのもいいし、自ら刺すのもいい。……まあ、君はもうしたいことは決まってるか~」


 そう言って不審者は消えた。


――そのナイフの持ち手には、薄青色の髪がついていた。さっきの不審者の髪だろう。

 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る