電脳Box孤独世界
入口から入って出口から静かに出てゆく。
その間には何もない。
そこはただ、奥行きのない電脳の空間。
そんな中で繰り広げられる見せ物市。
私に割り当てられた一画には何もない。
見せ物市にありながら、見せるべき物が何一つない。
誰かが必要とするものが一切ない。
私自身のように何もない。
希望もない。
誰かが残す言葉もない。
私自身の言葉もない。
ない、ない、ない。
そこには真実もありゃしない。
だから嘘かどうかもわからない。
だったら全ては嘘と思う方がいい。
いや、何も思わず。
いっそ、何も考えず。
ただ入口から入って、
出口から出ていってくれたらそれでいい。
私は人間不信。
そして、ここは顔の見えない世界。
どこまで行っても、後には残らず、
思い出に残らず。
触れることのできない世界。
多くの人が見ているけど、
本当は何も見ていない。
みんなが寂しいけど、一向に近づけない。
言葉だけが目の前を通り過ぎていく。
知っているような幻が、
幽霊のように浮遊している。
声が聴きたくなる。
誰かの声が聴きたくなる。
出口から出たら、見えてくる世界があって、
私はそこで暮らしてる。
言葉が恐いよ。
この言葉が恐い。誰にあてて言ってるのかわからない、
この不特定多数に向けて語る言葉が恐い。
一人に言うのも、大勢に言うのも、何も変わらず、
見分けのつかない言葉が恐い。
残る言葉が恐い。静かな言葉が恐い。
声の聞こえない言葉が恐い。
あなたが恐い。
誰かわからないあなたが恐い……
この世界が恐い……
こんな世界で生きるのが恐い……
そんな世界で、期限付きで生きていくことが、
恐くてたまらない。
でも、あなたもそんな世界にいるんだね。
あなたには会いたいと思う。
いつか、どこかで……
どんなに世の中がわかりにくくなっても、
そう思って生きているような気がする。
どんなに私自身の希望が消え失せても、
この希望だけは、とてもシンプルな形で健在している。
たぶん、きっと、この先もずっと変わらぬ形で、
私の中に存在し続けるように思う。
私はあなたに会いたい。ただそれだけ。
電脳に惑わされないで、
まっすぐにあなたを見つけられるよう、
私はここで目を閉じて耳を塞ぐ。
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