してみる?

dede

きゅん?




スクールバスから降りて家までの短い道を歩いていたら、ショウゴに会えた。

「あ、ミツキ!今帰りか?」

「うん。ショウゴは、これから遊び?」

「ああ。公園でサッカーやるんだ。ミツキも来るか?」

「いいの?うん、ボクも行く。待ってて、すぐ着替えてくるね」

「わかった。みんなにも伝えとくな」

ショウゴと別れると、ボクは家まで走った。

首に掛けていた鍵を引っ張り出すと、開けて家の中に入る。

「ただいま」

靴を脱ぐと玄関の壁に帽子を掛けて、2階に上がる。

自分の部屋に入ると、学習机の横にランドセルを掛ける。

制服を、ハンガーに掛けたら急いで動きやすそうな服を選んで、着替えてすぐに階段を下りる。

学校に履いていく革靴は脇にやり、代わりに靴棚から取り出したスニーカーに足を通す。

トントン、とつま先を打ち付けて感触を確かめる。少し履かなかったうちに、ちょっと窮屈になってた。

「まぁ、まだ大丈夫。それより今日はショウゴと遊べる。ヤッタ!」

胸元の鍵をまた取り出して扉を閉めると、ボクは軽い足取りで公園へと向かった。



入学式の事はよく覚えてる。

いくらショウゴを探しても見つからなくて。知ってる子も誰もいなくて。

ボクと同じぐらいの年の子が、みんなボクと同じ制服を着てるんだ。髪はキレイに整ってて、靴下は真っ白で、不安そうな目は落ち着きがなくて、それでもお行儀よくしようとじっと皆椅子に座ってたんだ。

ボクの友達とは全然違ってた。ショウゴたちはこんな時、じっとしてられなくてだいたい遊び始めて、先生に怒られて、そしてその事にもキャッキャと笑ってるんだ。

卒園式が、ちょうどそんな感じだった。

「ママ、ショウゴたちいなかった」

と、入学式が終わった後にママにそう言うとママは「そうね」と簡単な返事の後は何も言わなかった。

家の前に着くと、ショウゴが待ってた。おニューのトレーナーにジーンズ、そして真新しいランドセル。ちょっといつもよりかっこよかった。そのショウゴがボクを見つけてパッと表情を明るくしたんだ。

「学校で見なかったから病気かと思った。なんだ、元気そうじゃん!」

「学校……?でもみんないなかったよね?」

すると、ボクとショウゴの間にママが割って入った。

「ごめんね、ショウゴ君。これからミツキは違う学校に通う事になったの。だからもう、一緒に通えないわ。ほら、入るわよミツキ」

混乱した頭のまま、ママに手を引かれて家の中に入る。

違う、学校……?ナニソレ?

学校に入れないって言われたから、頑張って勉強も返事や挨拶の練習もしたんだ。そうしないとショウゴと同じ学校に行けないと思って、そう思ってボクは頑張ったのに。

こんなのってあんまりだと、その晩ずっとボクは泣いた。泣いて泣いて、翌日熱を出して寝込んだ。

だからボクはあの入学式の事をよく覚えてる。



「ショウゴ、ナイスゴールだったよ!」

「ミツキこそ、アシストさんきゅ!やっぱお前がいるとやりやすいや」

「そ、そっかな……?」

そうショウゴに褒められると、ついつい頬が緩んでしまう。

「でもさ、ミツキ。お前シュート撃たないよな」

「そう?」

「ミツキが決めちゃってもいいんだからな」

「……うん」

そう返事はしたけれど、でもボクはショウゴがシュートするところが見たいんだ。ショウゴが喜ぶトコが見たい。だからボクは、このままでいいんだ。



「ミツキ、勝負だ!」

休み時間に自分の席に座っていると、隣りのユウタ君から勝負を挑まれた。

「……えー、また?」

「今度こそ、本気出す」

「この間も、ユウタさんは同じ事言ってなかった?」

真後ろに立って、ボクの髪で遊んでいたサヤさんがユウタ君にそう茶々を入れる。

「今度は本気中の本気だ!」

「ダメじゃないけど……勝負はいつも通り次の定期テスト、でいいのかな?」

「ああ!だからサヤ、見てろよ今度こそ勝つから!」

「え、それ、私に言うの?」

「ねえ、サヤさん?そろそろボクで遊ぶのも止めてくれない?」

「んー、もうちょっと。だってイジり甲斐があるんだもん。もー、どうしてこんなに可愛いの?髪だってこんなにサラサラで触ってるだけで気持ちいいなぁ」

「……お」

「もう、サヤさん、そんな事ないって。サヤさんの方がよっぽど可愛いよ。お洒落にも詳しいし」

「も、もぉーそういうトコ、そういうトコだよミツキさん?そんな事をサラッと言っちゃうから男女関係なくモテてちゃうんだよ?」

そう言って、ギューッと頭に抱き着かれる。「クンクン、いい匂い」なんてボソボソ言っている。

ふと、視線を横にずらすと、さっき何か言いかけたユウタ君が恨めしそうな目でボクを睨んでた。え、何かしたかな!?



入学当初はずっと泣いていて、友達がいないと寂しがっていたボクも、さすがによく話す相手ぐらいはできた。

ユウタ君はよく勝負を挑んでくるのが難点だけど、それ以外はボクにも構ってくれるイイやつ。

サヤさんも、よく抱き着いてくるし、やたら髪をいじったりアクセサリーを点けさせようとするけど、それ以外は身に余るぐらい。

そもそも皆、試験を受けて入ったのだからそれなりに頭もいい。話してるとすぐ分かってくれるから楽チンだ。

それに穏やかな子が多いんだ(ユウタ君は例外)。ちょっと臆病なボクにはだいぶ気が楽だった。

それでも……。『もし』、が止まらないんだ。

ショウゴと同じ学校に通ってたら、ボクはどんなだったろうって。

毎日どんな話を教室でしてただろう?他のクラスの子とも仲良くできてただろうか。気の強い子とかもいただろうし、苛められたりもしてたかな?

ショウゴ、優しいから庇ってくれてただろうな。ショウゴは勉強があまり得意じゃなさそうだから、勉強を教えたり宿題を見せたりもしてたかな?

運動会とか、お互い運動得意だから自慢し合ってたんだろうな。家が近かったから、休んだりしたらプリントとか持ってきたり持って行ったりしてたんだろうな、とか。

今の学校でボクは、結構楽しくやれてると思うんだけど。ポッカリと何か足りない。それがずっと。

今の学校の皆は、皆イイやつで。この皆で小学校はずっと一緒だし、何事も無ければ中学も一緒らしい。そして、高校も。

遠い未来の事ではあるけど。皆イイやつなんだ。本当に。なのにボクにはその悪くない未来が絶望に思えて仕方がない。

1年より2年、2年より3年になると、徐々に授業が増えて放課後が短くなってきた。

ピアノに加えて今年、英語の習い事が増えた。「塾はいつ頃がいいかしら?」なんてママは最近零し始めてる。

今はまだ、ショウゴと放課後遊べてるけど、今後はもっと遊べなくなるんだよね?

会える機会が減っていく。そしたらボク、忘れられたりしないかな?そう思ったら不安になった。

会うとショウゴはいつも楽しそう。聞くとクラスでも楽しくやれてるらしい。

ショウゴが楽しいのはボクにも嬉しい事のハズなのに、「ボクがいないのに楽しいんだね?」と思っている自分に気がつくと途端に自分が嫌な人間なんだなと思えて結構落ち込むんだ。



「ねえねえ、ミツキさん。昨日のドラマ、観た?」

いつもみたく、休み時間にサヤさんに話しかけられた。

「ううん、昨日は配信観る前に寝ちゃった」

ボクの返事にサヤさんはうなだれる。

「あら残念。感想を言い合えると思ってたのに」

「ごめんね。今日帰ったら配信観るよ。でもちょっと気になるかも。少しだけ聞いていい?」

「それはもう、キュンキュンだったわよ!とってもキュンキュンし過ぎて、手で顔を覆ってしまったわ!」

「そうなんだ」

サヤさんは恋愛ドラマに今夢中で、新しい話が配信されると翌日はその話ばかりするんだ。

ボクも勧められて同じドラマを観ていて、楽しんでいるけどいまいちサヤさん程は夢中になりきれない。

その『キュンキュン』がボクにはピンとこない。

「前回の終わりで告白しようとしてたけど、出来たの?」

「それが邪魔が入ったのよ。でもね、今回の見所はね!なんと……おっとっとイケナイわ!これ以上はちゃんと観て確認しないと!」

「そうなんだ。……うん、楽しみになってきた」

「ええ、とっても良かったわ」

「……ねえ、でもサヤさん?恋人同士って、何がそんなに嬉しいの?」

ボクの問いに、一瞬目を瞬かせて驚くと、サヤさんはニヤけ顔になって口元を手で隠した。

「あらあらー?ミツキさんはそんな事も知らないだなんて、お子様ね?」

「うん、そうかも。ボク分からなくて。ねえ、知ってる?」

「チュウしていいのよ!」

「チュウ、したいの?」

するとサヤさんはアゴに人差し指を当てて考える。

「……好きな人とはしたいものなんじゃない?」

「そうなんだ。でも他には?」

「手をつないだり抱きついたりしていいのよ!」

「それ、サヤさんがボクにいつもしてるよね?ボク、サヤさんと恋人同士なの?」

「……違うわよね?」

「ねえ、他には?」

「んー……あ、一緒にいていいの。二人っきりでもいいって関係なの。それで、他の人と仲良くしてたら仲良くしないでって言っていいの。ずっと一番仲良しだよねって関係だから」

「ずっと一緒……それは、すごくいいね」

「ね、でしょ?恋人同士って、とっても素敵なの」

ショウゴと、恋人同士にボクがなれたらずっと一緒にいられるんだ。それはとても憧れるなぁ。

「……あら?ミツキさんは誰か好きな人がいるの?」

「え、ううん。いないよ?でも恋人同士がなんかイイのは分かった」

ショウゴとずっと一緒にいたいし、ずっと仲良くできればと思うけど。他のコと仲良くしないでって言いたいけど。そのために恋人同士になるのは違うよね。そもそも友達とは違う特別好きな人同士がなる関係だもんね。

ふと隣りの席を見ると、ユウタ君が赤い顔をして窓の方を見ている。

「どうしたの?」

「二人が恥ずかしい話をしてるからだろ?……なあ、サヤって好きなヤツいるのか?」

「んー?」

するとサヤさんはアゴに人差し指を当てて考えた。

「ユウタさんが好きなコ教えてくれるなら教えるよ」

「……じゃ、いい」

「そう、ユウタさんは好きなコがいるのね」

「!?」

サヤさんはニヤけ顔になって口元を手で隠した。

「ねえ、ほら?教えなさいよ?ほら、ほら」

「なぁ……ミツキ……」

縋るような目でボクを見るけど、ユウタ君ごめんね、ボクじゃ助けになれそうにないや。

ユウタ君がチャイムに救われるのはもう少し先の話だった。



「あ!ミツキ!帰りか?」

放課後、帰り道で家に向かうショウゴに会った。今日はラッキーな日になった。

「うん。ショウゴも帰り?遊びに行かないの?」

「みんな用事があってさ、今日は予定ないんだ」

「そうなんだ」

「あ、ミツキは今日用事あるか?」

「ううん、ないよ」

「じゃ、たまには家でゲームとかやらないか?」

「いいけど、ボクんちゲーム機ないよ?」

「じゃ、俺んちな。時間勿体ないしそのまま来いよ」

「うん」

そうして二人で並んで歩いてショウゴの家にやってきた。何気にショウゴの家に入るのは初めてだ。いつも外で遊んでばかりだったし。

「ただいまー」

「お、お邪魔しまーす?」

「ほら、あがってあがって」

「おかえりー。なに、友達?」

奥の方から女性の声が聞こえたかと思ったら、高校の制服を着た女の人がひょっこりと顔を出した。

「へぇ、可愛いね。それにその制服ってあの学校の……、ショウゴってばこんな友達いたんだ?」

「うっさいな、姉ちゃん。こっちはいいから部屋にいろよ」

「お、そんな事言っていいのかな?コンビニ行くついでにアイスでも買ってきてあげようと思ってたんだけど?」

「え、イイの?じゃ、俺ストロベリー!」

「そっちの子は?」

「え?」

「ほら、遠慮しないで」

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……チョコミントで。すみません、ごちそうさまです」

「んー、ショウゴの友達は思えない初々しい返事。潤うわー。デリカシーのない弟だけど、これからも仲良くしてやってね」

「いいから早く行けよ」

「はいはい。ま、ゆっくりして行ってねー」

そう言ってお姉さんはボクたちと入れ替わりに出て行った。

「お姉さん、いたんだね。賑やかな人だったね」

「ごめんな、うるさくして」

「ううん、楽しかった。良いお姉さんだね」

「……そういやさ、ミツキの学校ってすごいんだな。最近知った。入るの難しいんだって?」

「そんな事ないよ、入ったら結構普通だよ?」

「でもみんな言ってるぜ?それ聞くと通ってるミツキも褒められてるみたいで結構嬉しいんだ。その制服もミツキに似合ってるしな」

そう言ってショウゴはそっぽを向いた。

そんな照れてるショウゴを見てたら、思わずボクも顔が綻ぶ。

「ん、ありがとう」

「あ、折角姉ちゃんいないし、姉ちゃんの部屋いかないか?姉ちゃんの部屋、面白いんだぜ、マンガもたくさんあるし」

「え、怒られない?」

「大丈夫だって。散らかさなきゃ。こっちこっち」

ショウゴに連れられてお姉さんの部屋に入った。落ち着いた雰囲気の机に照明、少し可愛らしいシーツのベッドに、大きな本棚にギューギューに詰まった少女漫画。

「すごい、こんなにいっぱい」

「な」

ボクの反応にショウゴも自慢そうだった。

「ほら、これとか結構俺好きなんだ」

そういって本棚から一冊抜き取るとボクにペラペラとめくって見せる。

「ショウゴ、少女漫画読むんだ?」

「姉ちゃんが勧めてきたヤツだけな。……他の皆には内緒な?」

恥ずかしそうなショウゴはそう言って人差し指を唇に当てた。

「……うん」

ショウゴとの秘密が出来て上機嫌なボクも、気になったマンガを一冊手を取りパラパラとめくる。

ページの中で中学生のお姉さんが、かっこいい同級生の思わせぶりな態度に顔を赤らめていた。

……ショウゴのお姉さんも、こういうのを見てキュンキュンするのだろうか。

……ショウゴも、こういうのを見てキュンキュンしてるのかな?

「ねえ、ショウゴ?」

「なんだ、ミツキ?」

「ショウゴも見ててキュンキュンするの?」

ショウゴが読んでたマンガを落とした。

「エ゛?」

「ショウゴも見ててキュンキュンするの?」

ショウゴは落としたマンガを拾うと

「あー、うん?……普通に面白いから読んでるだけだよ」

「そうなんだ」

ボクは納得すると、手に取ったマンガの続きを読み始めた。フフ、ショウゴはボクと一緒でおこちゃまだなぁ。


「あー面白かった」

「もう?早いな、ミツキ」

「だって面白かったから。確か続きもあったよね……って、アレ?」

続きを取ろうと本棚に手を伸ばしたら、手前の本の奥にも本があるのが見えた。

気になったのでボクは手前の本をどかして奥の本を幾つか取り出した。

「どうしたんだミツキ?」

「ん、奥にもマンガがあったんだ。ほら」

他のマンガより大きいけど、とても薄い。

ショウゴが覗き込んできた。ボクと肩がぶつかる。

「そんなのも姉ちゃん、持ってたんだ?どんなの?」

ショウゴが聞いてきたので、そのままペラペラとページをめくった。

「「え!?!?」」

ボクとショウゴは変な声が出た。だって、だって、だって。

「うわ、舌が……」

「男の子同士で……」

思わず、ボクは本を閉じる。気まずいボク達はぎこちなく笑う。

「はははは、何だろうね?よく分からないネ!」

「あははは、そうだな。なんだろうなコレ?ほんと、姉ちゃん何持ってるんだよ!?」

「こ、こっちはどうかなぁー?」

「あ、バカやめろ!?」

ボクが違う本のページを開くと、今度はとろんとした目の女の子同士がキスしていた。

「ふぎゃぁ!?」

パタンとマンガと目を閉じる。

「どうしよう、ショウゴ!?ボクには刺激が強すぎる!」

「安心しろ、俺もだ」

そう言うと、ショウゴはボクから本を取り上げると、整えて全部本棚に戻した。

「あれの事は忘れろ。アレは俺らには早すぎる」

ボクはホッと胸を撫で下ろす。

「うん、ありがとうショウゴ」

「……どういたしまして」

そう言ってショウゴは床に腰を下ろすとまたマンガに目を落とす。

「そのマンガ、面白い?」

「わっ!?」

肩越しにショウゴの読んでいたマンガを覗き見る。

「ねえ、ショウゴ。どのシーンが好きなの?」

ショウゴは、気恥ずかしそうにしていたけれど、やがてペラペラとめくると一つページで手を止める。

「ふーん、こういうの、ショウゴ好きなんだ?」

「……だってドキドキしないか?」

ドキドキ。ああ、うん。キュンキュンじゃなくてドキドキ。それならボクにも分かるよ?だってさっきから


ドキドキしすぎて泣いちゃいそうなんだ。


「サッキのマンガ、すごいキスしてたね」

「お前、まだそんな事……」

「キスって、気持ちいいのかな?」

「そ、そんなの知るかよ。したことないし」


してみる?


声がした。一瞬誰の声か分からなかったけどボクの声だった。

わー!?わー!?わー!?ぼ、ボクは何て大胆で恥ずかしい事を!?

で、でも思ってしまったんだ、マンガの中のキスをしてる人たちを見て、目の前のショウゴを見て。

ショウゴならしてみたいって。お、おかしいよね友達なのに。恋人じゃないとしちゃいけない事なのに。

思わず頭を抱えて逃げ出したくなったけど、ショウゴがボクから目を離さずにいて、ゴクリと喉を鳴らすものだから益々少し顔を動かしたら触れられるショウゴの唇から目を離せなくて。

ショウゴが少しこちらに寄ったものだから、ボクも徐々に徐々にショウゴに重心が移動して顔を近づいて……


「たっだいまーショウゴー。あれ、どこ行ったー?」

バタバタと足音がこちらに近づいてくる。

驚いたボクたちは飛び上がり後ずさり、バタバタと距離を取ると二人とも壁に勢いよく背中をぶつけた。

「あ、あんた達私の部屋で何してるの……いや、ホント何してるのあんた達?」

それに二人して乾いた笑い声をぎこちなくあげる。

「いや、ホントごめんなさい。お姉さん」

「別にいいけど……。あ、気に入ったマンガあった?借りて行ってもいいよ?」

ウウ、ショウゴのお姉さんの優しさが辛い。あと、このお姉さんがさっきの男の子同士でキスしてる本を……大人だなぁ。

アイスは火照った体にとても気持ち良かった。



その晩はよく眠れなかった。

ボクは、ボクはなんていう事を!?確かにショウゴと離れたくないとは思っていたけど、だからって恋人同士になりたいだなんて大それた事考えてなかったのに!?

どうしよう、変なヤツとか思われなかったかな?どうしよう、これが原因で避けれらたりしないかな?

そしたら、悲しいな。ただでさえ会う機会は減ってるのに。どうやって未来に希望を持てるか分からないや。


そんな事を思ってベッドの上でゴロゴロしてたら夜が明けた。

「全然眠れなかった」

眠い目をこすりながら、それでも全然眠れなかったものだから、仕方なくベッドから出た。

そうしていつもより早く家を出る。

「おはよう、ミツキ」

「あ……」

家を出ると、ショウゴが待っていた。

「ちょっとだけ、いいか?」

「……うん」

「あのさ、昨日の事だけど、なかった事にしないか?」

「え?」

「ああいう事ってさ、やっぱり好きなヤツ同士でするもんだと思うんだ。でも昨日は変な空気に飲まれてたっていうか……そういうのって良くないと思うんだ」

「……そっか。うん、そうだね。うん、それでいいよ。でも……今回の事で避けたりしない?」

「俺が?ミツキのこと?そんな事しないよ」

「……そっか。ならいいよ」

「……さて、それはそれとして。ああいう事って、他で言ってないよな?」

「え?え?いや、あんな事言ったの生まれて初めてだよ!」

「そっか。じゃあ、他のヤツに言うなよ!」

「え?うん。え?」

「ミツキが、俺の事好きになったら、続きさせてくれよ?じゃ」

そう言ってショウゴは学校に向かって振り返らずに走り去った。



へ?



その日は熱を出してずっと保健室だった。

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