第22話 学園案内。そして定番……
「あー。偉い目にあった」
マッテイスに校舎を紹介されながら、施錠をして回る。
「自業自得というモノじゃ。愚か者め」
「そ…… そんな言い方はないでしょう。誰のせいですか?」
「何じゃ? あれは、わしのせいか?」
意地悪く聞いてみる。
「いえ。すみません」
そう答えながら、こやつは肩を落として元気がなさそうに、歩いて行く。
学園は、建物は思ったより多く、広かった。
北側に王都へ続く街道があり、北側が正門となっている。
正門を入って、西側に大きなグランドがあり、東に初等部の建物、そして初等と中等の女子寮と続く。
その南側。グランドの東側初等部の建物に並んで教官の居る管理棟。そして、奥の建物は食堂や浴場がある建物。
西側のグランドが終わり、雨天練習場兼魔法演習場が見えてくる。
そして、練習場の東に中等部、その東側奥には初等と中等の男子寮が建っている。
ここまでの建物は、南北に長い。
一番南側には、東西に長い、高等部用の建物が二棟。
西側の建物に、講義棟並びに、研究室。
東側に寮や食堂が、ひとまとめになった建物がある。
高等部になると、女子はほとんどいないため、寮は階で、男女が別れているようだ。
そう…… 高等部は、学校と言うよりも、軍や騎士団の基礎訓練施設としての意味合いが強くなる。
中等部が終わり、高等教育の始まる十五歳から二十歳までになると、女子はほとんど親元に帰り、嫁入り修行が始まる。
そして、わしらが管理棟から中等部棟へと渡ってくると、左手に、魔法演習場が見えてくる。
そして、学生はいないはずなのに、火系統の魔法が発する明かりが見える。
「ちっ」
マッテイスが、嫌そうな顔をする。
「中等部の、編入組が虐められているのか?」
十二歳で、『判定の儀』を受けて貴族に引き取られた者達は、新学期に中等部の三年生として入ってくる。『判定の儀』から三ヶ月程度の作法勉強とダンスの基礎を詰め込まれ、いきなり学園に放り込まれる。
新貴族であり、何も出来ない中途組は、格好の餌食だ。
「いくぞ」
気合いを入れると、マッテイスはそう言って演習場へ急ぐ。
だが、なぜか叫び声を上げている人数の方が多い?
「何だこりゃ? おおい。もう閉館の時間だ。出て行ってくれ」
マッテイスが声をかける。
「はーい。先輩方。ご指導ありがとうございました」
ニヤニヤしながら、意地悪そうにそう言って、寮の方へ戻ろうとした男の子。
だが、シンと目が合う。
「おや。しーん君じゃないかぁ。急に姿を消すから淋しかったぜぇ。まさか無能のお前が貴族に引き取られるとはなあ」
その男が、なれなれしく声をかけてくる。
「デューラー」
「おっと俺は、此処の学生様だ。スキルを得てなあ。お前は、その格好。労働大変だなあ。御貴族様に捨てられちまったのか? ああん?」
ニヤニヤと、嫌らしい笑みを浮かべながら聞いてくる。
「貴族の子弟になったのなら、それなりの行動をしなさいと習っていないのか?」
横から、マッテイスが声をかける。
「ああ。すみませんね。何せなったばかりなので。先ほど先輩にも言われたところなのに。いやあ。貴族も面倒だ。オルガ=シュゴーデン侯爵に迷惑をかけると大変だから気を付けなくては。それじゃあな。シン。また、昔みたいに遊ぼうぜぇ」
そう言って奴は、ぴらぴらと手を振って帰り始めた。
「知り合いか?」
去って行く、デューラーを見ながら、マッテイスが聞いてくる。
「記憶が戻る前に、わしを虐めていた連中の一人だな。一度ぶちのめしておとなしくしていたが…… そうか、侯爵家が後ろ盾となったから、わしが手を出せないと判断をしたのか?」
そう思ったが、少し違ったようだ。
「畜生あいつ。スキル無しで魔法を使いやがる」
「ああ、斬りかかってきながら、顔に向かって火球を放ってきた。一体どうやっているんだ?」
やられていたガキども。
もとは、不慣れな奴を虐めようとして返り討ちに遭ったようだから、治療もしないが、気になることを言うじゃないか…… エミディオやパークスはあいつのことを知っているから、教えるはずはない。
だが、専用の道場もないスラムでの修行。覗き見て盗んだか?
一度見に行った方が良いかもしれんな。
素行の悪い奴らが、覚えたとなれば面倒じゃ。
「ほら、早く寮に帰りなさい」
「判っているよ。お前清掃員だよな。口の利き方に気を付けろ」
最後の足掻きのように、言い放って行った。
「たく……」
だが、文句を言いながら、マッテイスも彼らが言っていたことに気が付いたようだ。
「奴にも教えたのか?」
「いや教える相手は、選別をしていた。信じられんが、見て覚えたようじゃな」
「下手に吹聴されると面倒だな。こちらでも監視をつけておこう」
そう言いながら、彼はもっと大きい面倒。そう、目の前に居る騒動の種。
この大物をどうするか、まだ結論が出せずにいた。
その頃。
女子寮の自室で、ヘルミーナは笑いをこらえていた。
「おおっ、あそこに潜った。スフレイヴ早く捕まえて……」
それは、モニカの寝言。
勤めて、お嬢さんの雰囲気を出していたが、寝始めたと思ったら、なかなか活発な生活をしていたのを全暴露状態。
「男の子達やお友達と、健康的な生活をなさっていたのね」
これから共に生活をするモニカ。
その素顔を垣間見て、少し安心をしたヘルミーナだった。
「もう少しすれば、夕食の時間。起こさないといけないですわね。シンお兄様は、どうなさっているかしら?」
ふと顔を上げ、ヘルミーナが覗く窓から見える景色は、学園都市の東側。
そこには、夕日に染まる、見慣れない町並みが広がっていた……
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