第21話 ちょっとした災難
「……と、言うわけでな。ダンジョンで死にかかったら、なぜか未知の能力と記憶があった。そして、前世の記憶も蘇ったのじゃ」
なぜか、わしが椅子に座り、マッテイスが床で正座をして聞いて居る。
「そこで何があったのかは、全然覚えておられないのでしょうか?」
「ああ覚えているのは、オークに蹴り飛ばされたこと。その時には、まだ前世の記憶がなく。単なる幼子じゃった」
ふうむと、考え込むマッテイス。
悩んでいる間に、部屋の中を浄化する。
いい加減、かび臭い匂いで、頭が痛くなってきた。
きっと、体にも悪いじゃろう。
その変化に、マッテイスも気が付く。
「聖魔法まで……」
「誰でも使えるじゃろう。単なる浄化じゃ」
だが、マッテイスはふるふると首を振る。
「基本魔法から外れると、一握りの人間しか使えません」
「そうなのか? ああスキルに頼るからじゃ。魔力を錬ってイメージをしろ。そうすれば誰でも使える。病気の予防にもいいぞ。知らぬなら、皆に広めようか」
「おやめください」
泣きそうな顔をして、止めてきた。
こやつ、半泣きで、座っているわしの膝にすがりつく。
「ええい、鬱陶しい」
思わず立ち上がると、ズボンと、下履きまでが一気に脱げてしまった。
「あっ」
すがりつくこやつの眼前に、きっと今だけだが、わしの小粒でキュートなあれが、ちょろんと…… 第二次成長期を越えれば、きっと、見慣れた凶悪な物になるはず……
そんな悪いタイミングで、ドアが開く。
ガヤガヤと入ってきた者達。
いつもの部屋だが、そこにいるのは、下半身を露出した小さな男の子。
それにすがりついているマッテイス。
もう、事案以外の何者でもない。
彼らは、当然だが仕事から帰ってきた、同僚達。
そう、明らかにいつもとは違う光景。
それを目撃した瞬間、皆の動きが、その時止まった…………
そう、まるで世界が、その鼓動をやめたように、ピシッとでも音が聞こえそうな感じで……
だが、それも一瞬。わずかな時を置き、何もなかったように、皆が動き始める。
まるで何も見ていない。何も無かったとでも言うように。
あわてて、マッテイスは立ち上がる。
「皆待て、勘違いだ。俺にそんな趣味はない」
彼は必死で、そう伝えるが……
「いや。大丈夫。はっきりと見たから。だが、良い趣味じゃないな。それに男の子か…… マッテイスお前、貴族みたいな趣味をしていたんだなぁ」
「そうか…… だから、二十五歳でも独身なんだ……」
本人は無視されているが、皆は謎がすべて解けたとでも言う感じで、話で盛り上がる。
これはいかんな。ちとフォローをしておくか。
「あー。われ…… ぼくは、今日から此処でお世話になります。シンと申します。よろしくお願いいたします」
そう言って、ぺこんとお辞儀をする。
ズボンを直しながら。
「坊主幾つだ?」
「九つです」
「本当にガキじゃねえか。先輩だからって、何でもかんでもは言うこと聞かなくて良いからな」
そう言って頭をなでられる。ふむ、知らない者にされても、あまり気持ちいいものではないな。気を付けよう。
「でも、アビントンさんから、マッテイスさんが教育係だから、言うことを聞けと」
「ああ、大丈夫だ。アビントンさんには俺から言っておくから」
?? これはもしかして、よくない方向へ行っている気がするのう。
「大丈夫です。僕…… 気にしていませんから」
そうフォローだフォロー。せっかくの協力者となる、こやつがいなくなると面倒じゃ。
「そうか? でも嫌なことは、きちんと嫌と言わないと駄目だぞ」
「はい」
和やかに答える。
横で会話を聞き、マッテイスは青くなったり、赤くなったりしていた。
器用な奴。
「もう、今日のお仕事は、終わりでしょうか?」
話題を変えねば。
「ああ、そうだな。まだ学生がいないからな」
「そうそう。あいつら、人が掃除をしているのを見かけると、わざとゴミをばら撒く奴らが居るからな」
「へぇ。貴族なのに?」
こてんと首を倒してみる。この時に発展技として、軽く握った右拳を右頬につけるとか、色々な派生技がある。普通の子どもぽく見える技。第何号か忘れた……
わしのことが判った後、ムキになったドミニクに指導された。
口元にかわいく握りこぶしなどは、何度やっても何処の戦闘民族と叱られたものじゃ……
ポーズ的に、どうもわしの場合、目に殺気がこもるらしい。
「半数は、スキルを持ったからって、平民が急に貴族になった奴らだ。普段肩身が狭いから、もっと下の立場。俺達みたいな人間に、八つ当たりをしているんだよ」
「そうそう。中等部の途中入学の奴らは、もっとひどいぜ」
「そうですか」
その後、自己紹介として、彼らからぶわーっと名前を言われた。
トムが、二十二歳。平民。七年前、町で生活に困っていたところを、同僚となっているワイトとブラハムと共に拾われた。
拾ってくれたのは、ジミー=グレイディという、伯爵家の三男。今高等部の二年だそうだ。
「坊ちゃんのおかげで、今人並みに暮らせるんだ。そんなお方も貴族には居るんだよ」
嬉しそうに、教えてくれた。へー。そのような者が? 覚えておこう。
ヴィートとプラーシェクは、共に十六歳。父親が騎士爵。
スキル無しだが、なんとか学園に潜り込ませたタイプ。授業をのぞき見て覚えろ。
そう言われたらしい。
だが、初級と中級は基本として、スキルの使用を繰り返すだけ。
見ても何の役にもたたないとぼやいていた……
ダスティとアンヴィは十五歳。こやつらも平民。探索者になろうとしたら、登録をしに行ったギルドで、丁度人手が欲しいと言われて、ここを紹介された。
「ひどいんだぜ。『平民でスキル無しが二人だ? 死にてえのか?』 なんて言われてさ」
「そうそう。結局ギルドには、登録をしてもらえなかったんだよ」
お怒りと言うよりは、困った感じで教えてくれた。
「僕はシンです。お世話になっているお屋敷のお嬢さんが、今年初等部に入学をしまして、伯爵からの紹介ですね」
そう言うと皆が、なぜか驚いた顔になる。
「貴族の世話? スキルがあるなら、入学をすれば良いのにケチなのか?」
ああ、そういう事か。平民が貴族と関わりがあるということは、必ずスキル持ちとなるんだな。
「いえ、スキルはありません」
そう答えても、やはり驚かれる。
「ああ、使用人なのか? それは幸運だったな」
まあ面倒。だが、そうだな。それで良いか。
使用人の子どもということで、これから説明をしよう。
「ええ、本当に」
一通り話はしたので、業務のことを聞いてみる。
「朝の出勤とか時間の割合は、どうなっていますでしょうか?」
「学生がいるときは、日の出前に出勤。鍵を開けながら異常がないかを点検。夕方は掃除と施錠。昼間は休み。何か壊れたとか汚れたら連絡が来るから、此処で待機…… あれ、そういえばこの部屋、なんか綺麗になった気がするな?」
「そういえば、匂いも無くなっているな?」
皆が騒ぎ始める。
「ああ、それは、もが……」
浄化のことを説明しようとしたら、後ろから、マッテイスに口を押さえられてしまった。
躱せたが、皆の前で力を見せるのはまずい。
「やっぱり、アビントンさんに、教育係の変更を言ってやろうか?」
「大丈夫です…… たぶん」
周りの皆から、冷たい目がマッテイスに向けられる……
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