第11話 思惑と困惑
ヴィクトルは、馬車に揺られながら考える。
自分を撃った雷は、スキルによる物では無い。
スキルでの魔法は、当たれば死んでしまう。
ヘルミーナが未熟だから?
そんな事はない。
誰にでも、等しく一定の力を与えるのがスキル。
では自分が知らない、スキルの制御が伯爵家にある?
各貴族家には、道場があり修行をしている者達がいる。
だがそれは、スキルの効率的な使い方や、つなぎを研究して鍛錬をする。
学園でそう習った。
すべての祖であるラファエル=デルクセンが、強力ではあるが単調であったスキル。
それを対人向けに使えるようにした。つまり、戦争のために効率的な運用を開発したのが始まりと言われている。
彼と、彼の仲間達は、それにより小国の鎮圧と統合を行い。この大陸に平和と安寧を与えた。
それ以降も、モンスターの氾濫を効率的に収め、対処するマニュアルもできている。
すべてはスキル持ちの効率的運用により、兵の力を底上げをする為のもの。
スキルは、素人を存在させない。
初めて剣を持ったときから、鋭い剣技と魔法が使える。
先生は言った。
スキル無しが習得に何十年もかかるものを、初めての時から使えるのがスキル。スキル持ちは神に選ばれた者だと。
だが、不意を突かれたとはいえ、ヘルミーナにしてやられ、夏休みを潰してしまうとは…… 不甲斐ない。
これが先生の言っていた、若さ故の…… 慢心。
常時、戦場の心であれ。気を抜くな。
そう仰っていたのに。
ヘルミーナ。覚えていろ……
うだうだと考えながら、学園への道を帰っていく。
だが、ヘルミーナは五歳。
まだ手ほどきを受け始めて、一月ちょっと。
冬休みには、手がつけられなくなっていることなど、彼には思い及ばなかった。
「スキルに頼るな。自力を鍛えて、攻撃の一瞬に使えばいい。剣技なら一と二。それ以上は隙になる」
「「「はい」」」
道場では、その差が分かり、何とか文句を言っていた奴らも、全員従うようになっていた。
特に、魔法については、その自由度とスキル使用時の上限を超えた威力が、皆の目を覚ました。
誰でも使える、生成。
つまり生活レベルの魔法は、単に火を発生。水を発生のように、念じることで現象となる。
それは誰でも知っている。
だがその先、火球や槍、破裂などは、スキルに頼る。
これらは、火水土風を基本として、光と闇が存在する。
その上位に、氷や雷、神聖の光魔法があり、スキル持ちにも使える者と使えないものが居る。
そして、摂理から外れた、空間や重力はスキルでは発動できない。いまでは、文献に残っている程度。
そう、ヴィクトルは自身が喰らったのに、ヘルミーナが使った雷魔法を認めたくなかったのは、そんな理由もある。
雷は、エリートしか使えない。
見下すためには、妹が自分より優秀だと認めてはいけない。
だが、修行の進んだ道場では、皆が使っていた。
学園で言う所の、選ばれたエリートがおおよそ三十人。
シンが連れてきた皆は、使えていたし、道場生二十人も何とか使え始めた。
無論スキルと違うため、本人の素養により強弱はある。
だがそれは、修行で何とかしていく。
本当の意味で、鍛錬を日々行っていく。
たまたま覗きに来た伯爵が、事実を知って驚くのはもう少し後になる。
無論、アウロラは使えるようになっていた。
「ビリビリ最高」
とか言って……
だがまあ、空間や重力については、イメージがうまく出来ないようで習得ができていない。
この世界の人にとって、空間とは何か重力とは何かを理解するには、ハードルが高すぎた。
「まあ仕方が無いか」
使い方を間違えれば、この星すら切ってしまう危険な物。
シン本人も、実はあの時に貰った新しい知識。
昔には、物が落ちることは当然知っていたが、それが星により与えられる力だとは思いもよらなかった。
物同士は引き合う。
星は大きいから、その力が大きくなる。
現実に宇宙があり、この星は丸く、太陽の周りを回っているのを理解しているのは、リッチだったアンラ=マンユの知識による。
彼は言わば大賢者ともいえる。膨大な知識。この世の法則までを理解し絶望をした者。
その知識の大部分も引き継いだシン。
そう一度、短時間ではあるが死に、異世界の術式により生き返った。
世の理から少しだけ外れたもの。
そんな偶然はこれから先も、普通では起こらないだろう。
そう、彼は特別。
そんな所に、ドラゴンダンジョンの異変が伝えられる。
シンが死んだあの事件。あれはやはり異変の前触れだったようだ。
深層階から強力なモンスターが、這い上がってきた。
しかも、状態異常が見られ、出会えばただ襲ってくる様だ。
スラムの子が襲われたが、今回は無事退け、ギルドへと報告があった。
それを聞いて、シンは理解する。
スラムで指導と監視をしている二人。エミディオ一四歳と、パークス一二歳。
彼らが仕事をしたのだろう。
彼らなら、オーガクラスでも倒せるはずだ。
「そう言う事で、我が領にも援軍の要請があった。流石にシン君が隊長というのは駄目だが、ラウレンス男爵を隊長として派遣する。よろしいかねシン君」
「ええ。男爵も多少まともになりましたから。後は兵糧とか、荷運びに幾人か必要です」
それを聞いて、驚く。
「無論、彼だけを派遣するわけではない」
「違うのですか?」
「ああ、部隊を編制して、派遣だ」
「なんて無駄な」
シンはそう思ったが、現実はもっと無駄だった。
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