第62話 悲しい事件だったね

「ふぅ。作業完了。お疲れ様」


 思ったよりずっと早く袋詰め作業が終わり、数量点検や検査も完璧に終えた。


 俺は、セクサロイドたちを労った後に、格納ボタンを押してセクサロイドたちを引っ込めさせた。


 これは実に便利だ。


 今回は単純作業を手伝ってもらったが、例えばゲームのレベル上げとか、遊び相手にもなるかもしれない。


 元がセクサロイドで、身体の繊細な部分を扱うので、かなり手先も器用そうだ。


「そういえば3人共、セクサロイドの設定は出来たのかな?」


 思ったより作業が早く終わったので、悩んでいるなら手伝ってあげようかと、俺は3人が居る方へ向かった。




「どうよ! これが私の一心よ!」


 まず、聞こえてきたのは優月のドヤ声だった。

 自分の名前が出てきたので、俺はつい反射的に物陰に隠れる。


「ほぉ……自分とお揃いのパジャマを着せた新婚さん仕様か。中々、いいセンスだぜ」

「優月のことだから、てっきり露出度の高い服をお兄ちゃんに着せると思ったのに、意外ね」


 何か、他の2人が楽しそうに批評、評論してる……。

 って、優月が誇らしげに披露しているあれは、俺を模したセクサロイドか?


 顔も背格好もまんま俺だ。

 なんか自分を客観視させられて気持ち悪いな。


「真のエロスは日常にこそ潜んでいるのよ。まぁ、パジャマの下にはこうしてブーメラン海パンが仕込ませてるんだけどね。この部分には随分と拘ったのよ」


 優月が得意げに、パジャマを脱がせて海パン一丁の姿にさせる。


 いや、パジャマの下に海パンってどういう状況?

 寝る前後にプールなんて入らないだろ!が。


「ちょ……さすがに水着姿は刺激が強すぎるぜ」


 珠里は手で顔を覆って恥ずかしがるが、指の隙間からこっそり見ているのは、その眼光の鋭さからバレバレだ。


「股間のもっこり具合は、この部屋に入った時の一心の身体スキャンデータから忠実に再現しました」


 んなもんに、こだわるな!


 あと、俺のデリケートゾーンをさすさすするな!



「じゃあ、次は白玉さんね」



 出ていくタイミングを迷っている間に、今度は珠里の番になったようだ。


「まぁ、私はやっぱりこれだな」


 そして登場したのは、またしても俺を模したセクサロイドだった。

 目の前に俺が2人いる……変な感じ。


「空手の道着姿の一心か。まぁ、珠里はそうだろうね」

「予想通りすぎ~」


 お、珠里は俺の姿を模しているとはいえ、空手の道着姿のアンドロイドか。

 空手の組手の練習相手にするのかな?


「いや、お前ら道着姿なめるなよ! 男子は、女子みたいに道着の下にTシャツとか着ないから、大胸筋の谷間から腹直筋までの筋肉の筋が見えて、その谷に稽古で流れた汗が一直線に滴る場景は、もう最高で」


 違ったわ……。

 これ、明らかに稽古用じゃないわ。


 セクサロイドの道着の胸元をはだけさせて、珠里がめっちゃ長文で熱く説明している。


「白玉さんも、普段はカマトトぶってる割に、しっかり一心の身体をエッチな目で見てるのね」


「ち、ちがっ!」

「普段はキスしか興味ありませんとか言ってるくせにね~」


 優月と瑠璃が茶々を入れてはしゃいでいる。


 なるほど、話が見えてきた。

 どうやら3人は、俺の姿を模したセクサロイドでそれぞれの自身の性癖を披露しあっているようだ。


 俺で遊ぶなや!


「じゃあ、次は私のお兄ちゃんのお披露目ね。フフッ、2人共刮目せよ」


 ここで瑠璃が満を持してという様子で、自信満々な顔でお披露目をする。



「ウオォォォォオ⁉」

「キャワワワワ!」



 ここで、今日一番の歓声が上がる。

 いや、参加者は3人だけなんだけど。


「お兄ちゃん、5歳バージョンで~す」


 そこには、あどけない顔の、子供の頃の無垢な俺の姿が。

 服とかも当時の感じが出てるな。


 さすがは、実の妹。すごい再現度だ瑠璃。


 お兄ちゃんは今、まぁまぁお前にドン引きしているぞ。


「あ~、ヤバい……。ショタとか、食わず嫌いだったけど、一心だったら完全にアリだわ」


「5歳なら、ちょうど私の家の空手道場に通いだした頃だぜ。ちょっと、服装から幼児用用の道着を見繕って」


 オーディエンスたち、めっちゃ盛り上がってるやん。

 なにこれ?


 と、ここでショタ版の俺がモジモジソワソワしだす。



「お姉ちゃんたち……誰?」



 ワイワイキャーキャーしている女子高生たちに囲まれたショタ版の俺が、半ズボンの裾を掴みながら不安げに訊ねる。



 優月たちを見上げながら、声変わりしてない、ボーイソプラノの声で。




「「「んんんんんんんんんぅぅぅぅ!!」」」




 優月たちの声にならない悲鳴が、理性決壊の合図だった。





「私が一心君のママだよ。ハァハァ……ほら、ママが一生面倒見てあげるから、一緒に行こうね?」


 優月が、ハァハァ言いながらショタ俺の両肩に手を置く。

 なんでママの設定なのに鼻血が垂れてんだ?


「ちょっと優月! そのお兄ちゃんは、私の可愛い赤ちゃんなんだからダメよ!」


 日本語がおかしいぞ瑠璃。

お兄ちゃんはどうあがいても赤ちゃんにはならん。


 ならないったら、ならないぞ!


「子供の一心に稽古をつける……親子で……道場で……息子と2人……」


 一方、珠里は何かうわ言のように呟く。

 珠里は子供の俺を完璧な空手マシーンにでもしようとしてるの?


「瑠璃のケチ~! じゃあ、私の分も、もう1人ショタ一心作ってよ」

「わ……私も欲しい」


 随分と人気だな、ショタ版の俺。

 しかし、これは色々とアウトだし、そろそろ俺も限界だった。


「仕方ないわね、特別に……」

「はいストップだ瑠璃。現行犯ね」


 捜査官よろしく俺が犯行現場に踏み込むと、完全に自分たちの世界に行っていた3人が我に返る。


「お、お兄ちゃん!? あ、これは違って、その……」


 瑠璃たちは慌ててショタ版の俺を背中に隠すが、遅きに失している。


 っていうか、海パン姿の俺と、空手の道着姿の俺は丸出しだから、どちらにせよ有罪だ。


「ち、違うぜ一心!」

「こ、これはそう! ええと……」


「いや、全部見てたから。そのセクサロイドたちは削除するからね」


 3人に言い訳を考える間も与えずに、俺はセックスしないと出られない部屋の管理者としての無情な沙汰を言い渡した。


「や、止めて一心! せっかく……せっかく、こんなに可愛いのに!」

「お兄ちゃん! この子に罪は無いの!」

「たとえ仮初でも、これは立派な命なんだぜ!」


 優月たちがショタ版の俺を抱きしめて、懸命に情に訴えてくるが、優月たちが道を踏み外さないように、俺は心を鬼にする。



「ほい、削除」




「「「うわぁぁぁあああああ!」」」




 優月たちの手元から淡い水泡のごとく消えてしまったショタ版の俺。



 救えなかった命に、3人の少女はまるで子供を亡くした母親のように、その場で泣き崩れた。


 悲しい事件だった。

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