星降る夜に祝杯を

一の八

星降る夜に



「美咲、明日だよな」


健太は、美咲に尋ねる。



「そうだよ。えっ?もしかして緊張してる?健太はそいう所ホントまじめなんだから」

「当たり前だろ。なんていたって大事な日なんだから」

「まぁそうだけど」


美咲は、畏まっている健太が、なんだか変だけど、真剣に考えてくれている様子が嬉しくて笑っていた。


まさに明日は、健太にとっても美咲にとっても大切な日になろうとしている。


それは、“例のやつ“からだ。


「美咲、もう一回やらないか?」


「大丈夫だよ。お父さんけっこう頑固な所もあるけど」

「お願い!あと一回だけ」

「もう、しょうがないな。あと一回だけだよ」


これで5回目のやりとりにも飽きずに付き合っている。


健太がそれだけ真剣な様子で自分の父親と話をしようとしているからだ。


この人でよかったな。


美咲の中でまた一段と健太という存在を大きくしていた。





次の日の朝6時



美咲は、健太よりも早く起きて支度をしていた。


いつもよりも念入りに髪型や化粧などをしている。


今日から健太と一緒になるのか。

まだ、挨拶終わってないからこれからだよね。


美咲は、先走った自分の気持ちを宥めるように鏡に向かって目線を送った。


自分の父親に会うのだからそんな事をする必要がないと分かっていても昨日の健太の様子に感化されていた。


健太にあんな風に言っておきながらも美咲自身も緊張していた。



流行りのポップな曲が流れる。


健太が好きなバンドの音楽をアラームにしていた。



「もう7時か」

そろそろ起こさないと。



寝室では、まだまだ熟睡の健太が布団に包まれている。



今日の事を考え過ぎて、緊張からなかなかすぐには寝れなかったのかな。

そんな事を美咲は、思った。




「おはようー!もう、7時だよー!」


美咲は、健太の身体にある布団を払いながら揺り起こす。


「…んっぁ、7時?…えぁ…おはよう。あれ、たしか行くのって9時だっよね?」


健太は、寝ぼけながらも返信をした。


「9時だけど、ギリギリに起きてたら間に合わないでしょ?大事な日なんだから!」


「……そうだね」

瞼がいまだに開くことを許そうとはしてない事が目に見えて分かった。




あまりの緊張からなかなか寝付けないでいた健太は、身体が重いように見える。


「大丈夫?」

美咲は、そんな健太の様子を心配していた。



「大丈夫、大丈夫!」

健太は、よく分からない自信を美咲に笑顔を向けていた。


「朝ごはん、パン焼いてあるから。顔洗ったらたら食べにきてね。」


「うん。分かった」


健太は、洗面台で顔洗うと


パンッ


自分の顔に手のひらをブツケた。


よし、大丈夫!大丈夫!




「さっき、なんかすごい音したけど?」


健太は、ちょっと恥ずかしそうに答える


「自分に気合い入れてた」

「もう、気合い入れるのはいいけど。あんまり考えすぎないでいいからね」

「どうしてもこういう時って緊張しちゃうから」

「健太なら、大丈夫だよ」


自分が信じている人だからきっと父も同じ気持ちのはずと美咲は、考えていた。








実家は、健太と美咲の住んでいるアパートから2時間はかかる場所にあるところ海と山が両方とも見える場所にある。




私にとって大切な人。

私がこれまでやってこれたのもお父さんとお母さんのおかげ。


そんなふたり会わせたいひとができた。


今日、健太は私の両親に正式に挨拶に行くことになった。





この人の為に買ったスーツに袖を通した健太は、なんだか自分が新しい所へ向かう高揚感と不安感の間にいた。



「健太、ネクタイ大丈夫?ちょっと歪んでない?」

「えっ?そうかな」


美咲は、健太の襟首に変な所がない入念にチェックした。



「鍵持った?」

健太は、普段履かない黒の革靴に履き替えて、扉を開く。


「うん、持ったよ」


部屋を出ると美咲は、誰もいない自分の部屋に声を掛ける。


“行ってきます”

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