やらかし聖女の後の聖女は苦労が多い

泉 和佳

第1話 私、聖女らしいです。

 どーも。


 岩谷 佳代子、事務職、32才、バツ1です。

 昨年、離婚して、幸いにも子供もできなかったので、気軽な一人暮らしに復帰いたしました。


 それから、今の会社で骨を埋めよういう覚悟で、今日まで頑張ってきたのですが……。


 さて、ここで問題です。


 一体ここはどこでしょうか?


 私はついさっきまで、雑居ビル立ち並ぶ少々小汚いオフィス街を歩いていたハズ……。


 ところだが、ふと顔を上げてみれば、あら、不思議……。


 緑あふれる森の入口? っぽいところにいるではありませんか!


 そして、何ということでしょう!?


 舗装もされてない道から、大変レトロな荷馬車を引くおじいちゃん登場。


 中世ヨーロッパ絵画の1枚を見ているよう……。


 私が思わず呆然と馬車を眺めていたら、おじいちゃん私に気付き、声をかける。


「おや? ここらじゃ見ない顔じゃな?」


 あら、おじいちゃん。明らかにヨーロピアンな外人さんなのに、日本語が堪能でらっしゃる。


「あ、すみません。道に迷ってしまったようでして……日本語お上手ですね。」


 って褒めたら、ちょっとヘンナお顔をされ……、何かに気づいたらしく、ハッと目を見開かせこう言った。


「あ、あんた異世界から来た聖女様だべ?」


「せ聖女?」


「ととにかく乗りなぁ! 聖女様ばこげんとこ放ったらかしするば、罰当たるでぇ!!」


「は、はぁ……。」


 私は、ここで立ち往生してても仕方ないと思い、おじいちゃんの馬車に乗せていただくことに……。


 そして、馬車に揺られて20分――――。


 旅行雑誌なんかで見る、ヨーロッパ田舎町の風情漂う石造りの町へやって来た。


 あれ? おかしい。


 私、飛行機に乗った覚えはないのだけど……。

 瞬間移動でもしたというのか???


 だが、町の皆さん日本語を喋っておいで、明らかにゲルマン民族だが……。


 そして、その中でも異彩を放つ白亜の宮殿に連れて行かれ、黒衣を纏う聖職者っぽいオジサマに引き渡され、色々説明を受けることに。


「いきなりのことで驚かれたでしょう。

 私めは、ダリスと申します。

 女神様にお仕えします従僕の一人でして、不肖ながら、神官長を務めさせて頂く身でございます。」


「ご丁寧にありがとうございます。私、こういうものでして……。岩谷佳代子と申します。」


 社会人の常識、お名刺をお渡したところ……。


 あれ? なんでだろう? なんだか戸惑ってらっしゃる?


「もっ、申し訳ない。あの、イワタニ様が思っていた方と違ったと言いますか……。」


「違う? 初対面ですよね?」


「……………………………………………………………………………。」


 聖職者っぽいオジサマことダリスさんは、何か目上の相手に失言したみいな、微妙に気まずい空気を出す。


「あのー……。」


 この沈黙を打破すべく声をかけてみる。ダリスさん狼狽え、ワタワタと本を一冊出してきて、


「すみません。お恥ずかしいところを……。この文字の中で、あなたの国の言葉はございますか?」


 と、ページを開く。


 そこにはいくつか単語が記されており、中には、“赤、しろ、キイロ、green、BANANA”など、知っている言語も表記されてて、私は迷わず……。


「これです。」


 と、”赤、しろ、キイロ“の3つを指した。


「なるほど、聖女様は日本から来られたのですね。」


「えぇ。そうです。ところでここは、どこですか?」


「ここはペイリン村です。」


「ペイリン村? 外国ってこと?」


 みんな日本語話してるけど、瞬間移動したの? 私……。


 ダリスさんは言った。


「外国……ではありますが、ここに、いや、この世界に日本という国はありません。」


「は???」


 このオジサマ本気で言ってる?


「いや、でも……。じゃぁ、ここはどこ、ですか?」


「ここは、神聖王国領グレーテ郡ペイリン村でございます。

 聖女様……貴女様は女神様の御意思で、異界よりこちらにご降臨された、奇跡のお方なのです。」


「異世界? 聖女って!」


「聖女様は100年に一回、我が国に異世界より降臨されて、その叡智により我が国は発展し、また災いを退けてくださいました。」


 なっ! そんな勝手な!!


「災いって……、私は一般人です!! 

 天災を予知したり、防いだりはできかねます! それに、私にだってあちらでの生活があるのです! こちらに来たのだってたまたま……事故のようなもの! 私にどうせよと? 残念ですが、貴方がたの期待には添いかねますよ!?」


 すると、ダリスさんは、


「……。今、私と会話ができておりますね?」


「はい。それが何か?」


「それこそ、貴女がすでに女神様からの天啓をお受けになられた、紛れもない証なのです。」


 はっ??????


 目が点の私に、ダリスさん説明を続ける。


「本来、貴女の言葉と我々の言葉は違います。ですが……貴女はここへいらした瞬間に、言葉を解することできましたでしょう? それは女神様より授かった、神通力の他ならないのです。」


「あ……。確かに……。」


 国どころか世界が違うなら、言葉が同じなわけないか。

 私、妙に納得していると、ダリスさんは言った。


「しかし……、驚きました聖女様はご聡明でいらっしゃる。

 仰る通り、ここへご降臨されたのは貴女にとっては事故のようなもの……。しかし……。

 貴女を元の世界に帰す方法が無いのです。」


 まぁ、予想はしてたよ……。


「………………………………。そうですか。」


 この見知らぬ土地で、0から始めろってこと!?


 やっと離婚から、普通の生活に馴染んできたところだったのに……。


 碌でもねぇな女神様。


 私は心の中で女神様に中指立てながら……。


「今後のことについて、自分なりに人生設計の大幅な見直しが必要かと存じますので……こちらの世界について、ご享受願えますでしょうか?」


「えぇ。もちろん。」


 こんな感じで、私、今日から、アラサー独身OL改めまして、聖女にジョブチェン致しました。





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