第17話 険悪な二人(竜虎の図)
「な、なんで美司さんがここに······?」
「今日は買い物出かけてたんだけど、外歩いてたら喫茶店にいる君を見かけてね。ちょーっと深刻そうだったから、つい話しかけちゃった」
良く見ると、美司さんの両手には前に行き付けだと言っていた店の買い物袋が握られていた。
なるほど、それは確かに知り合いが重い表情で話しているところを見たら気になってしまうのも仕方ないよな。
にしても、偶然というのは恐ろしいものだな。
「あの、義兄さん······この人は?」
「あ、ああ······二人は初対面だもんな。えっと、こちらは俺の同僚の美司愛莉さん。美司さん、こっちは俺の妻の妹、黒田花菜ちゃんだよ」
軽く紹介すると、美司さんは納得したように相づちを打った。
「あ~······なるほど、そういうことね!改めて初めまして。あたし、彼の良き理解者の美司愛莉!よろしくね、ただの義妹さん」
「っ······ええ、初めまして。義兄さんの愛妹の花菜です。こちらこそ、よろしくお願いしますね?ただの同僚さん」
なんだか含みのある挨拶を交わす二人。
何だ?この二人から、バチバチッと火花が散りそうな物凄く黒い雰囲気というかオーラを感じる?
あれ?この二人は初対面だよな?なのに、なんでこんなに仲悪そうに見えるんだ?気のせいか?
どう言葉をかけていいか分からずにいると、美司さんは俺のほうを向いて笑顔を向けた。
「ねぇ、うっち!さっきちょろっとお話聞いたんだけど、弁護士さんを探しているんだって?」
「えっ?あ、ああ······」
「ということは、やっと奥さんと別れる決心がついたってことでいいんだよね?」
「う、うん?ま、まあ······そうだね」
ぐいぐいっと顔を覗き込むように近付く愛莉さん。
というか、顔が近すぎてついドキドキしてしまう。
そんな距離感にいる俺たちを、花菜ちゃんはジーッとジト目で睨んでいるのに気が付いてしまった。
「は、花菜ちゃん······?」
「随分と仲が良いんですね、義兄さん?」
「まあ、あたしたちはもはや親友といっても過言じゃないくらいの仲だからね!言うなれば、親友以上夫婦未満って感じかな!えへへ♪」
いや、過言だよ······。というか、親友以上夫婦未満ってどういうこと?それって暗に、恋人だって宣言しているような気がするのだが······?
美司さんの発言に疑問を浮かべていると、花菜ちゃんは「ふぅ~ん······」と声色を低くして眼光を強めた。
「それはそれは······。あぁ、でも私と義兄さんの絆には勝てませんよね?なにしろ、私たちは家族ですから。ねぇ、義兄さん?」
「へっ?あ、ああ······そう、かな?」
「っ······!」
まるでマウントを取るように自慢そうに話す花菜ちゃんに対し、美司さんは悔しそうに目を吊り上げて悔しそうな表情を浮かべた。
なんか歯軋りの音が聞こえた気がするが······うん、多分気のせいだな。
「ちっ······まあ、いいかぁ。もうすくだし······それも時間の問題だよね······」
「······?」
なにやら美司さんがぼそぼそっと呟いたのだが、声が小さすぎて上手く聞き取れなかった。
なんて言ったのか気になるが、今の怖い雰囲気の彼女に声をかけられるほど俺は神経は図太くない。
すると一転、美司さんはいつものような屈託のない笑顔を浮かべて俺に話しかけてきた。
「それより、さっきの話の続きね!弁護士探しているんだったら、あたしが紹介してあげる!」
「紹介?······って、美司さんはそのツテがあるの?」
「まあね~!ちょっとした知り合いなの!」
それは、また凄い知り合いが居たものだ。
弁護士と既知の仲というのは、中々居ないと思う。
それも気軽に紹介出来るということは、かなり出来る人なんだろう。
そんな人が美司さんと知り合いとは······俺も、凄い人と同僚になったものだ。
「今呼んであげるから、ちょっと待っててね?」
「あ、うん······あ、ありがとう」
予想外の展開に驚きつつもお礼を言うと、美司さんは「気にしないで」と言ってこの場から歩き去った。
おそらく、その弁護士に連絡を取りに外に向かったのだろう。
その背中を見送っていると、俺の肩をちょんちょんと指で突く人がいた。花菜ちゃんだ。
「義兄さん、弁護士が見付かりそうで良かったですね」
「ん?ああ······美司さんには感謝しかないよ」
「美司······愛莉······」
「どうかした?」
「ああ、いえ······美司という名字、何処かで聞いたことがある気がするんですが······う~ん······」
「そうなの?」
美司という名字は、多分かなり珍しいだろう。
だから聞いたことがあると聞かされ、俺も少し驚きに声を上げた。
そういえば俺も入社したての頃、美司さんと自己紹介を交わした際に同じこと思った気がする。
その時は気のせいかとも思ったが、花菜ちゃんも同じことを考えていたとなると気のせいじゃないのかもしれない。
しかし、何処で聞いたことがあるんだろう?
変なモヤモヤを抱えていると、花菜ちゃんは「まあ、それは良いとして······」と話を変えた。
「義兄さん、あの美司って人には注意してください。なんか、危ないような気がします」
「危ない気って······どういうこと?」
「いえ、なんとなくというか······女の勘ですが」
どうやら花菜ちゃんは、美司さんのことをあまり良くは思っていないようだ。
どっちも可愛いんだし、この際だから仲良くすればいいのに。まあ、無理に仲良くしろとは言えないが。
まあ、一応花菜ちゃんの忠告は聞いておこう。
それよりも今はまず、離婚に向けて考えなくちゃ。
そう思って、美司さんの帰りを待つ俺たちだった。
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