第60話 本当はキミと一緒に

 この場所が名残惜しくて、つい話を続けてしまうララだった。


「結局……ボクはなにも変わらないのさ。アテナと出会った頃となにも変わってない。信念を失ったら生きてる意味はないと思ってるし、その言葉を実行するつもりでいる」

 

 死の間際になれば、きっと後悔するだろう。口ではカッコつけているが、ララは臆病だ。死にたくないと泣き叫ぶことになるだろう。


 もしかしたら創造主と同じ道を進んでいるのかもしれない。


 ……


 それもまた一興か。だって最期にはアテナと戦えるのだ。


 また沈黙があった。そもそも3人の間に共通の話題なんて多くないので会話が途切れるのも必然的なことだ。


 その沈黙を破ったのはアテナだった。


「では、また会おう」

「……? どっか行くの?」

「私より強い相手を探しに行く。その戦いをインプットし、さらに性能向上を狙う」

「……そっか……」ララが与えた目標に対して動き始めているのだろう。「じゃあ……ボクも行こうか」


 寂しがってばかりもいられない。出会いもあれば別れもある。それだけの話だ。


「じゃあねフォル」洞窟を出る前、ララは言った。「帰ってきたらお墓くらい作ってあげるよ」

「必要になるとは思えませんね」そう簡単にフォルは負けない。「また会いましょう。そのときは……私も最強決定戦に混ぜてもらいますよ」


 三者三様の道を進んで、自分なりの強さを身に着けたら。


「もちろん良いよ。どうせ勝つのはボクだから」


 そう言って2人は笑いあった。フォルとはまだ出会って間もないけれど、通じ合えた気がする。


 それからララとアテナは洞窟の外に出た。

 

 日の光がララの目を刺した。外に出たのは久しぶりなので、かなり眩しく感じた。


「久しぶりの太陽の光はどう?」アテナにとっては約500年振りだろう。「直射日光には気をつけなよ。キミ、精密機械なんだからさ」

「問題ない」

「そりゃそうか。ボクが作ったんだもんな」野外活動もできるようにしているだろう。「んじゃあ……あの、なんだ……」


 ララがどうやって別れを切り出そうか迷っていると、アテナがあっさりと背を向けて、


「では、さらばだ」

「ちょっと待ちなよ」ララはアテナの背中に向けて、「もっとさぁ……別れの感傷とかないわけ? あっさりしすぎじゃない?」

「私にとっては数日も数年も同じだ」

「そうだろうけどさぁ……」ララは素直になることにした。「ボクにとっては違うよ」

「なにが言いたい?」

「キミと別れるのは寂しい」ララにとってアテナは、はじめて自分を受け入れてくれた存在だった。「本当はキミと一緒に旅をしたい」


 それが本心。


「ならばそうすれば良い」

「それはダメだよ。キミと一緒にいると、ボクは強くなれないから」アテナが守ってくれるから。「それは信念を失うことと一緒さ」

「そうか」

「うん。だからお別れ」まだララはバカのままだ。「ボクと再び出会うまで、壊されるんじゃないよ」

「承知した」


 そうして2人は別れた。共に過ごした濃密な時間からすれば、あっさりとした別れだった。


 それで良いと思った。自分たちに感傷的な別れなど似合わない。


 たしかに友と別れるのは寂しい。もっと一緒にいたいと心から願う。


 でもそれは信念とは関係がないことだ。いわば人生にとっての副産物。それらのことに目を奪われて、本来の目的を忘れてはいけない。


 バカと言われようとも、のけものにされようとも、笑われようとも……それでも自分の信じた信念を貫き通す。


 それができれば満足だ。きっと死ぬ間際だって笑っていることができる。


 命をかけて成し遂げたいと思える信念。それを見つけることができた。それだけでララは恵まれているのだろう。


「さてと……」ララは大きく伸びをして、アテナと反対方向に歩き始めた。「次はどんな出会いが待っていますかねぇ……」


 魔神と出会うかもしれない。怪物と出会うかもしれない。もしかしたら神と出会うかもしれない。アテナ以上の強者とだって出会うかもしれない。


 まぁ……


 誰と出会おうとも、最終的に勝つのは自分だ。

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攻撃力最強・速度最速・防御力最硬・魔法は一切使わない・ただひたすら敵を殴る・約500年無敗のマシン。以上が彼のスペックです。何年かかっても構わないので倒してください。 嬉野K @orange-peel

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