第29話 頑張れ
「じゃあねアテナ」ララは荷物をまとめて、「ボクがいなくて、寂しくて泣くなよ。あと……ボクがぶっ壊すまで壊れたらダメだからね」
「どちらもいらぬ心配だ」
「こっちも心配はいらないよ。最強の科学力を引っ提げて返ってくるからね」
そんな会話をして、ララはアテナと別れた。
結構長めの別れになるだろうと思っていた。魔王軍の技術力をしゃぶり尽くすまで帰ってこないつもりだった。
とはいえ今のララの目標はアテナを倒すことなのだ。最終的には戻ってくるだろう。
「さーて……」ララは洞窟の外に出て、「久しぶりに戻りますか。魔王城」
かつて追い出された魔王城に向けて、ララは動き始めた。
吸血鬼は他のメンバーのスカウトもあるらしいので、個別に行動している。ララは魔王城の位置も把握しているので、案内はいらなかった。
さらに、
「んじゃ、頼むよモフモフくん」ララは羊型の機械に乗り込んで、「魔王城までレッツゴー」
スイッチを押すと、モフモフと呼ばれた羊型の機械が走り始めた。
移動用の機械を作っていたのだ。携帯性を考えて軽量化しているので戦闘能力はまったくないが、走るよりは早く移動できる。ちなみにアテナの洞窟にたどり着いたときも、このモフモフを使っていた。
モフモフという名前は見た目が羊っぽいからつけただけである。一応移動中に眠ることも考えて本当にもふもふしているのだが、
「……揺れがすごいんだよなぁ……」乗り物酔いをする人には辛いだろう。「かといって揺れを収めると遅くなるし……難しいもんですなぁ……」
独り言をつぶやきながら、モフモフくんは進み続けた。
そうして数週間が経過した。よくいろんな場所から追い出されていたララは旅に慣れていた。
「相変わらず禍々しい場所だねぇ……」ララは魔王城を眺めて、「なんでこんな怪しくする必要があるんだろうか」
とくに誰に話しかけたわけでもなかったのだが、
「なにブツブツ言っているんだ?」魔王城の門番らしき魔道士が言った。「ここはお前みたいなガキが来るところじゃねぇよ」
「スカウトされてきたんだけど」ララはモフモフくんを折りたたんで、「魔王軍が戦力募集してるらしいじゃないか。時給いくら?」
「知るか」どうやら時給制じゃないらしい。「……というかお前……どこかで会ったことがあるか?」
言われて、ララは目の前の魔道士を見つめた。
猫みたいな魔道士だった。そしてその横には4足歩行の魔物と、青い巨体の怪物がいた。
「おや……次期四天王さんじゃないか」要するにザコである。「なんだ四天王ってのは門番のことだったの?」
「うるさいな……」挑発しすぎた。「……名をあげることに失敗したからな。現状は甘んじて受け入れなければならん」
「……案外律儀なんだな……」
意外な事実である。
「しかし!」ビシッとポーズを決めて、猫の魔道士は言う。「必ずや俺たちは成り上がってやる。いつか四天王の座をいただくぞ!」
「おお、頑張れ」急に親近感が湧いてきた。本気で応援したい。「で……ボクはどこに行けば良いの? 吸血鬼さんにスカウトされたんだけど」
「ああ。中に入って第3会議室にいけ」会社かよ。「そこで試験があるはずだ」
「試験?」
スカウトされただけで合格、ってわけじゃないようだ。
「ああ。魔王軍に入隊できるかどうか、その実力を試されるんだよ」猫型の魔道士は首を傾げて、「それらはスカウトの時点で説明されるはずだが……?」
「……あの吸血鬼め……」説明をサボりやがった。「まあ良いや。合格すれば問題ないんでしょ?」
不合格でも問題ない。適当に暴れてデータだけもらっていくのみである。一応合格は目指すけれど。
猫の魔道士はなにやらカードを差し出して、
「これ持っていけ」
「なにこれ?」
「入場券だ」テーマパークかよ。「今日一日しか有効性はないからな。試験に合格した場合は魔王軍証明書がもらえるから……それを持ち歩け」
免許証かよ。
「……魔王軍ってのは……案外しっかりしてるんだな……前からこんな感じだったっけ?」
「お前がいた頃からそうだったぞ」
「そうだっけ……?」
「ああ。お前が人の話をまったく聞いていなかっただけだ」
どうやら魔王城を追い出された原因はララにもあるようだった。あまりにも人の話を聞かないし、さらに弱い。追い出されて当然だった。
まぁこうして戻ってこれたから良しとしよう。そうして今度は人の話を聞こう。
聞くだけで従うとは思えないけれど。
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