第22話 嵐のような人物だったな……

 数日後。


「お邪魔いたしました」フォルが立ち上がって深々と頭を下げた。「ずいぶんと長居してしまいました」

「数日しかいないけどね」ララは作業を止めて、「もう傷が治ったの?」


 アテナにやられた傷だ。少なくとも片腕は骨折していたはずだが。


「完治とは言いませんが……大抵は治りました」

「なんで骨折が数日で治るんだよ……」


 魔物と人間のハーフであるララはともかく、フォルはただの人間だろうに。


「治癒魔法を使いましたので」

「便利だねぇ……」自分も魔法が使えたら良かったな、とララは思った。「気になってたんだけど……キミは魔法使いなの? それとも僧侶? 魔法の系統が混ざってる気がするんだけど」


 魔法使いが使う魔法も僧侶が使う魔法も使っていた。


「賢者ですよ」

「へぇ……実在するんだ。はじめて見た」ほぼすべての魔法が扱える、魔法のスペシャリスト。「道理で強いはずだ」

「ありがとうございます」いちいち礼が深い人だった。「数日住まわせてしまったお礼代わりに、1つだけ言っておくことがあります」

「なに?」

「この場所にお宝はなかった……勇者様にはそう伝えておきます」


 ララは驚いて、


「なんで? 良いの? 勇者様はお宝を欲してるんじゃないの?」

「はい。ですが……この場所には手を出さないほうが良いかと。全滅しかねませんからね」

「ああ……なるほどね」

「あくまで勇者様のための報告です。あなたたちへの恩返しなどという意味はありません」

「恩返しされる理由がわからないんだけど?」

「……強いて言うなら……気絶していた私に手を出さなかった恩です」たしかに殺していても問題なかったよな。「ですが……」

「恩返しじゃないんでしょ? わかってるよ」


 フォルが素直じゃないことはわかっている。本当は恩返しがしたいけれど、その言葉を自分から伝えたくない。だから勇者のためと嘘をつく。


 完璧に嘘というわけじゃないのだろう。この場所に攻め入ることは危険だと判断したのは本当だろう。


「ではもう二度と会うことはないでしょう。さようなら」


 そう言い残してフォルは去っていった。


 取り残されたララは、


「嵐のような人物だったな……」突然現れて変人っぷりと強者っぷりを存分に見せつけて消えた。「あれに崇拝される勇者様ってのは、どんな人物なのかねぇ……」


 少しばかり勇者の人物像に興味が湧いてきたララだった。


 とはいえ探しに行くとか、そんな気は毛頭ないけれど。


「それにしても強かったねぇ……賢者ってのはスゲーんだな」


 しばらく無言だったアテナが言った。


「賢者にも弱いのはたくさんいる。あれはフォルが強かった」

「なるほど……」納得しつつ、「キミ……なんかボクにはやたらと話しかけてくれるよね。なんで?」

「あなたがしつこく話しかけてくるからだ」

「ああ……なるほど」


 黙っていてもやり過ごせない相手とは会話をするわけだ。そちらのほうが楽なのだろう。


 さてそれからしばらくの時間が経過して、


「完成」ララが楽しそうにつぶやいた。「また挑ませてもらうよ。良いかな?」

「構わない。戦うことが私の仕事だ」


 というわけで、ララVSアテナ。3戦目の開始である。

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