第21話 キミの人生だ
「しかし困りました」フォルが言った。「勇者様の命令を遂行することができませんでした」
「お宝を持って帰れないもんな」
フォルはアテナに負けたのだ。当然お宝は手に入らなかった。
「はい。しかも手に負える相手ではなさそうです。このまま尻尾を巻いて逃げることしかできません。勇者様に合わせる顔がありません……」
フォルは本気で落ち込んでいるようだった。この様子だと、今までの勇者の命令はすべて忠実にこなしてきたのだろう。フォルほどの実力があれば容易だったはずだ。
「慰めてもらえば?」
「勇者様は忙しい方です。私一人に時間を費やすことはしません」
「ふーん……じゃあ文句を言ってやりな」
「文句?」
ララが文句を言いたい気分なのだ。
「キミほどの実力者を失う危険があったんだよ? たった1人でこんな危険な場所によこして……だったら自分で来いっての」
「勇者様には他にやることがあるのです。しかも負けたのは私の責任です」
「それはそうだけどね」負けたのは本人が悪い。「1つ言っとく。その勇者様っての……きな臭いよ」
睨みつけられた。それ以上勇者様を侮辱するなら黙っていない、という意思が見て取れた。
しかしララも引くつもりはない。攻撃してくるなら反撃するつもりだ。
「キミの住んでいた村は辺境の村なんでしょ? なんでそんなところに勇者様はいたの?」
「それは……勇者様は優しい方ですから。どんな小さな被害でも見過ごせなかったのでしょう」
「勇者様には他にやることがあるんじゃないの?」
フォル1人にはかまっていられない。でも辺境の小さな村は救う。それは矛盾した行動だ。
フォルもそれには気づいているのだろう。
「……たまたま……近くにいたのではないでしょうか」
「なんで? キミの村の周りには、勇者様が手に入れたいお宝でもあるの?」
「……」無言が肯定だった。「……四天王が集結していたから、倒しに来たのでは……?」
「勇者様は慎重派だ。村を1つ救うためだけに本陣に突っ込むとは思えないね」
戦争を避けて現状維持を望んでいた勇者様だ。四天王なんかと戦ったら戦争待ったなしである。
「そもそもさぁ……」まだ疑問は多くある。「なんで四天王が全員、辺境の村を襲ったの?」
「……私の村に、なにかがあったのでしょうか……? 魔王軍と勇者様が同時に狙うようなお宝が……」
「その可能性はあるね。地獄の帝王でも眠ってたのかな?」冗談を言ってから、「これはずっと前から思ってたことなんだけどねぇ――」
「やめてください」強い口調で、フォルは言う。「それ以上、言わないで」
フォルだってなんとなく気づいてはいたのだろう。
やめて、と言われたところでララはやめない。やめる義理はない。
「勇者と魔王様って裏でつながってんじゃないの?」それがララの結論。「そうやってダラダラ戦いを続けて、勇者は人間側の英雄になって、魔王は魔族側の英雄になる。それが目的なんじゃないの?」
「……そんなこと……ただの推測でしょう。無責任な発言です」
「当たり前でしょ。ボクが責任なんて負うと思う?」ララはただの傍観者だ。「お互いに偶然慎重派って可能性もあるよ。でもねぇ……魔王と勇者が崇拝されてるのは事実でしょ?」
魔物は魔王を崇拝し、人間は勇者を崇拝する。
魔王と勇者は、その渦中にいる。この状態が長引けばずっと英雄でいられる。
だからお互いに攻めない。戦わない。たまに衝突して見せることもあるだろうが、あくまで演技だろう。
「辺境の村に四天王が集結して勇者が現れた理由。それはきっと……強い力を持った人間を味方にするため、じゃないかな」
「そんなことはありえません」
ララはフォルの言葉を無視して、
「家族と村人を殺して絶望させる。そして勇者が助ければ……その子は勇者様に依存するだろう。病的なまでに信じるだろう。実際にそうなった」
目の前のフォルは勇者様大好き人間になった。そのために勇者と魔王が共謀した可能性もある。
魔王軍は憎き人間どもを大量虐殺して名を挙げ、勇者様は魔物たちから女の子を1人救い出した武勇伝を増やす。利益を得たのは双方だ。
「まぁ証拠も何も無い推測さ。無責任で当てずっぽう。キミが真に受ける必要なんてないよ」
「真に受けていませんよ」明らかに動揺しているだろうに。「勇者様は……この世を平和にするために戦っているんです。侮辱することは許しません」
「了解。もう二度と言わないよ」嘘だけれど。「ボクにとってはキミが裏切られようが、魔王と勇者が裏でズブズブであろうが関係ないからね」
「そんなことはありません」
「はいはい」バカの一つ覚えだな。「キミの人生だ。キミがなにを信じるか、キミが決めたら良い」
少なくともララを信じることはないだろう。ララが今話したことは本当に根拠がない推測なのだから。
ララは正解だと思っているけれど。
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