攻撃力最強・速度最速・防御力最硬・魔法は一切使わない・ただひたすら敵を殴る・約500年無敗のマシン。以上が彼のスペックです。何年かかっても構わないので倒してください。

嬉野K

私から見れば人間も魔物も同じだ

第1話 『この先の宝がほしいなら、この私を倒してゆくがいい』ってことか?

 薄暗い地下洞窟の中に冒険者たちはいた。


「ここに、そのお宝があるのか?」


 リーダー格の男が言った。


 装備を固めた戦士が答える。


「ああ。なんでも機械の番人が守る、とんでもないお宝らしい。宝の内容は知らんが、まぁしばらくは遊んで暮らせるだろう」


 それを聞いて、魔法使いの女が笑う。


「またギャンブルだけで消費するのはやめてよ? 私だって遊びたいんだから」

「その時はその時でしょう」僧侶の男が言う。「また仕事をして金を増やせばいいんです」

「仕事って……人さらいとか強盗とかでしょ?」

「それが一番楽に、手っ取り早く稼げますからね」

「そうだね。警察とか来ても、追っ払えば済む話だからね」

「その通り。そして面倒になれば別の街に逃げたら良い。いつものことです」


 そんな談笑をしながら、冒険者たちは洞窟を進んでいく。


 リーダー格の男が言った。


「今度は女の奴隷でも買うか。適当に働かせて……邪魔になったら売れば良いからな」

「妙案だね」魔法使いが冒険者の肩をつついて、「でも浮気はダメだぞ」

「はいはい」興味なさげに肩をすくめて、「明かりが見えてきたな……」

「ここにお宝があるのかな?」


 彼らが洞窟を歩いていると、開けた場所に出た。


 そこは、


「神殿、でしょうか」僧侶が壁を触って、「……相当朽ち果てていますね……女神像があったみたいですが、ご覧の有り様です」


 本来は美しく荘厳な雰囲気がある神殿だったのだろう。だが今は見る影もなく、汚れと破壊の跡が散見されるだけだった。


 そんな場所を少し進むと、


「あれか……」リーダー格の男が言った。「……あれが機械の番人……」


 片腕の機械だった。右手にトゲの付いたハンマーを持ったマシン。足はなく、どういう理屈か宙に浮いていた。目らしきパーツは1つで、怪しげな光を放っていた。


「その後ろに扉がありますね。あそこにお宝があるのでしょうか」

「だろうな。まぁ開けてみればわかる」


 冒険者たちは無造作に機械の前に姿を表した。


 そしてその姿を見るなり、魔法使いが吹き出す。


「なぁんだ……番人っていうから警戒してたけど、ただのガラクタロボットじゃん。左腕がないし……結構壊れてるんじゃない?」

「そうだな……」戦士が警戒心も何もなく言う。「半分くらい壊れてそうだな。まともに動くかも怪しいぞ」


 冒険者たちの言う通り、その機械はかなり損傷が激しかった。ところどころヘコんでいるし、何より左腕がない。最初から隻眼の設計なわけではないだろう。


 冒険者たちはさらに機械に近づいて、


「ガラクタは放っておいて、さっさとお宝をもらおうよ」魔法使いが機械を軽く叩いて、「ほら……これも動かないし。こんなジメジメしたところに――」


 魔法使いの言葉の途中で、


「え……?」その機械の目が、ギョロリと動いた。「キャ……!」


 魔法使いが後ろに飛び、それ以外のメンバーが戦闘態勢を整える。


「壊れてなかったみたいだな」リーダー格の男が剣を構えて、「まぁ……これから壊せば良いって話だ。おいガラクタロボット」


 リーダー格の男は機械に剣を向けて続けた。


「壊されたくなかったら、そこをどけ。邪魔しないなら見逃してやるよ」


 機械はなにも答えなかった。ただその場に存在して、この場所は通さないと態度で主張していた。


「なるほどねぇ……『この先の宝がほしいなら、この私を倒してゆくがいい』ってことか?」どこかのRPGで聞いたセリフを言ってから、「残念。俺達はお前みたいなガラクタより強いよ。警察も手を付けられないような、そんな実力者たちが集まってんだからよ」


 機械は何も答えない。道も開けない。


「そうか。じゃあ……死にな。まぁ機械なんだから、そもそも生きてないだろうけどな」


 言って、リーダー格の男は剣を振るった。


 その刃は的確に機械を捉え、そして――


 その直後、とてつもない打撃音が聞こえた。


「え……?」魔法使いが間の抜けた声を発する。「……なに……?」

 

 魔法使いは状況が理解できていない様子で、周囲を見回した。


 そして壁にめり込んでいるリーダー格の男を見つけて、


「リーダー……? なにやってるの……? なんで壁に……」


 リーダーが壁にめり込んでいる理由。魔法使いはその理由をすぐに理解した。

 

 そこの機械がやったのだ。速すぎて見えなかったが、機械がリーダーを殴り飛ばしたのだ。


「コイツ……!」同じ結論に至った戦士と僧侶が、機械に飛びかかる。「な……!」


 2人の攻撃はしっかりと機械に直撃した。


 しかしダメージはないようだった。2人の攻撃は機械の装甲に弾かれていた。


 そしてまた、人間が壁に叩きつけられた。爆弾でも爆発したのかという轟音が反響して、魔法使いの耳に入っていた。

 

 戦士と僧侶が壁に叩きつけられて、そのまま動かなくなった。またしても速すぎて攻撃は見えなかったが、目の前の機械がやったことは間違いない。


 魔法使いはとっさに機械に両の手を向けて、


「インテンスヒート!」


 自身が持ちうる最強の魔法を発動した。


 業火が一瞬にして機械を取り囲んだ。まともな人間が喰らえば骨も残らない。そんな大火力の魔法だった。一瞬にして周囲の温度が上がり、水が蒸発する音が聞こえた。


 これ以上の呪文を魔法使いは持ち合わせていない。これで倒せないのなら、なにをやっても無理だ。


「あ……」


 魔法使いは呆然と声を漏らした。


 業火の中を機械が進んできていた。熱さなど微塵も感じない様子で、ただ魔法使いに向けてゆっくりと近づいていた。


「……」魔法使いは尻餅をついて、「……」


 しばらく、ただ呆然と近づいてくる機械を眺めていた。このまま殺されるんだと本能が悟って、


「ご、ごめんなさい……!」機械に背を向けて丸まって、泣き始めた。「ごめん……! お願い許して……! 二度とこないから……! 宝を奪おうなんて考えないから……! お願い……! お願い……」


 魔法使いはしばらく子供のように泣きじゃくった。こんな場所になど来なければよかったと心の底から後悔している様子だった。


 そしてしばらくして、


「……?」いつまで経っても攻撃が飛んでこないことを不思議に思い、顔を上げた。「……見逃して、くれるの……?」


 機械は最初の位置に戻っていた。扉の前に戻って、また動かなくなっていた。どうやら魔法使いに攻撃を仕掛ける気はなくしたらしい。


「ひ、ひぃ……!」


 魔法使いはその場から逃げ出した。途中で足をもつれさせて何度も転びながら、洞窟の外に出ていった。


 再び洞窟の中に静寂が戻った。


 しかし……その静寂を破るものが1人だけいた。


「ふーん……見たところ、逃げる相手は追わない感じ? 殺すことが目的じゃないのかな?」


 まだ幼さの残る、少女の声だった。

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