第30話 やっと使う時が来た
俺とエリサはゴーレムの第九階層の入り口へやってきていた。
ここは岩で作られた遺跡のフロアで、さっそく俺を発見したゴーレムがこちらに近づいてくる。
顔を血のように赤く塗ったゴーレムだ。彼は俺のそばまでやってくるとぺこりと頭を下げてきた。
「よし。まだ壊されていなかったな」
このゴーレムは俺が以前にコアをハックして手ごまにしたやつだ。幸いにもゴーレム階層で潰れなかったのでいずれ再利用しようと考えていた。
「市長……本当にこのゴーレムをドラゴン相手に戦わせるんです? なにか間違ってる気がするです」
「もちろんだ。むしろ最適解だろ」
もうひとつの前衛パーティーのアテとは、この顔真っ赤ゴーレムのことだ。
ゴーレムは前衛力だけならばかなり優れているので、今回のようなドラゴンを抑える役割には合致する。
「でもゴーレムって複雑な指示は聞けませんよね? 正直あまり役に立たないような……そもそもドラゴン階層は平坦じゃないから、階層ボスまでたどり着けない気が」
「大丈夫だ。両方とも対策は練っている」
ゴーレムには知能がないから雑な行動しか出来ないし、そもそも平坦な場所以外では転んで自壊してしまう。
なのでドラゴン階層では使えない。ただしそれは普通にすればの話だ。
「二つの問題を解決する案がある。ようはゴーレムが知恵を持てばどちらも大丈夫になるだろ?」
ゴーレムはバカだからまともに協力して戦えないし、すぐ転んで壊れてしまう。ならば賢くしてしまえばいいのだ。
「そりゃそうですけど無理ですよね? ゴーレムには知能がないですし」
「そこをなんとか出来ないかと考えてたんだ。それで思いついたのがこれだ」
俺はゴーレムに対して雷魔法を放った。
するとゴーレムはガクリと肩を落として力を失った。
「なにやってるんです?」
「説明するより見せるよ」
俺が右手を動かすと、ゴーレムもほぼ同時に同じ動きをし始める。
さらに俺が右足を前に出すと、ゴーレムもまた右足を前に出した。
「ゴーレムが市長と同じ動きをしているです?」
「雷魔法を応用したリモートコントロールだよ。これならゴーレムに外付けの知能がついたようなものだろ」
「でもいちいち同じ動きしないとダメなのです? はたから見ると変人ですよ」
「……面倒なので念じるだけで動くように調整するよ」
ようはラジコンみたいにすればいいのだ。
普通なら指示を送るのに電波発生のコントローラーが必要だが、俺なら雷魔法で自前で送信できるからな。
仕組みとしては強制転移の札と同じようなものだ。あれも送る奴らを電波に変換しているから。
「でもゴーレムをどうやって階層ボスの元まで送るのです? 平坦な階層じゃないから自壊しますよ」
「強制帰還の札を使えばいい。あれはダンジョンの仕組みを応用したものじゃなくて俺の魔法だからな。俺がいる場所に届けるくらいはできる」
「えっと。じゃあ市長も階層ボスのところまで行くのですか?」
「行かざるを得ないだろうな」
ダンジョンになど潜りたくはないが、そろそろ階層ボスを倒して欲しいのでやむを得ない。
ドラゴン階層はゾロ目だけなので今回クリアすれば、次は二十二階層まで来ないからセーフとしよう。
そんなことを考えているとエリサが首をかしげていた。
「あの。市長がドラゴンを倒したほうが早いんじゃ……市長はEXランクの冒険者ですし。プラチナウムドラゴン相手でも有効な魔法を撃てますよね?」
「それはダメだ。俺の力で階層ボスを倒してみろよ。次から俺に頼る選択肢が生まれてしまうだろ」
俺はもう頼られたくないのだ。ダンジョンにも極力潜りたくないので、自分の力で階層ボスを倒すことはもうしない。
ただ市長として街の利益を守る義務もあり、階層ボスはそろそろ倒さなければならない。なので折衷案としてゴーレムを動かすことにしたのだ。
「いいか? 俺はもう冒険者は引退したんだ。だから今回も自分では戦わない。ゴーレムを操るだけだし、苦戦しても自分の魔法を使う気はない!」
「面倒なのです……」
「面倒と言うな! 苦肉の策なんだぞ! また眠れぬ日を過ごすのかと思うといまからしんどいんだ!」
「はいはい。じゃあ早く戻りましょうねー」
エリサの反応がすごくおざなりで辛い。
だが本当にゴーレムを使うのは苦肉の策なんだ。ダンジョン市長として都市の利益を考えなければならず、そのためにはゴーレムを使うのもやむなしを判断した。
もしもこれでも勝てなければ、自分が戦うのも視野に入れなければならない。それは最悪の展開だ。
なのでなんとしてもゴーレムを操るまでで止めたい。そのためにプラチナウムドラゴンをなんとしても倒さなければ……!
そう、負けられない戦いがそこにはあるのだ!
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