第29話 もうひとつのパーティーは?
「流石は師匠ですね。あの私と喧嘩していた【闇夜の竜殺し】を説得するとは」
「だろ?」
俺は屋敷の応接間でソールレイスとお茶をしていた。互いに紅茶をカップで飲み、茶菓子が机に置かれている。
いや我ながらよく説得できたものだ。もっと褒めたたえられてもいい偉業だと思う。
「あの者がなぜ怒ったかは未だに分かりませんが」
「普通の人に人生の負け犬と言ったら怒るに決まってるだろうが」
「私なら言われても怒りませんよ。あの状況で臆するならもう負けですから」
「そりゃお前だけだよ……」
ソールレイスに後退の二文字はない。あるのは転進か前進だけだ。
実際こいつが【闇夜の竜殺し】の立場だったら、間違いなくドラゴンに挑んでいると断言できる。無論、単独ではなくて他冒険者パーティーと協力するだろうが。
「それで師匠。私のためにありがとうございます。お礼にこの身体を捧げますが先に婚約しておくべきと思います」
「頼むから意思疎通の努力をしてくれないか?」
「ちゃんと伝えているはずですが」
「一方通行って言葉知ってるか?」
「一方でも伝わってますよね」
ダメだこの娘はやくなんとかしないと。
ソールレイスは相手に対して伝えるだけで、説得とか理解とかが欠けてるんだよなあ。
「それと【闇夜の竜殺し】が参加するとしても、まだ戦力が足りないと思います。優秀な前衛パーティーがもうひとつは欲しいところです」
「そちらはアテがあるから大丈夫だ。それよりももう少し他人との協調性を……」
「ご安心ください。【闇夜の竜殺し】はもう負け犬ではありませんので、ちゃんと話せるかと」
「そもそも負け犬って言葉を使うな」
こうしてソールレイスとのお茶会は終わった。そして入れ替わるようにやって来たのは【熱き黒鉄の漢たち】のバングだ。
すでに机の上には酒の入った木のグラスと、つまみのトンカツなどが用意されている。
市長たるもの招待する相手の好みは把握しているのだ。
「市長。俺に何の用だ?」
「なにちょっとお願いがあってね。それとよければ酒を飲んでくれ」
「そりゃ頂くさ。出されたモノはなんでも食うし飲むぜ」
バングはぐびぐびと酒を飲み、トンカツを口に入れた。
「おお! やはりトンカツうめえなあ! 市長、あんたこれ考えたのマジですげーよ」
バングは機嫌よくパクパクとカツを食べ続ける。
髭面のオッサンなのに見ていると餌付けしたくなるから不思議だ。
「俺が考えたわけじゃないよ。それで本題だが君にプラチナウムドラゴン討伐時の臨時リーダーを頼みたいんだ」
「うっめ! うっめ! ん? 俺よりもソールレイスのほうがよっぽど強いじゃねーか。あいつに頼んだ方がいいだろ。いやこれ酒もうめーな! ぜんぶうめーやがはは! これお代わりもらえねえか?」
ガツガツとカツを食べまくり、ぐびぐびと酒を飲みまくるバング。
「おうあんたは飲まねえのかい?」
「酒はあまり強くないんでな」
さっきまでのお茶会とは打って変わって酒会になってしまっている。いや俺は飲んでないけど、バングの飲んでる酒の匂いで酔いそうだ。
「ソールレイスは絶対にダメだ。あいつに合同パーティーのリーダーなんかやらせたら、ボス戦に挑む前に臨時パーティーが崩壊するぞ」
「……いやソールレイスって【女神の四剣】のリーダーじゃないのかよ」
「あいつは合う奴と合わない奴の差が激しいんだよ」
ソールレイスにはカリスマがあり、もし彼女が指揮官になれば大勢の者を心酔させるだろう。
だが彼女は誰とでも仲良くできるようなタイプではなく、合わない相手とはとことん合わないのだ。好まれる数も多いが、それ以上に嫌われてしまう。
日本でも織田信長は多くの人間から嫌われてたらしいからな。
【女神の四剣】はソールレイスと波長が合うメンバーだから、まったく問題なく成り立っている。
そして【闇夜の竜殺し】のリーダーとは間違いなく最悪の相性だし、ついでに追放者ルメスちゃんともたぶん相性悪そうだ。
だって有能なのに追放されるメンタルよわよわ娘だぞ? むしろソールレイスとかみ合うところが想像つかない。
「しかし俺はリーダーってガラじゃねーけどなあ。パーティー内のリーダーやってるのもじゃんけんで決めたくらいだし」
「大丈夫だ。できるできる」
むしろ適職だと断言できる。
なにせグビッとグラスの酒を飲み干すバングの姿は、山賊のお頭にしか見えないのだから。
いやすごいお頭だよ。なにも知らない人を十人集めても、みんながバングのことをお頭と言うだろう。
「まあいいけどよ。プラチナウムドラゴン討伐時だけだし、どうせ大したことはやらなくていいんだろ? 名目上のリーダーってだけで」
「そうだな。基本戦術は戦う前に話し合ってるだろうし、おそらく撤退の判断などを決めるくらいの役目だろう」
「それくらいならやってやるよ。しかし俺よりも強いな奴らがいるのになあ」
「強い奴にリーダー適正があるとは限らないからな」
スーパースターだったプロ野球選手が、監督になるとてんでダメなんてことはよくある話だ。
「そうかい。じゃあ引き受けてやるさ。それで用件は終わりか? それなら帰るぜ」
「わざわざ来てもらって悪かったな」
「そういう時は礼を言うもんだろうよ」
バングはニヤリと笑ってウインクした。その男らしい姿を見れば手下の山賊は憧れるだろうな。
「だがまだ戦力が足りない気がするぜ? 優秀な前衛が不足してる気がする」
「それなら大丈夫だ。アテがあるから」
そうしてバングは帰っていったので、俺も外に出る準備をし始める。
その優秀な前衛のアテに行くために。
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