異世界転移したらいつの間にか王女誘拐してて指名手配されてるけど世界最強のひきこもりには関係ありません。

情蝶

第1章 異世界転移

第1話 赤信号、みんなで渡れば怖くない


この街にきて一週間ほど経つだろうか。


宿の一部屋で俺は「猿でもなれる冒険者」という本を読みながら仲間の帰りを待っていた。



この街に着いた俺たちは冒険者ギルドへ向かっていた。

その道中、なにやら人だかりを見かけ近づいてみるとその中心に一枚の似顔絵を持つ近衛兵がいた。


王都で第三王女「ユリアナ」の誘拐事件が起きたらしく、その犯人の顔だという。

その男を見つけた人には報奨金を出すそうだ。

いわゆる指名手配犯ってわけか。

王女を誘拐するなんて馬鹿なやつもいたものだ。



「なんか俺に似てないか…?」



最初は顔が似ているだけだと思った。

しかし顔の下に書かれている名前を見た時、自分の首に大金が掛けられていることを知った。





ーーーーーー





大学二年生も終わりを迎えた頃。


俺、「あまのみこと」は家で毎日ゲームをしていた。

正確には留年しているので大学一年生なのだが、今年も行けずにもうすぐ二度目の留年が待っている。


大学にも行かず毎日家にいる俺は、いわゆる引きこもりニートってやつだ。


腹が減ったら飯を食い、眠くなったら寝る。

最高の毎日を過ごしている。


だがそこら辺の引きこもりと一緒にしないで欲しい。

俺は毎日働いておりそのお金で生活している。


自宅警備の仕事だ。


毎日この家を、いや守るべきこの場所を警備している。

親からの毎月の仕送りはその報酬だろう。

そうに違いない。だからこれは仕事だと胸を張って主張する。



俺は大学進学と同時に上京してきた。


憧れの都会。

俺は夢と希望に満ち溢れていた。


サークルに入った俺は、女友達ができた。

彼女も上京してきたらしく、友達がいないので友達になろうと言ってきた。


彼女はそれからよく話しかけてくるようになった。

今思えば一目惚れだったのだろう。

彼女のことを好きになるのに時間はかからなかった。


どうすれば好きになってもらえるのかを考えた結果、自分の優しさを売り込むことにした。

自分でいうのもあれだが、顔は整っているほうだと思う。

あとは中身を知ってもらうだけだ。


それからというもの、彼女と被っている講義では二人分のノートを取り彼女に渡すようになった。

彼女は受け取ってくれなかったので、こっそりカバンに入れることにした。

喜ぶ顔が目に浮かぶ。

サークルでは常に彼女のことを目で追うようになった。

たまに彼女と目が合うのだが、すぐに反らされてしまう。

きっと照れているのだろう。



サークルで飲み会が行われることになった。

当然、未成年なのでお酒が飲めず彼女は緑茶を飲んでいた。

緑茶には利尿作用がある。

その居酒屋は個室トイレだったので一人ずつしか使えなかった。

彼女がトイレに行きたくなった時に先客がいたら困ってしまうだろう。

俺は彼女が席を立つ度にトイレへ向かい、人がいないかを確認。

人がいたらドアを叩きまくって出ていかせた。

なんて優しい男なんだ。


もう十分俺の優しさは知ってもらえただろう。

次に会ったら告白することにした。



ところが次の日から彼女はサークルにこなくなった。


彼女の姿は同じ講義で見かけるのだが、いつも時間ギリギリにきて反対側に座り終わったらすぐに帰ってしまうので話しかけることができなかった。

仕方がないので毎朝彼女の最寄り駅で待つことにした。

出会ってすぐの頃に一度だけ一緒に帰ったことがあったので、その時にしっかり覚えておいた。


数日後、彼女が現れた。

その日は雲一つない快晴だった。

神様も応援してくれているのだろう。

彼女は日差しが強い日には日傘をしているので、すぐに見つけられた。


男らしく行こう。

俺は彼女の前に行き、告白した。



彼女は泣きだしてしまった。





次の日、先輩に呼び出されてもうサークルにはこないでくれと言われた。


どうやら彼女がサークルにこなくなったのは俺が原因だったらしい。

飲み会でのことも、全て気づかれていたようだ。

最初に気づいたのは先輩で、様子を見ていたら確信したそうだ。



頭が真っ白になった。


家に帰り、何度も考えた。

何がいけなかったのか 。

試しにノートに自分のしてきたことを書いてみたら、あまりに気持ち悪い童貞の勘違いノートが完成した。



恋は盲目という言葉がある。

その時は自分では気付けないのだ。

今までの行動を思い返す度に悶絶した。

我に返った時しまったが最後。



俺は大学に行けなくなった。



それから一か月、二か月。

時間だけが過ぎていき、気が付けば一年半ほど経っていた。

形上はもうすぐ三年だ。

テストを受けなかった俺は一年生の単位をほとんど取れず当たり前に留年。

親には二年はきちんと行くことを条件に許してもらったが、結局一日も行くことはなく二度目の留年だ。



「腹減ったな…」



その日はいつもと変わらず飯を調達するためにスーパーに向かっていた。

少し歩いた先にある横断歩道を渡ってすぐのところだ。


横断歩道についたとき、赤信号になってすぐだったこともあり何人かはまだ歩いていた。

赤信号、みんなで渡れば怖くないという言葉がある。

俺は迷わず赤信号に立ち向かう人たちの背中を追った。


俺の意識はそこで途絶えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る