ネットの映像『ミウくんじゃない幽霊』

ネットに流出した映像


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夜の歩道橋をカメラの持ち主が登っている映像


「9月12日、23時」と声が入る。カメラの持ち主の声だろう。


歩道橋の階段を登り切ると、持ち主の呼吸が荒くなる


カメラが数回、左右に大きくブレる


誰かの声が聞こえる。持ち主は相変わらず荒く息をしているので、別の人間だとわかる。


声は、少しノイズが入る感じがして、聞き取りづらい。


「たい、かな」


カメラが声の方に向く


カメラの画質に比べて、妙にぼやけた男が歩道橋の下の道路を見下ろしている


「いた、かったよな」


カメラが男に近づく


「おれもさ、すごく痛かった」


男はハーフアップで、ゆったり目のシャツを着ている。


声がはっきりしてくる。


「でも、何もできなかったからなぁ」


「……くんのこと、大事だって思ってたのに」


「あの、さ」


「ずっと、落ちてるんだよな」


「おれ、なんもできなくて、ほんと」


「でも…は…くんにさ、おれ、悪いことしてほしくなくて…優しかったじゃん」


「してほしくなくてって…いまさらだけど…おれ、ずっと今更だなぁ」


声が涙ぐむ


カメラが大きく揺れたあと、ズームする


男の顔がわかる。りくとだ。


なんで?ミウくんじゃない


画面が再び揺れる。


りくと

「もう、死んじゃってるひと、いるしさ……おれ、おれ全然…全然ダメで…バカだから…バカなせいで高橋くんが嫌な思いしてる時何にもできなくて」


りくと

「誰かに落ちて欲しいんだったらさ…おれがずっと、何回でも、落ちるよ……ずっとずっと、付き合うから」


りくとが体を折り曲げ、歩道橋から飛び降りる。


持ち主

「あっ」


カメラの持ち主が、何度も浅く息をする。


カメラが少し後ろに下がった後、持ち主が小走りでりくとのいた場所に近づく。


カメラがズームで下の道路を写す。


普通の道路で、りくとの死体は映っていない。


しばらく持ち主の荒い息が続く。


「はやくいけよ」


飛び降りたはずのりくとのこえが、カメラの近くから聞こえる。


持ち主がカメラを持ったまま振り向く。


りくとが持ち主の横に立っている。


りくと

「別に、俺が何かできるってわけじゃないんだよな。ただ、一緒にいて、それしか出来ないから、だから、今は平気でもあんまり長居するとやっぱりさ」


突然、音が無くなる。わずかにノイズが入る。


画面が真っ暗になる。


りくと

「──死ぬぞ」


少し低い声。画面にノイズが走り、映像が映る。


カメラの持ち主が走って、反対側の階段に向かう。


りくと

「もう、ここもダメなんだと思う」


カメラの持ち主が階段を降りる後ろから声がする。


りくと

「汚れてるのかな、穢れてるって方が正しいのかも知んないけど、あいつをみた人が死ぬと、そういう場所になるんだと思う」


りくと

「おれが一緒に落ち続けてると、高橋くん、喜ぶから」


りくと

「はやくいけ、はやく」


カメラの持ち主が階段を降り切って、何度も大きく息をする。


「あ」

カメラの持ち主の声。


映像が終わる。


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この映像が撮られた日にちが正しいなら、りくとはもう死んでるはずだし、そもそも映像の中で飛び降りた後にしゃべってるし


だから幽霊はいる


それで、じゃぁミウくんはなんで俺の


なんのために幽霊になったんだろう。

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