第二話 たいがいにせーよ

「でねぇ…聞いてよアッキー、私が何度も言ってるのに大樹が~…んっ!…ん~」


 来るんじゃなかった…。


 そんな嫌な雰囲気も出さず聞いてあげてる私は、もしかしなくても前世は菩薩様だったと思う。

 でも菩薩様って男女の性を超えている、と考えられてるって教授が言ってたっけ。


 私、女性を辞める気はないんだけど…。


 いつものように友人である真冬の愚痴を、行きつけのファミレスで聞くのが日課のようになっている大学生活は、充実しているのかいないのか…。

 真冬も調無理しないでまた今度にすりゃいいのに。


「真冬、調子悪いの?」

「ん~ん、なんでもない。それでね~」

「ハイハイ、それで? 真冬が何度も言ってるって…何だっけ?」

「だからぁ、私が料理当番全部受け持つから、大樹は無理しないでって」


 まぁ、そうだろうね。真冬は料理下手ではないし、高校の時に比べれば栄養バランスの偏りも少なくなった…けど。


「大学生の男性に毎日精進料理は…、健康に気を付けるのはわかるけど」

「だって内臓の健康は今のうちからって」


「確かにね、早めに健康を気にするのは良いことだけどね」

「それに半年前くらいから大樹、どんどん体重落ちちゃってて…」


「この前の大学の健康診断の結果、悪かったの?」

「全く異常なしって、痩せすぎだけど問題ないって…でも」


「なんなのよ…何か気になることでも?」

「うん…最近、大樹が無理してでも食事を取ってて」


「なに? まさかストレスで過食症とかじゃ…」

「わかんない…でも体力つけないと死んじゃうからって…」


「ちょっと…深刻じゃないの…病院連れてかないと。他に気になることとかないの!?」

「大学入ってからだったのが、夜だけになっちゃって…」


「夜だけ? いったいなにを…」

「んっ!………子づくり…」


 ぶーーーーーっ!!!!!アイスコーヒー吹いた!!!!!


「あんた達、入学と同時に同棲してたわよね…と言うことは今二年の夏前だからざっとで一年三ヵ月…朝晩やりまくってたってこと!?」

「アッキー声おっきぃよぉ…」


「真冬は、男性が何度もできるって思ってたの? 女性と違って回数制限あんのよ?」

「? そうなの? 大樹、私のこと気持ちよくしてくれた上で、何度も何度もおっきくなってたけど 」


「なに、あいつ絶倫とかそういうファンタジー系の男だったのか…」

「マカ〇ンビンとか言うの、ダースで買い置きして毎日飲んでるけど」


「今すぐ止めさせなさい! 今すぐにっ!」

「ふぇぇぇんアッキーが怒ったぁ…」


「当ったり前でしょ! 肝臓と腎臓やられてマジで死ぬわよ! 今すぐ連絡して止めさせなさい!」


 怯えた真冬が涙目でスマフォを操作し、初夏君に通話し始めた…デジャブだわ。

 

「うん、今時間大丈夫? うん、いつもの大樹とのにゃんにゃんのことで…うん、無茶させててごめんねって。うぅん、そんなことない! 私が我儘だったから…うん、うん、もう無理して飲まないでね。うん、それだけ…ん、だよ、またね…帰ったら…だよ。大好き、チュッチュッ」


 今日はあらかじめ、予備を取っておいてよかった。少しビターなエスプレッソが、美味しく感じる。


「アッキー大丈夫だったよ! 大樹これからは無理しないって! 体力づくりするし、栄養剤なんかに頼らないからって! 真冬に我慢させてごめんだって! もう! 大樹ったら~もう! 大好き! 」

「そうよかったわね。帰っていいかしら」


「今来たとこなのに? アッキー冗談下手なんだから~」


 あ、殴りたい…この笑顔。


「それにしても、一年以上やりまくっておいて、よく妊娠しなかったわね」

「それは、大樹がちゃんと避妊してくれてたから…私のこと大切だけど責任取れるようになってから、ちゃんと子供を作ろうって」


「まともなこと言えんじゃない。きもい馬鹿だとしか思ってなかったけど…あれ?じゃあ子づくりは言葉の綾ってことか」

「それは…その…ゾネちゃんを、私が外したり穴開けたりと…」


「ゾネちゃん?」

「ZONEのコンドーム…」


「このバカたれっ! なんで彼氏の想いを、あんたが踏みにじってんのよっ!」

「だってぇぇ~、大樹と私の赤ちゃんならきっと可愛いだろうなって…」


「わかるけど! 学生だから私達! 学生結婚する人もいるけど。彼氏が大事にしてくれてんだから」

「うん…んっ」


 でも個人的には、朝晩出来るのも凄いけど、休みの日なんかどうだったのかしら…気になるわ。それこそ一日中…じゃないわよね。


「真冬が大事にされてるのは分かったから、安心したわ。でも同棲してれば場所を気にしなくてもいいし、ホテル代も浮くから安上がりね」

「うん…それはそうだと思うんだけど…」


「また歯切れの悪い…悩みがあるなら言いなさいよ」

「アッキー怒らない?」


「はぁ…大学生になってまで怒んないわよ」

「さっき怒ったばっか…」


「いいから、はよしゃべれや」

「ひぃぃっ…わかった。大樹も家でするのもいいんだけどって…」


「…それで」

「たまには使と、お互いに良い刺激になるからって…」


「なんか読めてきたわ…」

「たまにラブホテルだったり、お外でも少々…」


「あんた達、多目的トイレは絶対に止めなさいよ。少し納まったけど、世間は厳しいからね」

「うん…人に迷惑かけちゃいけないよね…」


 ちゃんと話せば、真冬は理解もするしなのだ。

だから、ほっとけないんだけどね。


「常識の範囲内かは線引き難しいけど、お縄になったりしなければ怒ったりしないわよ」

「そっか…アッキーは、やっぱり優しいね」


 ほんわかした優しい空気が心地いい…友人がカップルとして幸せであるなら、私だって嬉しいものなのだ。

 頬を赤らめて幸せそうな姿は、羨望でもあり喜びでもある。


「じゃあ今日は夕方まで、一緒にショッピングでもする?」

「うん! そうだね…いk…いっ…」


「真冬? どうしたの? さっきからおかしい…」

「!…っくぅふぅぅぅ……」


 真冬が、自分の服の袖を噛んで堪えたかのようになり、テーブルに突っ伏した。

慌てた私はすぐに真冬の横に移動して…。


「真冬! 大丈夫! きゅ、救急車? 店員さん呼ばないと…」

「アッキー大丈夫だから、ゴメンね心配かけて…」


「なんなのよいったい………あ、あんたまさか…」


 私は、本当にに…。

真冬のスカートを上からガサガサといじると………あった………。


「アッキー…? 素敵な笑顔が…とっても、怖いかな~って」

「そうかもしれないわね、誰かさん達のおかげで。今の私の気分は怒髪天を衝いてるの…残念だけどショッピングはやめときましょう」


「そ、そうだね。じゃあ、また今度ということで…」

「真冬」


「はい?」

「ちょっと初夏君、呼んでくれない? お話があるって」


「大樹は今、ちょーっと忙しいかなあって…」

「……………呼びなさい」


「はい………」


 私の心配と喜びを今すぐ返してもらおう……その迷惑をかけてはいけない人の中に、私が入っていなかったか…そうか。


 羨望なんてないわっ!


  明日は休日、それなら今日は思いっきりお話し合いができそうね。


 楽しい時間になりそう。


 覚悟しとけや!


 この煩悩バカップルどもがっ!!!!!



なんでつづいた…

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