第6話
あれから一週間が経った。
『きゃあ!』
周りから、黄色い声が聞こえる。
その声が向けられているのは、カナタと霧島の二人だ。
二人の交際は、霧島の友達が気を使ってくれたお陰で広められることは無かった。
精々、呼び出されたことに関して噂が立つ位。
あの現場にいて、告白を見ていた生徒だけが、昼休みになると人気の少ない旧校舎裏の物陰に隠れた綺麗な広場で、こっそりと会っている事を知っているのだ。
「あ、あの…今日も、二人きりじゃ?」
「……文句あるなら一人で食べたら?」
初めて彼氏が出来て、調子が狂ったのも最初だけ。
唯一愛してくれるこのカナタという男も時間が経ち、慣れてしまった今、何一つ特別に感じる事は無くなっていた。
大々的に身体を触れる訳でも、キスをする事もできない……愛してくれていても、身体を許してくれている訳では無いから、もし触ろうとすれば訴えられるかもしれない。
これなら、商品で遊んでいた方がずっと楽しい。
昼休みになると友達が急かしてきて、彼とここで会わないといけなくなって、寧ろ鬱陶しく感じる。
何でこんな気の弱い男一人に、自由な時間を無くされないといけないの?
「ねぇ」
不機嫌な声が出る。
「は、はいっ!」
「少し、二人きりになりたいんだけど」
「えっ?…あ…い、いいんですかっ!?」
嬉しそうに笑顔を見せる。
これが、見慣れるほどの顔ではなく、イケメン……もしくは、私の好みだったら良かったのに。
唯一、彼と一緒にいて良い事といえば。
こうやって私が何かを『男』に頼める存在だと周りに見せつけれる事だけ。
『男に直接意見できるなんて凄い』
『強気で話せるなんて凄い』
『羨ましい』
『私もそんな風になりたい』
そんな感情を向けられているのが分かる。
優越感……それだけが、今現在私にとっての彼を彼氏にし続ける理由だ。
それだけじゃ足りない。
「早く」
それだけ言って、私は彼を付いてくるように呼ぶ。
友達に顔を向けると『分かってるよ』といわんばかりの表情で見送ってくれる。
「あ、あの…?何処まで…?」
不安そうな声が付いてくる彼から聞こえる。
「………」
周りを見て、誰も居ないことを確認する。
ここらへんでいいか…。
ドンッ!
「っ!??」
「ねぇ…あんた、まだ私の恋人でいたい?」
壁に押しやり、彼の顔に手を当てながら聞いた。
今まで触るのを我慢していたけれど、もうやめる。
「私、もうあんたに飽きちゃったんだけど。悪いけど男なんて代わりはいくらでもいるから」
本当の事だ。
学校で無ければ、月に何人も好きに出来る。
「それでも、私の恋人として居たいなら……………分かる?」
「っ」
彼の身体にゆっくりと密着する。
片手は彼の顔に触れたまま、もう片方の手を彼の腰辺りから背中へと回していく。
別に、このまま否定されてもいい。
今、彼に身体を触れることを許してくれない様なら今後も、好きに触れることは出来ないだろうから。
それならいっそ、否定されて訴えようとしてくれたほうがマシ。
一応、ママには彼の事を言っているから。
訴えられる前に、拐ってもらえばいいだけだから。
嫌だけど我慢して私に従うか。
それとも、私の恋人をやめて身体に触れたことを訴えるか。
彼はどっちを選ぶんだろう…。
「わか…りました」
「えっ」
一瞬、なんて答えたのか耳を疑った。
聞き間違いでなければ、彼はわかったと答えた。
それは、私が彼の身体に触れることを分かったと言ったように聞こえた。
「…っ……わ、わけ分かって言ってるの?」
男の身体に触れる事は慣れているはずなのに、私は大きく胸を鳴らしてゴクリと唾を呑み込んだ。
怯えながら小さく怯える彼。
「しょ…証明して」
本当に、私に触れさせる事を許してくれるのか、行動で証明する様にと、一度彼から身を離す。
男である彼自ら触れる事が出来るのなら、それは本当だと言うこと………。
別れる為に言いだした事だったのに…どうしてこんな事になったんだろう。
彼は、戸惑いながらも恐る恐る手を伸ばして来る。
男から触れられる……商品で遊ぶ時でも、そんな状況は体験した事がない。
触れられる事が抵抗できないのであって、商品が動ける訳じゃない。
「………っ///…なに…?………これ…」
「えっ…な、なんですかっ?」
思わず漏れた言葉に、彼は伸ばした手を引っ込めてしまう。
「っ!なんでもないから続けて!」
無意識とはいえ、独り言のを呟いてしまった恥ずかしさを誤魔化すために大きな声で続けるように言ってしまった。
ゆっくりと近づいて来る彼の手………それは、やっぱり女の身体に触れたくないのか、私の手に触れようとしている。
まだ触れていない……触れていないのに、何故か私の手はあたかも触れているかの様に感じてしまっている。
ヒクヒクと軽く痙攣する様に……そして、その痺れが手から胸の奥へと流れる様に……。
なんなの…?この感覚。
「……っ///…んっ///……………」
そして、やっと彼の手が本当に触れた時。
今まで感じていた痺れが、一度大きい物に変わった。
ビクリと、自分の身体が反応した事が分かる。
それからは、擽ったいようなよくわからない感覚が続いた。
「……あの…?」
戸惑っている彼の事に気付けない程の感覚。
「………ぁ…」
もし、手ではなく…身体に触れられたらどうなるんだろう。
私の頭の中には、それでいっぱいだった。
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