第49話 建築と表札




 会議場を作ると決めると、俺たちはさっそく住居近くにある資材倉庫から、大量の木材を運び出していった。


 建築予定地は世界樹の南側。ちょうと公園の反対側に位置する場所だ。もちろん、すでに用意していたものだけでなく、建築場所に生えていた木もカットして有効活用させてもらうことにする。


 俺や葵、七仙のみんなはもちろん、この島に来てレベルが上がっているリケットさんやロロさんも、軽々と大きな木材を運んでいた。


 みんな人間離れしてきているなぁ……この世界基準的には、わりとできることなのかもしれないけれど、地球出身の俺としてはやはりまだ慣れないんだよな。


 みんなで相談し、ある程度建物の間取りを決めてから、着工。

 主体となるのは、一番の経験者である建築戦隊アオインジャ―である。


「アルカさんその木材こっちに投げて~」


「――な、投げ!? だ、大丈夫なのか!? 危ないぞ!?」


「シャルロットさん、こっち終わったから手伝いますよ」


「――ちょっ、も、もう終わったの!?」


 葵たちはきびきびと、そして作業に慣れていないであろうアルカさんとシャルロットさんは、葵の指示にあたふたしながら建築を進めていく。メノさんは灯や水道などの魔道具担当、俺は扉などの建具を担当し、リケットさんとロロさんは、建築するときに出た廃材を回収してくれているような感じだ。


 ちなみにルプルさんは、なにか手伝おうとして俺たちに周りをうろうろ歩き回っていたので、カーテンづくりをお願いしておいた。部屋で作るのは寂しかったのか、テーブルを近くに持ってきてそこで作業をしていた。


「アルカ殿、そこは違うでござる」


「シャルロットさん、慌てなくてもいいんですよ」


 葵たちはバタバタしている二人に優しく声を掛けるが、彼女たちは「すまない!」「ご、ごめん!」と焦っている模様。七仙の人たちが子供の指示に従いあたふたしている姿って、ここでぐらいしか見られないんじゃないだろうか。





「本当にできちゃったんだけど……」


「私たちは本当にお手伝いレベルだったな……」


 完成した会議場を見上げながら、アルカさんとシャルロットさんがうわごとのように口にする。今回はいつもと違う造りであったり、途中で間取りを変更するなどのハプニングもあったりしたから、少々時間が掛かってしまっていた。


 それでも、完成したのは夕方の五時ぐらい。三時間ちょっとで作り上げてしまっている。相変わらず葵たちはすごいなぁ。


 会議場は二階建てで、一階に会議室、談話室、書庫、調理室などがあり、二階に寝泊まりするようの個室を作っている。俺や葵たちが住んでいる家よりも少し小さいぐらいの建物だ。


 呆然としている二人の前に、リケットさんとロロさんの二人がやってくる。彼女たちはそれぞれ、楕円形の木でできたプレートのようなものを持っていた。


「あの、これよかったら使ってください」


 リケットさんが代表してそう言い、二人はそのプレートをアルカさんとシャルロットさんにそれぞれ手渡す。彼女たちは困惑した様子でそれを受け取ると、プレートに視線を落とした。


「これは……? どうやら私たちの名前が書いてあるようだが」


 アルカさんは受け取ったプレートを三百六十度、色々な角度から観察しながらそう口にする。どうやら、あのプレートには彼女たちの名前が書かれているらしい。


「お二人はあまりこちらにこられないとのことでしたので、自分のお部屋がわかりやすいほうがいいのかな――と勝手ながら作らせていただきました」


 今度はロロさんが口を開き、このプレートの意味を説明してくれている。


 なるほど、部屋の扉に付けるためのプレートか。その辺りのことは何も考えていなかったなぁ。葵たちも個々人の部屋はあるとはいえ、みんな覚えちゃっているし、他のみんなはそれぞれ家があるから、必要性を感じていなかった。


「――っ! あなたたち、本当にいい子ね!」


 感極まったらしいシャルロットさんが、目の前にいたロロさんに抱き着く。年齢差的には『抱擁する』みたいな表現のほうがいいのかもしれないけど、身長や見た目的に、どっちかというとシャルロットさんのほうが子供っぽいんだよなぁ。


「ありがとう二人とも、ではさっそく私は部屋を決めてくる――っ!」


「ちょっ、待ちなさいよアルカ! あなた先輩に一番を譲ろうとは思わないわけ!?」


 そんな会話をしながら、二人はものすごい勢いで会議場に入っていく。とはいえ、ステータス任せのとんでもないスピードではなく、家を壊さないように、そして事前に説明した通りしっかりと靴も脱いでからだ。それでもアホみたいに速いけど。


 平和だなぁ。


「ねぇねぇお兄ちゃん、私たちも部屋のプレート欲しい!」


 ヒカリが俺の袖を引いてそんな風におねだりをしてくる。そしてその後ろには、シオン、アカネ、ヒスイ、ソラが綺麗に整列していた。なんで君たちは順番待ちをしてるんだ。


 これぐらい、俺に頼まずとも自分でも作れるだろうに――まぁそこは、死別した兄に作ってもらいたいのだと思っておこう。


「もちろんだとも。せっかくだし、一緒に作るか」


「「「「「やったー!」」」」」


 喜びの声を上げた五人は、すぐさま廃材がまとめてある場所へ駆け出していく。そして葵たちが去ってすぐに、リケットさんとロロさんが俺の前にやってきた。


「あ、あの、プレートは作ってあるので、名前だけ掘ってもらったりとかできませんか……? 時間があるときで大丈夫ですので!」


 リケットさんもロロさんも、それぞれ大事そうに木の板を胸に抱えている。

 俺を頼ってくれるのは、感謝の気持ちの現れだったりするのかなぁ?


「それはもちろん構わないけど――俺でいいの?」


「はい! お願いします!」


「お願いします!」


 リケットさんとロロさんが、そう言って俺に何も書かれていないまっさらなプレートを手渡してくる。あいにくまだこの世界の文字はわからないから、彼女たちに教えてもらいながら頑張るとしよう。ステータスのおかげで、たぶん綺麗に文字は掘ることができるだろうし。


「ルプルもほしいのだ! アキト、作ってほしいのだ!」


 そう言いながら、ルプルさんが丸太を抱えて走ってくる。どれだけでかいプレートをつくるつもりなんですかあなたは。もはや看板レベルじゃないですか。


 主張の激しいプレートになりそうだなぁと苦笑していると、いつの間にか姿を消していたメノさんがテコテコと俺の元にやってくる。


 どうやらメノさんも俺に頼みたいらしい――そう思って嬉しくなっていたのだけど、よく見ると彼女の持つプレートにはすでに文字が彫られていた。


 ま、まぁそうですよね。みんなに頼まれてアイドルのような気分になって浮かれていたけど、みんながみんな俺に頼みたいわけじゃないもんな。反省反省。


 俺は神様から力を与えられただけの、ただの人間なんだから。


「メノさんも作ったんですね。玄関扉につけるんですか?」


 ちょっと気落ちしてしまっていることを悟られぬよう、笑顔で問いかけてみると、彼女は首を横に振る。


「……これ、こっちの世界の文字でアキトの名前書いた。あげる」


 そう言って、彼女は俺に押し付けるようにしてプレートを渡してくる。


「あ、ありがとうございます」


 ……どうしよう。メノさんが可愛すぎるんですけど……っ!




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