第15話 魔力網で簡単ゲット



 その後メノさんには、葵のこともきちんと紹介した。


 最初は世界樹のことを優先して『俺の妹です』とふんわり説明していたのだけど、魔物であるということ、『ミソロジースライム』という未知の種族であることにまず驚いた。


 それから各々がレベル2500、さらに合体すればレベル5000ということを知った彼女は、もう驚くことをやめていた。


「……この島は例外が多い。アキトと家族も例外だと思うことにした」


「あ、ハイ」


 諦められてしまった。

 俺としても、世界樹の母さんだったり、分裂した葵だったり、9ばかりの俺のステータスだったりと突出したものばかりだなぁと思うから、彼女の感想も仕方がないことだと思う。


「……でも、アキトが幸せそうでよかった。アキトは、人のことばかり考えすぎ」


 優しい口調でそう言ってくれたメノさんに、勢いよく立ち上がった葵たちがぐいぐいと距離を詰めていく。


「そうだよね! メノお姉ちゃんもそう思うよね!」

「メノお姉ちゃん! もっとお兄ちゃんに言ってあげて!」

「拙者も同意! 同意同意!」

「そう言ってくれる人が身近にいてよかった」

「私もそう思う!」


 アカネ、ヒカリ、シオン、ヒスイ、ソラ――それぞれが俺への不満をぶつけるように口にする。その勢いに、メノさんはたじたじになっていた。


 別に俺だって人のことばかり考えているわけじゃないんだけどなぁ。

 自分の生活だってちゃんと気にしているし、誰かれかまわず幸せにしたいと思えるような聖人君子ではない。


 病気で苦しんだ葵や母さん、そしてつらい思いをしてきたであろう生贄の子に関しては、優先しようと思ってしまうが。


 なんだかこの六人で変な結束力ができてしまいそうで怖いなぁ。

 でもそれと同時に、メノさんと葵が仲良くなってくれたらいいとも思う。メノさんとしては不老の友人が欲しかったようだし、葵も俺とばかり話していてもつまらないだろうし。


 精神年齢がかなり離れてしまっているのが気がかりではあるけれど、彼女たちなら、案外うまくやれそうな気がした。




「さて」


 メノさんが世界樹の果実の味を噛みしめつつ葵たちと話している間、俺は洞窟そばの川にやってきていた。


 時刻は十二時四十五分――一時から作業を再開する予定だったけれど、休憩を十五分延長して一時十五分から作業を再開することにした。


 メノさんと葵が交流するための時間を設けるという理由はもちろんだけど、俺にも目的があったのだ。


「できれば驚かせてあげたいしな」


 俺は『洞窟から魔鉱石を持ってきておく』という嘘を吐いてこちらに一人でやってきたのだけど、本当の理由はそうじゃない。


 葵の大好物は、魚なのだ。肉や果物が嫌いというわけではないが、魚が好きなのだ。


「食べられるような魚がいればいいんだけど」


 海に向かって全力疾走するという方法も考えたけれど、あまり時間がない今日はこの川で我慢することに。見た感じ魚は泳いでいるようだし、このステータスがあれば捕まえられないってことはないだろう。


 川幅は五メートルないぐらい――そこに半分に割った丸太の橋を架けて、その中心に腰を下ろす。向いている方向は上流側。


 流れに逆らうような形で、俺は手を川に向けた。


 そして、魔力を操作。細い魔力の糸を大量に出して、更にその糸同士を横糸で繋いでいく。そうして出来上がった横長の網を、水の中に入れた。魚を捕まえる網というよりも、バーベキューに使う網って感じだ。


 川の流れによってそれなりの負荷が魔力網にかかるはずだけど、まったく筋肉への負担はなかった。金魚すくいをするような感覚である。


 障害物を避けながら徐徐に網を水中で伸ばしていって、次は水中の生き物を包み込むように水上へと伸ばす。引き上げてみると、ぴちぴちと数匹の魚が魔力の網の上で跳ねていた。


「おぉ! 二――三匹か! 結構簡単に取れるもんだな」


 網にかかったのは手のひらサイズ――だいたい二十センチ前後の魚だった。見た目はイワナとかその辺りに近いかな。


 網に引っ掛かっていた小魚はリリースして、それなりの大きさの魚だけを持って帰ることにする。魔鉱石を使って作ったバケツに川の水を汲んで、その中に魚を入れた。


「最低でも一人二匹ぐらいはとりたいなぁ。メノさんの分も入れると十二匹――あぁ、俺の分もとっておかないとみんなに怒られそうだから、十四匹か」


 ナチュラルに自分を数に入れていなくて、『こういうところで怒られるんだろうなぁ』と一人苦笑。


 川についてからわずか十分ほどで、俺は目標の十四匹を集め終えることができたのだった。


 葵たちが待つ場所に帰ってくると、相変わらず六人はテーブルを囲む形で切り株に腰掛けていた。だけどただ話だけをしていたようではないらしく、テーブルの上には木製のコップやお皿、カトラリーなどがいくつも並べられていた。


 いままさに作りかけのものもあるし、みんなで食器を作っていたようだ。


「「「「「お魚だ!」」」」」


「おう! どうやって食べる? って言っても、今は塩すらないから串に刺して焼くぐらいしか思い浮かばないけど」


「「「「「それでいい!」」」」」


 葵たち、大興奮である。人格が五人に分かれているらしいから、好みも分かれてしまったのだろうかと一抹の不安があったけれど、それは大丈夫だったらしい。


「メノさんの分も取ってきたんですけど……食べます? というか、食べられますかねこの魚」


 毒があったりしたらマズい。


 そして彼女のこの世界での立ち位置を考えると、その辺でとってきたこの魚を渡すのはかえって失礼なんじゃないかなぁと思ったが、メノさんは自信満々のドヤ顔で「塩ならある」と空間収納から小さな白色のボトルを取り出した。


「……ここの魚は、美味しい。私もここで自分用に獲ったりする」


 どうやらメノさん的にも好きな食べ物らしい。じゃあ七人で楽しくお食事タイムといきますか。







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