Episode.3 【TIMELESS】について|愛とは

『TIMELESS』 朝吹真理子 著


綴られる文章が、薄い膜のように一枚一枚静かに重なり合って物語が進んでいく。時間や時代や場所が折り重なり、今現在と過去、薄いヴェールを静かに被せていく、或いは剥いでいくように前後しながら物語は進む。


目で文字を追いながら、肌で読む。文章のそんな質感のある印象を抱いた。随所に見受けられる「わからない」という言葉の多用が気になったが、それが文章の一つ一つを曖昧に、薄い膜のように変化させる仕掛けなのかもしれない。


起承転結のある小説と言うよりは、ただひたすら五感で感じとるアートの領域。こういう作品も素敵だと思う。


現実の世界から離れ、小説の舞台へ迷い込みたいと意気込んで読むものではなく、ただひたすら文字の美しさに身を浸していたいときに読むもの。個人的にはそのような感想を持った作品だった。


内容について──ここからはネタバレも含む。


人に対して恋愛感情を抱けないままアミと結婚をし、交配を行い、アオという子をお腹に宿すうみ。アミとは結婚当初お互いに恋愛感情はないが、アミはうみの妊娠直後に突然姿を消してしまう。


うみは交配という行為に対して、ただただ生物学的なとらえ方をしていた。


植物の受粉──蝶が花から花へと花粉を運ぶが如く、動物が生物として本能のままに交わるが如く──それらと同じように、人間と人間同士が交配を行い、次の世代が生まれてくる。そこに恋愛感情など存在しなくとも、うみにはそれが可能だった。


自分のお腹に何の感情も持てない人間の子どもを宿すという行為。女性にとって、妊娠も出産も命懸けで行われるものだ。うみという人物像に対して少し自分を重ねる部分もあったが、交配に対する考え方は私には理解が難しかった。人と人との間に交配があるとき、やはりそこには揺るがない愛情があって欲しい。


アミに対しては物語の最後まで愛情を感じることはなかったと話すうみだが、アオが生まれ、成長していく過程でうみの中にも愛というものが少なからず芽生えているように思えた。


それは必ずしも世間が指す『愛』ではなく、うみ自身が育んできたうみ自身の『愛』。もちろんアミに対しても。


薄い膜のように重ねられた文章の、肌に吸いつくような質感。個人的にはとても好みの作品だった。

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