第9話

「新ミリューへの侵攻はいつするのだ!」


「陛下。しかし、新ミリュー王国には現在、ボレアース王国の姫がいるという情報が入っています。絶対ボレアース王国が参加してきますよ。しかも、あのツリアーヌ・フェイジョアとヤリアントという天才が治める国ですよ? やめましょうよ……」


「うるさい! 今まで旧ミリュー王国との外交では、ツリアーヌ・フェイジョアが邪魔しておったが、弱体化した今こそ攻め入る時だろう!」


「わっかりましたー。では、侵攻を開始しましょうか? 知りませんよ? 責任は国王にあると文章で誓ってくださいね? 僕は退職させてもらいますからね?」


「誓ってやろう! あのお方がミリュー王国を分割できると教えてくださったのだ! 目の前に吊り下げられた獲物を取らぬのは、愚かすぎる行いではないか!」


「もう……。それ、罠のパターンが多くないですか? もう、知りませんからね!」



 こうして、大量の文官の辞職と共にオヴェスト王国による、新ミリュー王国への侵攻は始まったのだった。







「何!? 新ミリュー王国への侵攻が計画されているだと!? 彼女が危ないではないか! 父上に相談しないと!」


 シューデン王国でも騒ぎを起こしながら。


















 わたくしは、王城から国境付近に向けられた魔法の水晶玉で、オヴェスト王国兵の様子を確認します。



「本当に始まってしまいましたね」


 国境付近でこちらに兵を向けるオヴェスト王国。我が国はかなり初期の段階でボレアース王国から手に入れていた情報をもとに、事前に準備した兵器を設置してあります。ボレアース王国から貸与された魔法具と、我が国の大砲です。たとえ、備えられていることを知っていたとしても、この戦力差ではオヴェスト王国では我が国に勝てないでしょう。

 その上、シューデン王国からも援軍をいただけると連絡が来ております。

 実は、旧ミリュー王国よりも小さくなった新ミリュー王国。我が国の国境に位置する城壁は、小さい分、大変強固なものとなっております。



 ボレアース王国とシューデン王国からの援軍。確実に我が国が有利な戦況。オヴェスト王国ではその情報を掴んでいるのでしょうか? この状況で侵攻を進めるとは……無駄に命を散らしたいのでしょうか? 我が国は防御に徹するのみです。




「王妃陛下! “通信の鏡”が光っております!」


「まぁ。こんなときに!?」



 こんなときに何の用でしょう?

 しかし、賢王が無駄なことをなさるとは思えませんわ。




「忙しい時にすまない。火急の用件だ。我が国の北に位置する大国、イノーマス帝国がオヴェスト王国に侵攻を始めた」


「え?」



 イノーマス帝国といえば、我が国のみならず、周辺諸国を合わせたこの地域十個分ほどの領地を有する大国です。オヴェスト王国も隣り合っているはずですが……。


「オヴェスト王国には、貴国を侵略しながらイノーマス帝国に対応するほどの力はない。すぐにそちらの防衛に回るだろう。しかし、イノーマス帝国が何を考えているのか不明だ。彼の国と比べて資源も少なくはるかに小さな国であるオヴェスト王国に興味があるとは思えん。考えられるとすれば、周辺諸国も合わせて侵攻する、足がかりとすることくらいだ。オヴェスト王国は国王が……その、問題があるから、長くは持つまい。周囲が優秀であったが、優秀といえども、今回の侵略を止めることもできない愚か者たちだ。メルティーヌはすぐさま帰国し、我が国の防衛につけ。……ツリアーヌ嬢。そなたのタイミングでいい。少し、調べて欲しいことがある」


「わかりましたわ。また、お調べいたします。メルティーヌ様。すぐさまご帰国を。……この情報は周辺に漏らしても問題ありませんか?」


「あぁ。大国イノーマス帝国に小国が勝てるとは思えん。周辺諸国と同盟を結び、防衛に徹しよう。我が国と同盟を結んでくれるか?」


「もちろんですわ!」


 メルティーヌ様が帰国の準備に入ります。同盟を結び終わったわたくしは、ヤリアント様と相談いたします。




「我が国も防衛レベルを引き上げよう。オヴェスト王国が侵略されたら、シューデン王国も危険だ。ツリア頼みになるが、あの国は君に弱い。シューデン王国にも情報を渡し、同盟を結ぶように交渉しよう」


「お任せください。東のエステ王国や東南のティモルト王国は……我が国やボレアース王国、シューデン王国が侵略されないと危機感を持たないだろう。エステ王国はイノーマス帝国の隣国ではあるが……。賢王の言葉とはいえ、耳を貸してくれると思えない……」


「わたくしもそちらの国々の国王との親交はございますが……対等には見てくださっているのでしょうが、そこまでよく思われていないと思います」


「ユベールッツォにけしかけたルチアの両親は、その二カ国の出身だからな。ツリアを前ミリュー王国から追放した一員に違いない」


「……ただ、そちらの国々の弱みは把握しております。挟み撃ちにならないように、そこを叩いておきましょうか?」


「そうするほかないな。……ところで、ツリアはいつになったら敬語を解いてくれるんだ?」


 真剣な話し合いの合間に発せられた言葉に、わたくしの顔が熱くなります。突然、何をおっしゃるのかしら。


「な、や、や、ヤリアント様。わたくし、その、」


「今はいいけど、いつか気軽な口調で話してほしい」


「ぜ、善処いたしますわ!」


 殿下の筆頭執事だった頃から結婚してしばらく経つと、さらりと口調をお変えになったヤリアント様。わたくし、気づいていたけどヤリアント様のようにお話しするのは緊張してしまいますわ!!

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