第二話
目が覚めると知らない天井だった。
いや、この言い方だと誤解が生じる。
正確には何も知らない。
分からなかった。
「東雲さん?」
知らない女性がいた。
東雲とは誰のことだろう。
「東雲とはどなたでしょう?僕の名前は、なまえ、あれ、?」
「あーやっぱりか、」
そういうと彼女は先生に報告してくるのでそのままおとなしく待っていろとだけ伝えると足早にどこかへ行ってしまった。
きいてくれ。
残念な知らせが二つある。
一つ目
どうやら僕は記憶喪失になってしまったらしい。
僕の記憶はあの暗闇で途切れてしまっている。
自分の名前すら思い出せない、酷い有様だ。
喋れはする、言葉の認識も問題ない。
ただ、約10年分の記憶を思い出せないらしい。
医者から聞いた話だと僕は重度のうつ病で自殺を図っていたらしく
真冬の公園で睡眠薬を大量に摂取し、意識を失ったあげく倒れた時に頭を打ったらしい。
そして二つ目は締め切りが三ヶ月後ということだ。
なんと僕は人気作家らしく、精神疾患を患い活動を休止していて次出る本が二年ぶりの新作らしい。
執筆程度ならしても問題ないと医者は言うが、自分が過去にどんな作品を書いていたかわからないし、今の自分に文学の才能があるかもわからない。
だがまあ、人を期待させといて 何もできませんでした はよくない気がする。
普通の人ならそう思うだろう。でも何故だか分からないが僕は何か普通じゃない。演じなければ。
普通の人が思っているように他人には見せないといけない。あくまで善人として、読者を大切にしている記憶喪失になってしまった元人気作家、これを演じなければ。それは自分が思っている以上に苦しいことだろう。
きっと僕はこの仕事をうけないほうがいい。
分かっているのに何かが僕を動かしている。
「やれるだけ、やってみます。」
ああ、また自分の首を絞めてしまう。
でも、一生『記憶喪失の元人気作家』という重荷を背負うなら少し遊んでから死にたいと思った。
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