アルバイトをバックれまくった結果wwwwwwwwwwww

 

 俺はアラサー独身フリーター。


 バイトをバックれる癖がある。

 そのせいでいつも金欠だ。


 お陰でバイトは交通費のかからない家の近所ばかりに面接に行く。


 最近は年齢のせいもあって落とされることも多くなってきたので、その腹いせに「面接で俺を落としやがったお店には客としても二度と行かない」という無駄な尖りを見せていたら、近くで行けるお店は殆どなくなってしまった。


 ただ、一つよく行くコンビニエンスストアがある。


 ×××


 そこは徒歩5分圏内にあり、品揃えが豊富なお店だ。

 自炊するのが面倒なので、いつもここでメシを買っている。


 距離的にもここなら働きやすい環境ではあるが、近すぎるが故に怖さもある。

 だけど、俺はこのお店が好きだった。

 だから一度でいいから働きたいと思った。


 夕方ごろにいつもいるおばちゃん店員さん。

 その接客態度が素晴らしい。

 満点の営業スマイルはまるで本物の笑顔のように錯覚してしまう。



「レシートは要りませんよねっ? いつもありがとうございますっ♪」



 顔を既に覚えられているというところはネックだが、この環境の良さなら長続きできるかもしれない。


 早速、面接に向かうとーー。



「あっ」



 なんと、そのおばちゃん店員さんはだった。


 学生たちが卒業シーズンで人が足りていなかったということで、即採用となった。


 ×××



『お疲れ様です。石川くん。突然ですが、明日の夜ワンオペで入れますか?どうしても代わりの人がいなくて……。どうかお願いします』



 店長からそんなメールが届いていたので『是非お願いします!』と返信した。



 だけど、俺はその日──



 理由は簡単だった。

 “働くのが急に面倒になったから”である。


 また見たいITubeアイチューブのゲーム実況が22時過ぎから始まったということもあり、夢中になって見てしまったので、連絡することを忘れていた。流石にヤバいと思ったので、一時間後くらいに『ごめんなさい、体調不良で帰宅します』と嘘のメールをした。制服は店長の机に置いて帰った。



 しばらくして何回か電話がかかってきたが、無視した。



『折り返し、お願いします』



 俺は店長のメールを無視して、そのまま朝までぐっすり眠った。



 ×××



 起きると、大量の着信履歴とメールが残っていた。



『悪質な裏切り行為』

『電話して、とお願いしましたよね?』


『一時間、店員が誰もいない時間帯がありました』

『こんなのは前代未聞。あり得ません』

『債務不履行です』


『どうして帰宅する前に連絡の一つを入れてくれなかったのでしょうか?』

『明確な悪意を感じます』



『必ず、訴えます』

『冗談ではありません』

『然るべき処置を取ります』

『アルバイトだからって、何をやっても許されると思っているんですか?』


『許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない』



 怖くなってすぐにブロックした。

 家に突撃してくるかもしれない、という恐怖を感じながらビクビクと震えていたが、店長が来ることはなかった。


 やはりコンビニバイトのような底辺職はやるべきではない、と理解した。


 あ〜バックれてよかった。


 ※ ※ ※


 それから──半年が経過した。


 未だに俺はバイトを転々としている。


 あのコンビニ店にはしばらく寄れていなかった。

 だけど、家の一番近くにあるコンビニなので行けないのは中々不便だ。

 そろそろ寄ってみてもいいかもしれない。


 結局のところ、損害賠償請求なんて単なる脅しでしかなかった。

 そんな面倒なことをやる時間的余裕も金銭的余裕もあるわけがない。


 一応、店長がいないことを確認して、メガネとマスクをしたまま、カゴを手に取って、店内を物色する。レジには知らない若い女子学生がいた。


 商品をカゴに入れて、レジに向かう。

 財布を取り出していると──


「1230円に……な、なります」

「そうそう〜良い感じねっ♪」


 何故か、隣にはおばちゃん店員がいた。

 どうやら女子高生は研修中だったようで、店長が寄り添っていたらしい。

 さっきまでバックゲートにいたのか。


 急いで目を逸らす。

 札を2枚置くと、おばちゃん店員が「手本を見せるわね」と言いーー



「770円のお返しですっ」



 レシートと小銭を手のひらに乗せられた。

 いつものような完璧な接客態度。

 その素晴らしい営業スマイルがかえって俺の背筋を凍らせていた。



「こんな感じを意識してねっ♪」


「は、はい」



 何も言わず、お釣りを財布に入れる。

 どうやら気付いていないようだ。

 変装をしていてよかった。


 すぐに逃げようと踵を返そうとしたときだった。

 店長が無表情で俺の手首を掴んでいた。




「──石川くん、まだ体調良くないの?」




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テーマ『バイト』

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