第10話 赤ちゃんの頭


 赤ちゃんほど、可愛い存在は無いと思います。

 これは人間だけでなく、動物も同じだと思っています。


 ある夏の出来事でした。

 僕が電車に乗っていると、とある駅で若いママさんが入ってきました。


 まだ生まれて3カ月ぐらいでしょうか?

 首が座って間もない、愛らしい赤ちゃんを抱っこしていました。

 性別は分かりませんが、きっと着ている服の色から、男の子でしょう。

 青色でしたので……。


 電車が発車してしばらくすると、強い日差しが車内に差し込んできました。

 

 この時、僕は電車の自動ドア付近に立っていました。

 ママさんは、僕の目の前に立っています。


 強い日差しが、車内に差し込んできました。

 ドア付近に立っていた僕は、思わず瞼を閉じてしまいました。

 しばらく車内で揺られていると、目の前のママさんの話し声が聞こえてきました。


「ねぇ~ あちゅい、あちゅいねぇ~」


 そう言って、抱っこしている赤ちゃんの頭を撫でていました。


(あ……これは)


 余計なお世話だと思いましたが、その光景を見て僕はママさんに一言、伝えたくなりました。

 しかし前科がある、僕は思い止まりました。


「う~ん、かわいい。かわいい~」


 と赤ちゃんのおでこを撫でまわす、ママさん。


(仕方ないんだ。たぶん、一人目の赤ちゃんだし、気づかないんだ。なにかガーゼ的なものを持ってないのかな?)


 僕も一応、子育てを二人。経験した身ですので。

 日差しが強い時は、赤ちゃんは肌が弱いですし、よくガーゼなどをおでこにかけたりしました。

 あとで、おでこに赤みができたりして、かわいそうだからです。


(しかし、いきなり知らないおっさんが、ママさんにしゃしゃり出るのも失礼だ)


(ここは何か良い方法はないだろうか?)


 この瞬間、僕は思った。


 僕はジーパンのポケットに、”あれ”を入れていることを思い出しました。

 ポケットからそれを手に取ると、目の前にいる赤ちゃんの頭へ、優しくかけてあげました。


 我が子に、得体の知れない物体をかけられたママさんは悲鳴を上げます。


「キャー!? ちょっと、なにをしているのよ、あなた!?」

「へ?」

「これって、あなたのハンカチでしょ!?」

「そうですけど……少しでも赤ちゃんの肌に、ダメージを与えないために……」

「いらないわよ! 他人のなんて! 新型のウイルスにかかったらどうする気!?」


 怒られた僕は、ハンカチを受け取り、頭を下げます。


「す、すみません……」

「大体ね! あなたのハンカチ、”ドラ●えもん”のひみつ道具、”タイムふろしき”でしょ?」

「そうです……」

「この子が一瞬で、大人になったら、どうする気よ!?」

「……」


 結果、僕は通報された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る