第2章 変わる世界

第11話 壁


 「なんじゃありゃ」


 「遥人様が寝ている間に出現したものです。どうやら、政府は大多数を切り捨てて、自分達の身を守る事を選択したようですね」


 「人間にしては面白い選択をしたね」


 案の定、俺は悪魔召喚で気を失った。

 前回の三ヶ月より短いが、それでも一ヶ月ほど気を失っていたらしい。また魔力が増えていたので、次はそろそろ気を失わずに済むんじゃないかと思ってる。


 召喚した悪魔、ベリアルは滅茶苦茶イケメンだった。男の俺から見ても一目惚れしそうになるぐらいには。初っ端から俺が女じゃない事に恨み節をぶつけられたのは面を食らったけど。


 今まで二十年ぐらい生きてきて、性別に文句を言われたのは初めてである。


 で、ベリアルと自己紹介しつつ、凝り固まった身体をほぐしてると、アスモデウスから報告があると言われて外に出た。すると、立派な壁が建てられてたって訳だ。


 「高さは10mぐらいか? 土魔法とかそういうので建てられるもんなのかね」


 「恐らく【ユニークスキル】かと。土魔法でも同じ事が出来なくもないですが、そこに至るまでの経験を積めているとは思えません」


 「ふむ」


 遠目からだから分からないけど、結構な広さを円形にぐるりと囲っている。あんな事を出来るスキルもあるんだな。


 「壁が出来た当初は凄かったよ。餌に群がる蟻のように、ここらに居た人達は壁に吸い寄せられていってね」


 ベリアルが楽しそうにその時の事を語ってくれる。


 壁の中に入れろ入れろと人々が群がってたけど、壁の中のお偉いさん達はフル無視。当たり前の様に武力行使もして追い返したらしい。当然人の死もあったとか。


 で、そんなたくさんの人が群がってて、人間を餌として見てる魔物達が黙ってる訳がない。


 大量の魔物が襲い掛かって大惨事だったらしい。


 「それって、本当に政府関係の人達なの?」


 「自称していただけみたいですが、本物でも偽物でも変わらないでしょう? なんにせよ、私達にはありがたい行動です」


 「まあ、それもそうか」


 一通り壁を見てほけーっとした後に家に帰る。世界が崩壊してからも、一人暮らしで住んでたアパートを使っている。無人になったでっかい家を勝手に使ってやろうと思ったけど、なんだかんだ落ち着くんだよね。


 それはさておき。


 これから冒険者ギルドなるものを作ろうとしてる俺達には、ああやって明確に分かりやすい敵ってのが出来たのはありがたい。


 自称政府に見捨てられて絶望の最中にいるところで、俺が別の場所で食料や日用品を与える。見捨てられた人達は、どんどん俺達に依存するだろうし、一生懸命働いてくれるだろう。


 みんなは働いた対価にお金をもらって食料や日用品を買えてハッピー。俺はみんなが集めてきた魔石で色々強化出来てハッピー。


 これぞWin-Winである。


 「これさ、壁の中の奴らは食料とか日用品とかどうすんの? あいつらは外に出て来ないんだろ?」


 「さて、流石にそこまでは分かりません。流石に何の対策もなく、壁の中に閉じ籠ったとは思えませんが」


 「ふーん…」


 あの壁の辺りって何があったっけなぁ。ここら一帯が荒地になったせいで、はっきりと思い出せない。近くまで行けば何かしら思い当たるだろうけど…。


 畑とかがこの近辺にあった記憶はないし、遠からず食料不足で自滅しそうなもんだけど。


 「壁の中の事は放っておけば良いじゃないか。他所は他所。うちはうちだよ。それよりも僕達も早く動いて魔石を集めるシステムを確立しないと。他の誰かが同じような事をする前にね」


 「それもそうか。壁の中の事は一応気にしつつ、俺達もやる事をやろう」


 ベリアルが俺の部屋にあった、推しの写真集を一通り見て、満足したようにアイテムボックスに収納して、これからの事を言う。


 あまりに自然に写真集がパクられてしまった。今ならそこらの本屋に行けばそういうのはいっぱいあるだろうに。


 「事前に遥人様に言われていた準備はほとんど出来ています。こちらはいつでも動けますよ」


 「よしよし。じゃあ早速やろう。まずは良い感じの土地探しからだ。ベリアル、その本は後で返してね」


 「はははっ。断る。これは良いものだ」


 イケメンスマイルでウインクばちこんとまでされて断られた。こいつは後で本屋に連れてってやろう。


 無人の本屋だから奪いたい放題だ。もしかしたら、荒らされてるかもしれないが、無事なものもあるかもしれないし。


 「理想はそこそこ建物が集まってる無人の場所。それでいて、なるべく荒らされてない場所が良いな」


 「そこまで都合の良い場所があれば良いですが」


 更に理想を言えば、あの壁が遠目からでも見える場所が良い。まずは壁の中に見捨てられた、この近辺の人間を拾っていきたいからな。


 極限状態まで追い詰められた人間は、多少怪しくても救いの手を差し伸べられたら、その手を取らざるを得ない。


 我ながら中々悪どい事を考えるなと思うけど、最終的にちゃんと救いになるんだから良いよね。


 一方的な施しはお互いの為にならないよ。

 Win-Winな関係が一番です。

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