第8話 一年


 「アスモデウスの言う通りになったな」


 「酷いものですね」


 俺は目の前の光景を見ながら呟く。

 荒らされまくった街並み。所々にある人間の死体。ゾンビ映画なんかで出てくるような地獄絵図である。


 「死体を見ても何も感じなくなったなぁ…」


 「最初の頃は吐いてばかりでしたね。初めて人を殺した時は特に酷かったです」


 「あれはお前が晩飯にハンバーグを出して、人肉を捏ねてみましたとか言うからだろ」


 「私なりに気を使って冗談で和ませようとしただけなのですが…」


 「悪魔のジョークは人間と感性が違いすぎる」


 世界にダンジョンとやらが出現して、俺がアスモデウスを召喚して意識を失ってから一年ぐらいが経った。


 一気に時間が進みすぎ?

 そう言われましてもね、この一年で世界は崩壊に向かっていったけど、俺とアスモデウスに大きな変化があった訳じゃないんだ。


 アスモデウスから話を聞いて、人間が適応するより、世界が崩壊する前提で準備を進めようって事になって、ひたすらコソコソと魔石集めに集中していた。


 別に奇跡的に人間が適応しようが、出来まいがどっちでも良かったしね。適応して世界がいい方向に向かうなら、それはそれで良し。落ち着いた頃に合流させてもらって、サービスを受けさせてもらおうなんて考えてた。


 残念ながらそうはならなかったけど。


 で、俺が魔物討伐に四苦八苦しながら三ヶ月ぐらいが経った頃。街に魔物が急激に増え始めた。恐らくF級のダンジョンから魔物が溢れたんだと思う。


 そこからは避難所とかもちょくちょく襲われるようになって、各コミュニティの治安が悪化。自警団なんて名ばかりのスキルの力に酔った若者達が暴走するようになり始めた。


 政府も自衛隊や警察消防を色んな所に派遣して対応しようとしてたけど、日本中で同じ事が起こってるんだ。人手が足りる訳がない。


 俺は避難所が襲われてるのを遠目に見てたけど、あれはもう世紀末だよ。助けて欲しけりゃ身体で払えとか平気で言ってる奴がいるんだもん。


 短期間でこんなに民度って下がるんだと、人間の醜さに恐怖した。


 まっ、襲われてるのを見てただけの俺が言えたもんじゃないけどね。俺は自分を犠牲にしてまで他人を救うなんて高尚な信念は持ってない。


 あくまで自分ファースト。保身第一である。


 「でも、小さい子供がこうなってるのを見るのは、ちょっと心にくるものがあるな…」


 崩壊した街を歩いてると、人形を持ったままの幼稚園児ぐらいの子供の死体が野晒しで放置されている。無惨に腹を抉られて、ちょこちょこと蝿が集ったりしてるのが、なんとも…。


 「遥人様、魔物です。ゴブリンですね」


 「ちっ」


 少し感傷に浸ってると、緑色の肌をして腹だけが異常に出っ張ってる身長120cmぐらいの魔物が三体、転がってる死体を漁っていた。


 F級のダンジョンが崩壊して、一番見かけるようになったのがこいつだ。ラノベなんかではチュートリアルの代表格で、雑魚扱いされる事が多いゴブリンだが、普通に強い。


 舐めて掛かって返り討ちにあってる奴を何人も遠目に見てきた。Gランクの魔物が草野球レベルならFランクの魔物はプロ野球レベルだ。正直ランク差が半端ない。Eランクで二刀流の怪物選手みたいになるんじゃないだろうな。手が付けらんねぇぞ。


 で、ゴブリンはとにかく数が多い。

 大抵複数体で行動してて、死体を漁ってる事が多い。主に食料として。女は苗床みたいなのはなさそうなのが唯一の救いか。男女関係なく平等に殺意を持って攻撃してくる。


 俺はアイテムボックスから鉄パイプを取り出す。そして軽く音を出して、ゴブリンを引き付ける。


 三体のゴブリンが汚い鳴き声で俺達を指差して、よだれを垂らしながら襲い掛かってくる。


 「まだ知能が低いのが救いだな、っと!」


 突っ込んでくるゴブリンの前に結界を出してぶつける。不可視の結界だからか、ゴブリンは激突して転倒。それを見てゴブリンの頭に鉄パイプを思いっ切り叩き付ける。


 これが俺の戦い方。

 工夫もへったくれもない。

 これでもへっぴり腰で、アスモデウスに喝を入れられてた頃と比べれば幾分マシになった方だ。


 人に害をなしてる魔物とはいえ、生物を殺すのには勇気が必要だった。慣れるのに苦労したよ。


 「低ランクの魔物にはこれで通じるからいいけど、もっとランクが高い魔物が出て来た時にどうするかだよな」


 「ですね。私には結界の魔力が見えてますから。遥人様に召喚されたからなのか、ある程度力をもった相手には見えるのか。どちらか分かりませんが、そろそろ新しいオプションを用意しておくべきでしょう」


 「だな。……お、魔石。二つも落ちてるぞ。運が良いな」


 ゴブリンが黒いモヤに包まれて消えると、その場に親指サイズの紫色の石が落ちていた。これが魔石。俺が何をするにも必要なものである。ランク関係なく大体三体に一つぐらいの確率で落とす。


 他の人がどれくらいの確率でドロップしてるのか分からないから『ドロップ確率上昇』が仕事してるのか分からないが、この一年でそれなりの数は集めてスキルを強化した。


 新しい悪魔を召喚するにはまだ足りないけど…。


 「ひっひっひっ! お前ら、中々戦えるじゃねぇか! 俺達のチームに入れてやっても良いぜぇ!」


 「風太さん! 女ですよ女! しかも美女! さっさとやっちまいましょう!」


 もう少し魔石を回収してから帰るかと、そこらを歩いてると、最近では珍しくなくなった世紀末テンプレチンピラが姿を現した。


 もう長い間風呂にも入ってないんだろう。まだ距離があるのに異臭が凄いし、欲望に染まり切った目がなんとも気持ち悪い。


 こいつら、なんか見た事がある気がするな。………まっ、気のせいだろ。この一年で色んなチンピラを見てきたから、色々とごっちゃになってるのかもしれん。


 「遥人様」


 「ああ、殺しちゃおう。良心が痛まない相手だし、これも世の為人の為ってやつだ」


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 世界観の説明をしながら時間を飛ばすって難しい…。結構な作品を書いてきたけど、毎回初めの方は説明ばっかりになっちゃう。


 精進しますが、もうちょっとだけ説明回が続きますぜ…。

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