幻の映画『樺太1945年夏 氷雪の門』
千葉和彦
第1話 脚本決定稿
この脚本決定稿はいま道立図書館にある。北海道知事であった堂垣内尚弘が寄贈したものだが、寄贈の年月日は「昭和48年8月21日」となっていた。
* * *
『樺太1945年夏 氷雪の門』
株式会社JMP
総指揮 小倉壽男
制 作 望月利雄 守田康司
原 作 金子俊男(北海タイム社連載「樺太一九四五年夏 樺太終戦記録」
講談社刊)
脚 本 國弘威雄
監 督 村山三男
協 賛 北海道稚内市 札幌観光協会 ㈳北海道観光連盟 札幌・宇恵多旅館
㈳全国樺太連盟
監督補 山野邊勝太郎/製作担当者 船津英恒/監督助手 程原武
結髪 中村正春/メーキャップ 宮沢兼子/記録 新沼比沙子
宣伝担当 神田直彦/製作主任 大橋和夫
* * *
これが「決定稿」の冒頭に印刷されていたスタッフ名である。
この段階では三池信の名はない。また、「撮影」「美術」等は空欄で、決まりしだい手書きで書き入れられていく。
「監督助手 程原武」とあるが、のち「程原武司」と直されている。もうひとりの監督助手の名前はまだない。
次に登場人物名であるが――
* * *
年令
関 根 律 子(25)交換手 第一班班長 (二木てるみ)
藤 倉 信 枝(24)同 第一班副班長 (鳥居恵子)
斎 藤 夏 子(24)同 第一班副班長 (岡田可愛)
石 田 ゆ み(22)交換手 第一班 (野村けい子)
鳥 貝 啓 子(22)同 (今出川西紀)
堀 江 正 子(22)同 (八木孝子)
神 崎 泰 子(21)同 (相原ふさ子)
青 木 澄 子(20)同 (桐生かほる)
仲 村 弥 生(19)同 (木内みどり)
林 田 千 恵(19)同 (北原早苗)
香 取 知 子(17)同 (岡本茉莉)
手 塚 美沙子(17)同 (大石はるみ)
坂 本 綾 子(25)交換手 第四班班長 (藤田弓子)
三 好 と く(24)交換手 第四班副班長 (真木沙織)
北 野 早 苗(24)交換手 第四班副班長 (藤園貴巳子)
植 中 賢 次(50)郵便局長 (千秋実)
久 光 忠 夫(27)日の丸監視哨 小隊長(中尉) (若林豪)
新 関 軍 曹(26)日の丸監視哨 分隊長
滝 田 上等兵(23)同 (小池正夫)
栗 山 二等兵(21)同
横 堀 一等兵(22)同 (誠直也)
北 原 中 将(56)第五方面軍 司令官
田 尻 中 佐(43)同 作戦主任参謀 (岸田森)
山 中 参 謀(45)第五方面軍 高級参謀
木 島 参 謀(35)同 高級参謀
仁 木 師団長(55)第88師団 師団長 (島田正吾)
鈴 本 参謀長(48)同 参謀長 (丹波哲郎)
高 坂 参 謀(44)第88師団 参謀
磯 崎 参 謀(34)同
桜 井 参 謀(36)同
吉 崎 大 尉(29)同 副官 (三上真一郎)
清 水 連隊長(51)歩一二五連隊 連隊長 (藤岡重慶)
秋 田 連隊長(52)歩二五連隊 連隊長
加藤第一大隊長(37)
土 屋 少 尉 通信班隊長
三 橋 兵 長(24)伝令
宇 野 軍 曹(27)下士官伝令
広 田 分隊長(27)
木 村 上等兵(24)広田分隊
野 中 上等兵(23)広田分隊
村 口 副 官(25)加藤大隊長の副官 (黒沢年男)
石 森(28)軍曹 (山根久幸)
ビキンスキー (35)
児 玉 昌 治(40)郵便局 庶務主任
岡 谷 俊 一(32)王子製紙社員 (佐原健二)
関 根 辰 造(52)律子の父 警察 (今福正雄)
し ず(44)律子の母 (赤木春恵)
菊 雄(16)律子の弟
森 本 き ん(38)律子の叔母 (七尾伶子)
光 子(10)
一 朗( 6)
藤 倉 亮 介(55)伸枝の父 (伊沢一郎)
利 枝(50)伸枝の母
鳥 飼 治( 9)啓子の弟 (水野哲)
安 川 徳 雄(30)房枝の夫 (田村高廣)
房 枝(27)信枝の姉 (南田洋子)
敏 雄( 6)
茂( 4)
春 枝( 2)
中 西 清 治(26)機関士 正子の恋人 (浜田光夫)
斉 藤 秋 子(18)夏子の妹 大平病院看護師 (岡田由紀子)
菅 原 良 子(50)主婦 (柳川慶子)
美保子(17)長女 (栗田ひろみ)
和 男(13)長男
小 松 慶 市(70)老人(避難民) (見明凡太朗)
梅 津 勝 介 避難民
前 川 昌 枝 婦人(避難民)
青 田 進( 7)小学一年生(避難民)
神 崎 雄 一(50)泰子の父 (織本順吉)
鳥 飼 勉(25)啓子の兄
手 塚 豊(50)美沙子の父
仲 村 悦 子(45)弥生の母 (鳳八千代)
香 取 豊 子(40)知子の母
中 沢 医局員
柳 田 医師 (久野四郎)
高 木(27)婦長 (城山順子)
片 桐(25)副婦長
小 坂 運転手
渡 部 泊居局長 (久米明)
天 野 恵 子(23)交換手 第四班
藤 田 さゆり(22)同
畠 山 道 子(22)同
小 西 敏 子(22)交換手 第四班
新 藤 美 枝(22)同
杉 本 奈 美(19)同
桜 川 加 代(18)同
戸 川 みどり(18)同
林 朝 子(17)同
その他、兵隊、看護婦、避難民
* * *
登場人物の表には、俳優の名前は印刷されていない。
俳優の名前が括弧書きしてあるのは、チラシや映画雑誌に載った配役表からの転載である。
ただ、これでは人物関係が分かりにくいので、次にまとめておくことにする。
* * *
1945年夏、樺太西海岸・真岡町。人口約24000人。
硫黄島玉砕、沖縄戦線終結、広島原爆投下――太平洋戦争は既に終末を迎えようとしていた。報道機関は刻々迫る終局を報じていたが、ここ樺太は、緊張の中にも平和な日々が続いていた。
真岡郵便局の交換手たちは、四班に分れて交替で任務についていた。彼女たちは仕事の合間に蜜でお汁粉を作ったり、レコードを持ち寄ってコンサートを開いたりした。
それに密やかな恋の語らいもあり、戦時下ではあったが、それなりに青春の充実感を味わっていた。交換手の関根律子(二木てるみ)に宛て、恋人の久光忠夫中尉(若林豪)から葉書が届いた。忠夫は国境の日の丸監視哨の小隊長を務めていたが、ソ連戦車隊の動きを気にしていた。
8月9日、ソ連は突如、参戦を通告してきた。第八十八師団の司令部では師団長の仁木中将(島田正吾)も参謀長の鈴本大佐(丹波哲郎)も、あらかじめ非戦闘員である住民の避難を考えていたが……。日の丸監視哨はソ連の攻撃を受け、越境した敵と交戦した。最前線に立つ忠夫は死を覚悟した。
11日になって、ソ連軍は戦車を先頭に南下し、次々に町を占領していった。
戦火に追われた罹災者たちは、長蛇の列をなして真岡の町をめざした。その中には交換手・藤倉信枝(鳥居恵子)の姉・安川房枝(南田洋子)もいたが、彼女の夫・安川徳雄(田村高廣)がソ連兵に銃殺されたとは知る由もない。
交換手たちは、刻々と迫るソ連軍の進攻と、急を告げる人々の電話における緊迫した会話を、胸の張り裂ける思いで聞き入っていた。8月15日に終戦の玉音放送があった。そして、真岡の婦女子にも強制疎開命令が出された。
真岡郵便局長の植中賢次(千秋実)から、交換手たちにも疎開するよう言われたが、彼女らは引揚げを拒み、交換手として職務を遂行しようと心に誓うのだった。そして、彼女たち「決死隊」は、秘かに青酸カリを胸に隠し持っていた。
ソ連の進攻はやまなかった。8月20日、真岡の町の沿岸にソ連艦隊が現われ、艦砲射撃を開始した。人々はうろたえ、ある者は逃げ、ある者は最後の抵抗を試みようとした。しかし、艦砲射撃とマンドリン銃の前に、捨身の闘いは通じなかった。
やがてソ連軍は上陸を開始、町は紅蓮の焔と銃の乱射によって様相を変えた。この時、関根律子を班長、藤倉信枝を副班長とする第一班の交換手たちは局にいた。緊急を告げる電話の回線と、まだ避難を続ける町の人々へ、その避難経路を告げ、多くの人々の生命を守るためにも、彼女らは職場を死守した。
じりじりと迫るソ連兵の群。ただ一本の電話回線からは、泊居局長の職場を捨てるように、との声が聞こえる。律子はポケットから青酸カリの瓶を出した。信枝ら交換手たちは律子の側に寄った。
そして、九人の乙女は服毒した。最後まで電話交換手として、プレスを耳にかけたまま……「みなさん、これが最後です。さようなら、さようなら……」。
現在、北海道稚内市・稚内公園内に、失われた樺太を遥かに望んで、厳しい風土に耐えて生きぬいた樺太民島を象徴するかのような女人像が建っている。これは「氷雪の門」と呼ばれている。
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