第86話 迷いの代償
「和泉さん、転校だって」
「え?!」
俺は思わず持っていたペンを落としてしまった。
「どこに引っ越したの?」
と、峰岸さん
「それがほかの1年生の子たちに聞いてもよく分からなくて。仲の良い子もいなかったからね」
「それにしても突然だね。こんな中途半端な時期に」
「そうだよねぇ。担任の先生も連絡取れなくなって、突然引っ越したみたいなことを母親から聞かされただけだから心配してるって」
そうなのか……
結局、和泉さんだけが救われなかった。
前世界で和泉さんが黛と接触していたかは分からない。しかし、少なくともこんな結末ではなかったはずだ。
もっと、俺にだってできることはあったばすなんだ……
「佐伯さ、そんなに思い悩んでもしょうがないんじゃない?」
「峰岸さん……」
「佐伯はよくやってると思うよ。それに、和泉さんはなんだかんだ言っても、瑞穂にとっても私たちにとっても脅威だったじゃん。その脅威が一つなくなったと思えば少しは気が晴れるでしょ?」
……こんな時、俺はいつもこんなことを考えてしまう。やはり傲慢だった。
俺は神様に使命を与えられてこの場にいるわけじゃない。
「そうだよな。ありがとう峰岸さん」
峰岸さんのお陰で心が少しだけ落ち着いた。
*
特に約束したわけじゃないけど、ここ最近、永瀬さんと峰岸さんも俺と一緒に瑞穂のお見舞いに行くようになった。
今日も放課後、一番駅に近い俺の家に自転車を置いて、駅に向かう。
♫♪♬〜
電話が鳴った。
「……ユキノ先輩」
『あたし今ショウタロくんちの近くに来てるんだけど、家にいる?』
「これから永瀬さんと峰岸さんの3人で瑞穂のお見舞いに行くところです。ユキノ先輩も行きますか?」
どうせなら足として使わせてもらいたいところだ。
『3人でいるんだね、じゃぁ電話じゃなくて会ってから話すわ』
ユキノ先輩と合流すると、さっそく車に乗せてもらった。
俺はバイト代があるからいいけど、彼女たち2人の交通費だってバカにならないからね。
ユキノ先輩は何だか少し浮かない顔をしていた。
「どうかしたんですか?ユキノ先輩」
「ああ、さっき今井さんからの電話あったんだけどさ、黛が釈放されたことでね」
「えッいつ?!」
「ちょっと前だな。言わなかったっけ?」
「いや、聞いてないです……そういうことは早く言ってくださいよ!」
「つってもあたしらにできることなんか何もないじゃない。まぁ正直ショウタロくんのあんな顔見たら何も言えなかったってのが本音」
「……それでも教えてほしかったです」
「被害届が出されたのに、そんな簡単に釈放されるものなんですか?」
確かに峰岸さんの言うとおりだ。
そうだとしたらお粗末すぎるだろ
「被害届は黛が釈放された直後だったんだよ」
「そうだったんですか?!」
「勾留中に被害届が出ていたら釈放されなかったかもね。でも仕方ないよ。ショウタロくん、あんなに悩んでたじゃない。瑞穂ちゃんのお母さんに映像見せること……」
お義母さんに被害届を出してもらうタイミングが遅かったということか……!
クソッ……まただ!!
こうやって間違った判断ばかり!俺の方が、お粗末すぎるじゃないか!
「それから『報復があるかもしれないから気を付けて』ってさ。何を気を付けたらいいんだよな?」
「まぁ、確かに」
そんなこと分かってるさ。
そうならないために警察がいるんじゃないのか?
「それぞれ気をつけるしかないよ。しばらくは一人で出歩かないようにしたり……」
「ええ?!そんなの面倒くさいよぉ」
「あのね美羽、黛は私たちのこと無関係だなんて思ってないよ。分かってるでしょ?もう少し危機感持ちなさい」
「そうだわね。で、さっき今井さんが連絡くれたのは、今、黛と連絡取れなくなっちゃったらしいのよね」
さらっと言ったユキノ先輩の言葉に皆が注目する。
「……え、それマズくない?」
峰岸さんが言う。
「何でそれを早く言ってくれなかったんですか?!」
「だから、あたしらにはどうにもできないでしょ?」
「違います!アイツは今井さんが言ったとおり報復をするタイプですよ?!」
「でもウチら、何もされてないよ?ねえユーリ?」
「違うよ美羽!あの黛だよ?言ってたじゃん!あの時!」
「ああ……俺たちは全員ここにいるし平気だ。ということは……」
「どうしよう佐伯、私、すごい嫌な予感がする……!」
「ああ、峰岸さんの言うとおりだ……瑞穂が危ない……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます