第80話 証拠

父さんから車で学校まで送ると言われたけど、マスコミどもに車を撮影とかされるのが嫌だったから断った。

チャリでスーッと通り抜ければ大丈夫だろ。


……と思っていた俺が甘かった。

校門を走り抜けようとしたが、マスコミの一人が俺の進路を阻んで危うく轢くところだった。

こいつらは裁判沙汰に慣れているからな。余計な手出しはしてはいけない。


マスコミたちの質問をあしらい、なんとか昇降口まで来れた。

ちょうど昼休みの時間帯だったので、生徒たちも物珍しそうにマスコミたちを見ている。


教室に入ると、前の時のよう視線が一斉に俺に向かれた。

前と違うのは、ヒソヒソと話すのではなくて、クラスメイトたちがこれまた一斉に寄って来たのだ。


「おい、佐伯!黛が逮捕されたって本当か?!」


「マジで現場にいたの?」

「黛先生、何やらかしたんだよ?!」

「ショックー!嘘だよね?!佐伯くん嘘って言って!」


ああ、ああああ……


警察からは特に話すなとか言われてないから別にいいんだけど、何だか一気に力が吸い取られていく……


「あ、後で……後で話すから……」


そう言って自席に向かう。

つ、疲れる……

まだマスコミの方がマシなんじゃないか?

それでもわらわらとついてくるクラスメイトに辟易していたら、


「みんな、佐伯も大変な思いしたんだ。今はそっとしとけよ。悪いな佐伯」


「う、うん、ありがと有馬くん……」


有馬くん、なんていいヤツなんだ!


有馬くんの言葉にみんなも渋々解散していった。

さすがは学級委員。陽キャのスキルを遺憾なく発揮している。


 


キーンコーンカーンコーン――


チャイムが鳴ると同時くらいだった。


「佐伯いるか?ああ、ちょっといいか」


学年主任の先生だ。

まぁ、当校の教師が逮捕されちゃったんだからそれはエライことだわ。しかしまた、警察で話したみたいにいろいろ聞かれるのか。同じことを何度も何度も……もうウンザリなんだけど……


瑞穂が事故ったときと同じように、再び俺は校長室に呼び出された。

内容はほとんど同じで、あまり口外するなということだ。もちろんマスコミにも。

今日の夕方、保護者説明会があるから親に伝えておくようにとも言われた。


――そして、


黛が逮捕されて数日が経った時だった。









「釈放?!今、釈放されるって言いました?!」


「ちょっと大声で叫ばないでよ!そう。高い確率で釈放になるんだって、今井さんだっけ?あの女の警察官から教えてもらった。あたし一応、被害者だからね」


日曜日、ユキノ先輩から大事な話があると言われたので、家に来てもらって話をしてもらうことになった。

あれだけの事件事故に巻き込まれたから、バイトも禁止となってしまい仕方なく俺の家に来てもらうことになったのだ。


「何で釈放されるんですか?!おかしくないですか?!」


「細かい法律のことはわからないよ。多分だけど……あたしの方から黛を誘ったこともあるし、あたしが自ら黛の家に行ったこととか、あたしにもそれなりの責任があるんじゃないかって判断されたのかも」


「でもユキノ先輩、まだ19歳でしょ?未成年を家に連れ込んでってことで罪にならないんですか?」


「ざーんねん。あたし、あの事件の時には誕生日が来てて、20歳になってましたー」


「だからってあんなヤツがまた出てきたらどうなるか警察だってバカじゃないんだから分かるでしょうが!」


「まぁねぇ。なーん含みのあるような話し方してたよ今井さんは。なんか裏がありそう」


「あのDVDは?あの内容だって十分犯罪行為だろう?」


「それについても、どれも黛の顔は映ってないんだって。ご丁寧に音声までカットされてて。上手く躱しているわよね……」


「そ、それじゃ……近いうちに、黛は出てくるってことですか……」


「そうなるよね。でもまぁ、警察から完全にマークされるだろうし、それに警察官と揉み合いになってるときアイツ足をケガしたっぽいよ。天罰だわね」


最悪だ……

あれだけのリスクを負ったにも関わらず、結局あんなサイコ野郎が野放しになってしまうなんて……足のケガだけじゃ採算が合わない。


ズンと思い空気になってしまった。

そんな時


ヴヴヴッ


俺の携帯電話がなった。


「もしもし」


『あ、翔太郎くん?ちょっと見てもらいたい物があるんだけど、今って大丈夫かな……」


永瀬さんだった――






 


 

1時間くらいしただろうか、永瀬さんは峰岸さんと一緒にうちに来た。

2人の私服を見るの久しぶりだな……去年の夏祭り以来か。

そんなどうでもいいことを考えながら俺の部屋に通すと、


「えーっと……どちら様……?いや、どっかでお会いしましたっけ?」


と、永瀬さん。

あれ?ユキノ先輩と永瀬さんって初対面だっけ?

まぁ、いいや。簡単に紹介して……


「お初です〜ショウタロくんのバイトの先輩の北川ユキノといいます〜今回の被害者なんだよね」


軽ッ


最初の印象が大事なんだからそんな態度はやめてほしいな――

って…………え?

永瀬さんと峰岸さん、なぜにそんなゴミを見るような目で俺を見る?


「あぁ〜もしかして勘違いしてるかもしれないけど、あたしとショウタロくんって関係じゃないからね?そこんとこよろしく」

 

よく分からない疑いの目を向けられるので、俺は話を軌道修正することにした。


「で、永瀬さんは何を俺に見せたかったの?」

 

「ああ、そうだ忘れるとこだった。えと……これなんだけど……」


と言いながら、永瀬さんが鞄から自分のデジカメを取り出した。

少し操作をして、画面を俺に見えるように向ける。


「……これって……市立病院?」


「そう、クラスのみんなからビデオメッセージを瑞穂ンに聞かせようとした日だよね。翔太郎くんのを撮ろうとしたあの日」


再生ボタンを押すとデジカメで撮った動画が流れ始めた。

 

『翔太郎くんまた逃げた!』


『病院では静かにね』


『す、すいませーん…………あッちょっと翔太郎くん、ちゃんと撮らせてよッ』


確かにあの日のものだ。永瀬さんが看護師さんに怒られてる。ビデオは途切れることなく録画が続いていた。

そして――


「え?これって黛?ずっと録画してたの?」


そう、あの日、永瀬さんは首からストラップでデジカメをぶら下げたまま、ずっと録画をしてたのだ。黛が瑞穂の首を絞めるところも、辱めるところも、そして、俺たちを脅して口止めを強要したところも。


「これ……メチャクチャ使えるんじゃないか……ねぇユキノ先輩、これ、今井さんに見せましょうよ!」


「これはかなりの証拠になるね……」


「やった!ね、だから言ったでしょユーリ!」


「うん、偶然とはいえすごいよ」


これを証拠にさらに黛を追い詰めることができるかもしれない……!

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