第73話 接触

69 接触

ユキノ先輩は黛をパパラッチしたデータをその日のうちに写真にしてくれた。きっとノッてる時のユキノ先輩はめくちゃくちゃフットワーク軽いんだろうな。


そして翌日、それを持って永瀬さんと峰岸さんに確認してもらうことにした。

もう学校内で3人がコソコソと話しているのを学校の生徒や教師に見られるのは危険だと判断した俺は、不本意ながら俺の家で作戦会議を行うことにした。

というより、永瀬さんに押し切られたんだが……


「おっじゃましまっすー。おお、意外と綺麗にしてるーていうか、物が少ないね」


確かに。ベッドに机とローテーブルくらいしか俺の部屋にはない。


「あんまりジロジロ見ないでくれる?君らが期待しているようなものは何もないからな?」


「別に何も期待なんかしてないよ。てか、逆に聞くけど何を期待していると思ってたの」


ニマニマしながら聞いてくる永瀬さん。

ああ、こういうのが面倒だったから俺の家に呼びたくなかったのに。

俺は適当にあしらってコーヒーでも入れてくることにした。


「でだ。さっそくこの写真を確認してほしい。俺でも少し知っている顔だから2人だったら知ってる子じゃないかと思うんだけど」


そう言って、俺はユキノ先輩から貰った、黛が車でホテルから出てくる写真数十枚をテーブルの上に並べた。


「すごい。よくこんな写真撮れたね」


感心しながら峰岸さんが言う。


「バイトの先輩が事情を話したら手伝ってくれたんだよ。優秀なんだ。その人は」


特に金銭面で。


「……この子……」


永瀬さんが一枚の写真を掴んで見つめている。


「知ってるの永瀬さん?」


「1年生の和泉イズミさんだ……ウチ部活一緒だもん」


「うん……和泉真央ちゃん……なんでこんな子が……」


「そうだよね!大人しくてあまり友達とかと一緒にいるイメージないし……えぇ?!なんで?!あんな大人しい子が黛と?!考えれば考えるほど分からなくなる!」


「もともとそういう子なのかも」


「ええー!ショック!すっごい暗い……あ、いや、大人しい子なんだよ?!いつもボッチだけどね……」


永瀬さんは美術部だから部活の後輩ってことでよく知っているんだ。でも俺は美術部で見たわけじゃないし、どこで見たんだっけ……


「友達もあまり多くなさそうだし、和泉さんと特別仲の良い子もいないんじゃない?」


「確かにねぇ……部活でもいつもひとりだし、誰かと仲良く話してるところ、あまり見たことないな……でも、挨拶すればちゃんと返してくれるよ」


「なーんか、少し前の誰かさんに似てる気がするな……(チラリ)」


「あ、それ、ウチも思ったw……って聞いてないし」


峰岸さんと永瀬さんが何か失礼なことを言っているみたいだけど無視無視……


それよりもだ。何か引っかかるな

俺はこの子に既視感がある


いずみまお……いずみまお……

いずみ……


「あ!思い出した!」


「びっくりした!何よ佐伯」


「ごめん峰岸さん。思い出したんだよ。この子どっかで見たことあると思ってたんだけど」


そうだ。

黛が火傷をした時に庇った生徒だ。

俺は思い出す限りの文化祭の時の情報を2人に伝えた。


「……そうか。その時の火傷のことで脅してこんな関係に持っていったってことか……この子が円光とかするイメージないもん。ま、分からないけど」


と峰岸さんが分析する。


「それは俺も考えた。脅しの可能性もあるよ」


「……うわぁ〜ちょークズじゃん!激クズじゃん!」


「ああ、本当に。俺はコイツの本性を暴き、世に知らしめ、然るべき処分を求めていく。それにはこの子の助力が必要だ」


正直に言ってしまえば私情でしかないのかもしれないが、俺は黛を許すつもりなんてさらさらない。たとえ俺の感情だけが走っていたとしても、もう戻れない所まで来ているような気がする。今の俺にはそれだけの覚悟はあるつもりだ。

いずれにしてもまずは、この写真に写っている和泉さんと接触だ。


「ごめん永瀬さん何度もこんなこと頼んじゃって……」


「大丈夫!ウチしかできないって分かってるから」


そう言って指でオッケーマークを作る永瀬さん。

峰岸さんから釘を刺されたばかりなんだけどな。今回ばかりは永瀬さんに頼るしかない。







次の日、翔太郎くんに頼まれたとおり、私は部活で1年生の和泉さんに接触することにした。

ユーリにはすごく心配されたけど、直接、黛に関わるようなことじゃないから大丈夫だと思うんだよな。


彼女はほぼ毎日のように部活に来ているみたい。みたい、っていう表現になっちゃうのは、私があまり部活に参加してないから……うちの部活は結構自由で部活に来なくても特に何も言われないし、部員がみんな好きなように活動している。


和泉イズミさんは、去年の春に部に入ってきたときの印象は[暗い子]。メガネをかけて野暮ったく一つにまとめた髪の毛。声も小さくていかにもオタクですと言わんばかりの風貌だった。

特に忌避感というものは私にはないけど、私たちとはなという認識はある。それに和泉さんはいつも独りでいるイメージだった。独りが好きな子って他にもいるから特に私から積極的に話しかけようとは思わなかったかな。


とはいえ部活の先輩後輩ということもあってたまに少し話したりしたし、最近じゃないけど顔を見たら声を掛けることもあるから、このタイミングで私から何か話をしたとしても他人から見ても特に問題はないと思うんだけど……

……なんか美術室のドアの隙間から、心配そうに見つめる2人が気になる。


私は小細工だとか駆け引きだとか、翔太郎くんみたいにあれこれ考えてやり取りすることは苦手。だからこんなやり方しかできないんだ……





「和泉さん、ちょっといいかな……?」


和泉さんは美術室の片隅でスケッチブックにデッサンをしていた。何かのアニメのキャラクターだろうか。


「は、はい……?」


「話があるんだ。あっちでいい?」


「あ、あの……何でしょうか」


「すぐ終わるよ」


そりゃ警戒もするよね。

和泉さんは戸惑いながら私の後について来てくれた。


私は翔太郎くんと打ち合わせしたとおり、なるべく他生徒の目につかない空き教室まで和泉さんを誘導した。

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