毒薬変じて魔女となる
比嘉パセリ
一滴 プロローグ
私の人生は此の腐り果てた世界に産み落とされてしまった時からずっと負の連鎖である。寄せ集めでできただけの作り物の家族。ご飯にありつけないから背伸びして
他にも呆れる程面倒な道を歩いてきた。
だけど私の身体はもう、ボロ雑巾に過ぎない。
「いたぞ!例の魔女だ!捕まえろ!!」
「彼奴が俺の妻子を殺したんだ!!」
知らない男達が私に向かって武器を構えて走ってくる。無。きっとそんな顔。
最初は何を言っているのかがよくわからなかった。
私が魔女?妻子を殺した?そんな風に呼ばれる覚えなど何もない。
だがその疑問は一瞬にして一掃されてしまった。
瞬きの間に血しぶきを上げる私の右腕。
普段なら、火傷を負わされても、殴られても、絶対に痛くない筈なのにそれが妙に痛く苦しくて、目の前の男に向かって近くにあった小型の洒落たデザインのナイフを投げた。そんな握力はない筈なのに、そのナイフは綺麗に男の心臓に当たると、不思議なことに、そこから毒々しい林檎が溢れてきた様子が気味悪い程美しく見えた。
「美味しそうな林檎。もっと欲しいわ」
そう思った私は、何かに取り憑かれた様な動きで、使い慣れない農具だの刃物だのを手にしては、毒林檎を収穫することに夢中になっていた。
***
オキシドールの鼻を刺す臭いがする医務室にて、無精髭のぼさぼさな髪の医者がぶつぶつと呟いた。
「君は本当によく寝るね。流石は’’白雪姫’’という異名を持つだけある。」
男の目の前には、薬の錠剤カプセルの様な閉鎖空間の中で、数え切れない数のチューブに繋がれた女性がいる。夜空の様な黒髪が美しい女の服装は、乾燥しシミになってこびりついた血液がべっとりとついている。この様子を見る限り、並大抵の医者ならば既に諦めていても可笑しくないだろう。
「却説、そろそろ目覚めてもらいたいんだけど困ったなぁ…。太宰君が消えて早四年、中也君は出張しているし芥川君は…ってこれではいけないね。…エリスちゃん頼めるね?」
森がそう告げると、エリスと呼ばれた童話に出てきそうなドレスコードの金髪少女は、むっとして反抗した。
「え~?リンタロウったら本当に私にやらせるつもりなの?嫌よゼッタイ!」
「え~~今度新しいドレス沢山買ってあげるからさ!お願いだよエリスちゃん~」
此の小さな攻防戦は、エリスが折れたことによって場が収まった。それから数分後の事、それまでピ、ピ、ピ、ピ、と規則正しくなっていた電子音が急に不規則な音へと変化した。そして女を閉じ込める閉鎖空間に大きな亀裂が入り、中からは紫色の毒々しい液体や液状化しかけたチューブ、そして女が出てきた。
「おはよう、10709番。永い眠りから覚めた気分は如何だい?」
森はまだ目を瞑っている女に薬剤を投与した。然し反応はまだない。
「リンタロウ、この子起きないわよ。それに10709番って何?ちゃんと皆みたいに名前で呼んであげないと可哀想じゃない」
「ふむ、そうしたい所だけどね、生憎彼女には名前が無いんだよ。代わりに取引先のから送られてくる迄彼女が呼ばれていた番号で呼んでいるんだよ。…だけど直ぐ彼が名付けてくれるさ。…後は頼んだよ」
森は部下にそう伝えると、エリスと手を繋ぎながら足を弾ませて部屋を出ていった。
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