第2話 魔法少女やら
怪人が出現したことは、警報で住民たちに知らされる。
それは「怪人警報」と呼ばれており、人々に避難を促すとともにもう一つ大きな役割を持っていた。
魔法少女と呼ばれる存在に怪人の居場所を知らせる、という役割だ。
今回もそれが鳴り、盾を持った魔法少女が駆けつけてカマキリの怪人を討っていた。
魔法少女――
それは、ダンジョンに入れたことで力を手に入れられた女性の総称である。
特殊な武器を持っていて「怪人に対抗できる唯一の存在」とも言われている。
朱子を助けようとした少女は、助けに来た魔法少女に担がれて「怪人被害者及び魔法少女の医療施設」へ運ばれていった。
朱子だが、その時にはもうその場にはいなかった。
――逃げ帰っていたのだ。
これが六月の二十三日(金曜日)のこと。
土日を挟んで二十六日の朝。
朱子はいつも通り学校に向かっていた。
(……はぁ、煩わしい。……最悪。あれ、高かったのに……)
その首元には彼女が愛用しているヘッドホンはなかった。
金曜日の怪人騒動の際に壊してしまっていた。
都会の朝の賑わいに顔を顰めながらふらふらと歩いていると、例のコンビニの前に差し掛かる。
不意に店の方へと視線を向けた。
(……あの子はどうなったんだろう?)
朱子は置き去りにしてしまった少女のことが少し気懸かりになった。
その子のことを思っていると、
――ウィン
自動ドアが開いた。
コンビニから出てくる人物を捉えた。
「……あ」
――金曜日に怪人に襲われそうになった朱子を助けようとした少女を。
少女は大怪我を負っていたはずだった。
それなのに何故たったの二日で普通に出歩けるようになっているのか――それは、「怪人被害者及び魔法少女の医療施設」に運ばれていたからである。
怪人によって負傷させられた人が運ばれる医療施設。
命さえ取り留めていれば、欠損や大病すら治せてしまう
省略して「M3」と呼ばれたり、ダンジョンを探索する者が緊急時に駆け込む場所でもあるため「探索者病院」と呼ばれたりもする。
少女がそこに運ばれたところを朱子は見ていなかったが、そうであろうことは容易に想像がついた。
実際、怪人に抉られた胸の傷を二日で完治できるとしたらそうするしかない、というのはこの世界に住む人の一般常識でもある。
(……よかった、間に合ったんだ。……よかった? なんでオレはホッとしてるんだ? ……助けようとしてくれた子が助からなかった、ってなったら確かに寝覚めは悪いけど……)
朱子は少女の全身を見て、学校指定ではない大きなリュックを背負っていたり制服ではなく学校指定のジャージ姿であったりはしたが、身体の方には問題がなさそうであることを確認して安堵の溜息をついた。
この自分の反応に朱子はまた疑問を抱く。
朱子は自分の性格をよく理解していた。
他人のことを気に留める性格はしていなかった自覚がある。
だというのに、目の前の少女のことはどうしてこうも心に引っ掛かるのか?
朱子にはそれがわからなかった。
朱子が少女のことをじっと見ながらそのことについて考えていると、
「あっ! あなた、金曜日にこの場所にいた方ですよね!? その髪の長さ! 特徴的だったので覚えてますよっ!」
少女と目が合った。
駆け寄ってきて朱子の目の前に……というか下にやってきて話しかけてきた少女。
朱子は思った。
(な、何? 何か言われる? ……文句、かな?)
と、心構えをする。
自分が置き去りにしたことを少女は怒っているのかもしれない、そんなふうに朱子が、続く言葉に若干怯えながら警戒していると少女は言ってきた。
「あの時は助けていただいてありがとうございましたっ!」
と、深々と頭を下げながら。
「……え?」
朱子は困惑する。
朱子からしてみれば、少女に怒られはしても、礼を言われる謂れはなかった。
固まっている朱子に少女が続ける。
「わたし、あなたのことずっと探してたんです! 『探索者病院にいなかったからもしかしたら……!?』とも想像しちゃってたんですけど、生きててよかった……! あ、あのっ!
――怪人になってしまった女の子がわたしを仕留めようとするのを止めてくれていましたよね! それで、その子に襲われたわたしを必死に救おうともしてくれて……!
あなたがいなかったらわたし、どうなっていたことか……っ!」
「ちょ、ちょっと待って……!」
少女の言葉を朱子は慌てて止めた。
「えっと、何……を、見たの? こっちが助けられた側で、助けたのは君、でしょ?」
朱子にはわからなかった。
どうして少女がこんなことを言い出したのか、が。
だから、少女の言葉を遮って質問をする。
朱子の質問に、少女は自信たっぷりに答える。
「いいえ! 間違いありません! わたしを助けてくれたのはあなたです! 最初はわたしが助けようとしていたんですけど、逆になっちゃって……」
少女の答えに、朱子は内心すこぶる狼狽えた。
彼女の表情筋はほとんど死んでいるため表には出なかったが。
これ、大丈夫なのか!? と焦っていた。
朱子は少女を諭そうとする。
「……えっと、こっちが助けてたら君、探索者病院に運ばれてなんていないと思うけど……」
「っ! そ、そう言われてみれば……! あ、あれ!? あれは夢だったんでしょうか……!?」
朱子が少女の身を案じるようにしながらそう言うと、少女はあれだけあった自信をなくす。
自分の記憶と実際にあったことが違うのではないか、という混乱状態に少女は陥った。
そんな少女に対して朱子は申し訳なさを覚えながらも彼女から離れることにする。
「……遅刻するから、これで。……あっ、助けてくれようとしたの、嬉しかった。ありがと」
感謝だけは伝えて、朱子は少女の横を通り過ぎようとした。
「あ、はい……。わたしでお役に立てたのなら――って、遅刻? ああっ! そうでした! わたしも学校行かないと……!」
その時、朱子の言葉で現在の時刻(八時半)を思い出した少女も学校へと向かい出した。
朱子より数歩先に行って振り返り、朱子に一礼する少女。
その際、朱子の穿いているスカートが少女の目に留まった。
それで朱子も少女と同じ学校に通っているということに少女が気づく。
「えっと! 怪人には気を付けて――って、そのスカート……! もしかして
「うぇっ!? え、えっと、く、来栖、朱子……っ」
「っ! よろしくお願いしますね! 朱子センパイっ!」
朱子が通っている学校の先輩であることが判明してぐいぐいくる少女・赤。
朱子はその勢いに押されて名乗っていた。
朱子の名前を知ることができた赤は嬉しくなったようで、一緒に行きましょ! と朱子の手を取り歩き始める。
強制的に歩かされる形となった朱子はぼやくことになっていた。
「……しまった。この子、同じ学校の制服着てたじゃん……。あまり気に留めてなかったの、よくなかったな……。スカート、パーカーに隠れるくらいにしてたら……(ぶつぶつ)」
「何か言いました? センパイ?」
「……ううん、なんでもない」
朱子は、朱子の呟きが聞き取れなかった赤に聞き返されるが濁していた。
朱子は感じていた。
(この子……。あまり関わらないようにした方がいい、よね? ……でも、すごく気になる……。距離を取りたいのに……)
と。
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