4-33:報告
南でガレント王国の「鋼鉄の鎧騎士」を倒したとされる人物が小柄な女性で、しかも耳がとがっていたとの情報だった。
「エルフでそんなことができる人物なんて長老たち位なモノ、いったい誰が……」
エルさんは腕を組んで考えている。
「エル姉様、詳しくは私の執務室へどうぞ。情報を持ってきた使いの者がおりますので」
「わかった。スイフト行くわよ」
ソアラさんにそう言われ私たち一同はソアラさんの執務室へ行くのだった。
* * *
「あっ! エル姉様!?」
「えッ!? エル姉様がいらしているの?」
「うそっ! あ、ほんとだ!!」
「エル姉様~!!」
ソアラさんの執務室に行くと、二十歳くらいのお姉さんたちがいた。
一人だけ私と同じくらいの少年もいる。
「ソアラ、義父上は…… って、エル姉様ッ!?」
「あらパッソ久しぶりね?」
そんなん中、ソアラさんに話しかけてくる中年のおじさんがいた。
しかしそのおじさんはエルさんを見ると大いに驚く。
「エ、エル姉様がどうしてここへ!?」
「どうしてもこうしても、今色々とおこっているでしょう? だから学年都市ボヘーミャに行くのよ」
「ソ、ソアラ、エル姉様が動くほどの事なのか?」
「うちの『鋼鉄の鎧騎士』を倒す人物が現れた。これは放っておけないでしょう? それにエル姉様が動いているってことは、わかるでしょう?」
「た、確かに…… 今のこの状況、エル姉様が当たるのが適任かもしれない……」
そう言ってそのおじさんはごくりと唾を飲む。
いや、いったい何なのよ?
だけどオジサンは私たちに気づく。
「時に、そちらの少年たちは?」
「イザンカ王国第三王子アルムエイド殿下よ。エル姉様と行動を共になさっているという事だから他言無用よ」
「イ、イザンカ王国の第三王子!?」
私の正体に気が付くとそのおじさんはさらに驚く。
そして私に向き直ってから胸に手を当て挨拶をしてくる。
「アルムエイド殿、お初にお目にかかる。私はソアラの夫、パッソという。こちらの者たちは長女のソニカ、次女のミラココア、三女のティーダ、そして長男のタフトだ」
そう言うと、長女と思しきソニカさんとやらが私を睨んでから一応は王族の略式のあいさつをしてくれる。
私もマリーに教わった方法で挨拶を返す。
「え、えっと、アルムエイド=エルグ・ミオ・ド・イザンカです」
私がそう言うと、ソニカさんはぎろりとパッソさんを睨んで言う。
「お父様、まさかと思いますがこんな小さな方を私に引き合わせる気ではないでしょうね?」
「い、いや違う違う! 私だってアルムエイド殿とは初見だ。エル姉様が一緒なのだから他意はないだろうに!!」
パッソさんがそう言ってソニカさんをなだめているけど、ソニカさんはこちらを見てはっきりと言う。
「万が一イザンカからのお話があっても私はお断りします! アマディアス様以外には興味がありませんから!! くぅうぅぅぅ、まさか黒龍の孫娘にアマディアス様を取られるとは!! 女神様の血に連なるお方だから仕方なく私が身を引きましたが!!」
ソニカさんはそう言って憤慨する。
私は思わずマリーを見る。
「確かにアルム様の兄上であるアマディアス様は黒龍様の孫娘であるイータルモア様を娶られました。女神様の血に連なるお方、アマディアス様もお断りすることはできませんでした。最後の頃はお腹にお子を宿しておられましたね」
「え? じゃぁ僕ってオジサンになっちゃうの?」
齢十一歳でオジサンとか、年の差兄弟あるあるだった。
とはいえ、私の兄ってのはそんなすごい人を嫁さんにもらっているとは……
って、何だろうこの悔しい感情は?
兄の事は覚えていないけど、なんかイケメン臭が漂っている。
ソニカさんのあの反応を見る限り結構なイケメン??
「マリー、もしかしてその兄さんって結構見た目が良いの?」
「多分そうだと思います。宮廷の女性たちにはおもてになっておられました」
やっぱりかぁーッ!!
くぅううぅぅぅ、そんな美形の兄が私にいたんだ。
いや、前に説明で兄弟がいるって聞いてたけど、異母姉弟の婚約者とかぶっ飛んだ話で全然気にしてなかった。
ああ、私のバカ。
いったいどんな美形の兄なんだろう?
「とにかくです、私はイザンカとは金輪際かかわりを持ちたくありません。失礼!」
そう言ってソニカさんは部屋を出て行ってしまった。
「す、すまんねアルムエイド殿」
「い、いえ。実は僕は昔の記憶がないのでどういう状況か全くわからないんですよね、はははははは……」
私がそう言うとパッソさん含め部屋にいた人たちが私を見る。
「記憶がない?」
「えーと、話ではなんかこっちの大陸に飛ばされたらしいんですがイザンカにいた時の記憶がバッサリなくなってまして……」
私がそう言うと、何となく空気が重くなる。
「かわいそう……」
「うん、まだタフトと見た目ほとんど変わらない年なのに……」
そう言って残ったお姉さんたちが私の前まで来てそっと手を握ってくれる。
「アルムエイド様、どうぞお気を落とさずに」
「私達で手伝えることがあれば協力します」
「は、はぁ…… ありがとうございます……」
なんだろう、このデジャブ―?
「アルムエイド君だったよね。僕はタフト。君が噂の大魔術師なんだ」
「はい? ぼ、僕が大魔術師??」
手を取られ憐れむ瞳で同情されていた隣から一人の少年がやってきた。
金髪碧眼。
猫っ気のショートカットで私より少し背が大きい。
あと数年もすれば、いやこのくらいからはお姉さんのストライクゾーンよ!
「僕も魔法は使うけど、後でぜひ君の魔法を見せてもらいたい。魔法王ガーベルの再来と言われる君の力をね」
そう言って握手を求めてくる。
私はその手を握り返す。
「さて、それでは挨拶も終わったのでエル姉様、よろしいですか?」
「あ、うん。それでその情報ってのは?」
「エル姉様にご報告を」
ソアラさんがそう言うと、カーテンの陰から黒装束の少女がすっと出てきた。
目元だけを見せて他は顔が隠れて見えない。
「恐れながらご報告させていただきます。ガレント王国の南の砦にて三日前、何者かによって我が国の『鋼鉄の鎧騎士』が倒されました。現場では『鋼鉄の鎧騎士』の胸部に小柄なこぶしの跡が残っており、兵士たちの目撃とその人物は一致していたようです。身なりは黒い衣服に身を包んだ少女。ただし目にはマスクがされその素顔は特定されていません。金髪おさげで、その耳は紛れもなくエルフの特徴そのものだったそうです。問題は身長百五十センチあるかないかの小柄なその体で『鋼鉄の鎧騎士』を一発で殴り飛ばし再起不能にしたと言う事です」
「はいっ?」
報告を受けたエルさんは思わず変な声をあげる。
「ちょちょちょ、ちょっと待って、肉弾戦でしかもワンパン!?」
「はい、目撃した兵士たちからは見事なパンチだったとか」
何それ?
身の丈五、六メートルはある巨人をこぶし一発でノックアウトだなんて!?
「これ、ゲートが使えないことや風のメッセンジャーが使えない問題以上に大事じゃない? そんな人間がガレント領内でフラフラしてるなんて、脅威じゃない!? それでその人物は??」
「はい、残念ながら『鋼鉄の鎧騎士』を倒した後に現れた同じく金髪の女性と共に転移魔法で消えました」
「転移魔法? じゃぁ、仲間がいたってこと??」
エルさんの質問に彼女は首を縦に振る。
「エル姉様……」
「これは…… 組織的な動きね。やはりうちの連中が仕入れてきた情報の可能性が高くなってきたわ。『秘密結社ジュメル』。きっと奴らの仕業に違いない!!」
エルさんがそう言うと、ソアラさんもパッソさんも、そしてスイフト王も唾を飲む。
「奴らよ、奴らが現れたんだわ」
エルさんのその言葉にここにる全員が言葉を失うのだった。
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