4-25:エルピートゥエルブ


 しかしいくら何でもそのマシンドールエルピートゥエルブが何故今頃?



 エルピートゥエルブは追い詰められ、討伐されそうになって渓谷に落ちて、その下に流れる川に流され大きな滝から落ちたらしい。

 いくらマシンドールでもただでは済まなし、いや無事ではいられない状況でどうやって生き延びたのだろう?


 

「記憶媒体の魔晶石、動力源である双備型魔晶石核。もしそれらが無事であったならもしかして……」


 エルさんはそう言って一つの仮説を立てる。


「精霊はこちらの世界で具現化するには媒介が必要ってことは知ってるわよね? エルピートゥエルブは動力源に水の精霊が封じ込められた魔晶石核を使った双備型魔晶石核を持っていた。そしてあの時あの子は渓谷の下の川に落ちて行った。その先には大きな滝。いくらマシンドールでも無事ではないはずだった。でも水の精霊がその本能を働かせたなら……」


「あっ!」


「もしかしたらだけど、破損した体を治すために今までずっと潜んでいて動けるようになったから今頃出てきた可能性があるわ」


 マシンドールの体の破損を精霊力で修復したという事か?

 それに四十年近くかかったと言うのか?

 もしそうだとすれば、その恨みがどれほどのものか。


「エルピートゥエルブはそこまで私たちを恨んでいたのですね……」


「あの子は、エルピートゥエルブはそれでもあの時は止めなければならなかった。だから今度こそ」


 エルさんはそう言ってルミナ司祭に言う。


「大丈夫、今度こそあの子を救って見せるわ!」


   

 * * * * *



 その後首都ガルザイルへの出発は延期された。

 私たちはユーベルトのシーナ商会に滞在してはぐれのマシンドールの行方を追った。



「とはいえ、もう一週間かぁ。シーナ商会の総力を尽くしてもその間全く足取りをつかめないだなんていったいどういう事?」



 エルさんはいらいらしてお茶を飲みながら窓の外を見る。

 この一週間戦闘メイドを含むシーナ商会の隠密部隊まで投入してもその足取りがつかめていない。

 もちろんその間に被害が出たという話は聞かないので、最近はそのあらわれたはぐれのマシンドールの情報が本当にエルピートゥエルブかどうか疑問視する声も上がり始めていた。



「一体どこへ……」



 バンッ!



「エル様はぐれのマシンドールが出ました!」


 みんながため息をついていたところシーナ商会のイプシルさんが慌ててやってきた。



「どこに出たの!?」


「ハミルトン家です!」


「わかったすぐに行くわよ!!」



 エルさんはそう言ってすぐに飛び出す。

 もちろん私たちもそれについて走り出すのだった。



 * * *



 シーナ商会から領主のハミルトン家はすぐ近くだった。



 街の中央にあるお屋敷はかなり立派なもので、そこへ着いた私たちの目に映るのは異形の姿をしたものだった。



「なんだあれ!?」


 思わず私はそう唸ってしまった。

 それもそのはず、それは「鋼鉄の鎧騎士」を思わせるほど巨体だったからだ。

 だがよく目を凝らすとその体はマシンドールたちが重なり合って出来ていた。


「そんな、マシンドールの集合体? いったいどういう事?」


 流石にエルさんもそれを見て驚く。

 その巨大なマシンドールはお屋敷を半壊させながら防衛で出てきた戦闘メイドやマシンドールたちと対峙していた。



「エルピートゥエルブ! あなたのなのね!? やめなさい!!」



 エルさんがそう声を張り上げると、その巨大なマシンドールはエルさんに気づきこちらを見る。

 そしてその瞬間私でもわかる殺気と敵意が一気に膨らむ。



『うぉおおおおおおおぉぉぉ』



 本来しゃべることのできないマシンドールは体をきしませて雄たけびのような音を吐き出す。

 それほどまでに目の前に現れたエルさんを憎んでいるのか?



 ぶんっ!

 ドガッ!!



 巨体のマシンドールはそのこぶしを振り上げエルさんを襲う。

 しかしエルさんはあっさりとそのこぶしを避けて引き下がるとそのこぶしは地面を穿ち、大きな穴をあける。

 そして手の部分を成型していたマシンドールがひしゃげるが、お構いなしにまたエルさんを狙って攻撃を繰り返す。



「エルさん!」


「大丈夫、大地の精霊よ!!」



 攻撃をかわしながらエルさんは精霊魔法を行使すると、目の前の地面が隆起して土の壁が出来上がる。

 エルピートゥエルブはその壁を叩くが、壁は崩れることなくそのこぶしを受け止める。



「エルピートゥエルブ、今その苦しみから解放してあげるわ。お母さん力を使うわ!!」



 そう言ってエルさんがいったん目をつぶってから再び目を開くと瞳の色が金色に変わり、そして体全体もうっすらと光り輝く。



「我が名はエル! 精霊王たちよ我が支配下になり我が声を聴け!!」



 エルさんがそう言うとエルさんの周りに四つの光が集まる。

 それはまるでエルさんを守護するかのようにその周辺を周り、エルさんの体が宙へ浮かぶ。



「エルピートゥエルブ、その怨念を、悪しき魔力を断ち切りなさい!! 【最大旋風魔光破】マキシムトルネードぉ!!」



 四つの光り輝く球体はバチバチとスパークをしながらエルさんの前に展開して回転をしながらプラズマを伴った強力な竜巻を発生させる。



 ばちばちばちっ!

 ドゴォおおおおおぉぉおぉぉんっ!!!!



 そのプラズマをまとった竜巻は巨大なマシンドールを捕らえ、土煙を立てながらその四肢を破壊する。



「やった!?」


 私は思わずそう言う。



「はぁはぁはぁ、これ精霊王を一度に四つ使役するから力使ってもきついなぁ」



 そう言ってエルさんは地面に降り立つ。

 それと同時にあの光り輝く四つの球も消え去る。

 この時点ではすでにエルさんはいつも通りで、体の輝きも瞳の金色も元に戻っていた。


  

 だが、土煙が晴れるころありえない光景がそこにあった。

 なんと体をぼろぼろにしながらもあの巨大なマシンドールがまだ立っていたのだ。

 よくよく見ると体のあちらこちらが水で濡れている。


 

「まさか! 水の防壁で耐え忍んだ!?」



 エルさんが驚くそこへ水の刃が殺到する!



 ビュシューッ!!



「しまった! エルさん!!」


 私はエルさんに手を伸ばし、あの【絶対防壁】とか言うのをイメージして彼女を守ろうとするも、間に合わない!?




 ぴこッ!! 



 しかし水の刃がエルさんに当たる寸前飛び込んできた小さな影が風の渦を巻きながらそれを受け止める。



 ズシャっ!

 ズシャズシャッ!!



『うおぉおおおおおぉぉぉん(誰だお前は、不愉快なやつ!?)』



「エルピー!?」


 目の前で盾になるエルピーにエルさんは硬直する。



 ぴこぴこぴこっ(不愉快なのは当たり前だよ。マシンドールはね、機巧少女はね、自分を見るのが不愉快なのよ。でもね、どんなに不愉快でも、どんなに憎くっても、自分自身を殺すことも、自分自身をやめることもできないの)!



 水の刃をその小さな体で受けながら、傷つきながらエルさんを守っているエルピーは耳をぴこぴこさせている。



 ぴこぴこぴこッ(あたしはあなた、あなたは…… あたしなの、あなたはあたしのいっとう激しいところだけを持ったマシンドールでしょ、あたしはエルピー)!! 


『うぉおおおおおおおぉぉぉんっ(私はトゥエルブだ、エルピートゥエルブだぁッ!!』



 ぴこぴこぴこっ(エル様はやらせない! あたしよいなくなれぇっ)!!



 まるで会話でもしているかのように二体のマシンドールたちはその体に水の刃と風の刃をぶつけ合い、どんどんその四肢を破壊してゆく。



「エルピートゥエルブ、エルピー! もういいのです! 二人ともやめないさい!!」


 が、さらにここでルミナ司祭が現れ割って入ってくる。



「ルミナ! 来ちゃダメぇッ!!」



 ざしゅっ!!

 


「かはっ! エ、エルピートゥエルブ契約者として命じます。我が命と引き換えにもう辞めなさい。止まりなさ…… ぐふっ!」


「ルミナぁッ!!」


 ぴこっ!!




 ルミナ司祭はその胸に水の刃を受けて吐血するのだった。


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