4-20:ボヘーミャに向けて出発
私たちは魔法学園ボヘーミャに向かって出発した。
「とりあえずはガレント王国を目指すわね。西回りはところどころ険しい山があるので馬車では難しいわね。ガレント王国経由で南下するルートが馬車では一番早いから」
エルさんはそう言って馬車に乗り込む。
それについて行って私たちも馬車に乗る。
大型の馬車で中に六人乗ってもまだ余裕があるくらいのモノだった。
「ベイベイの街から街道を通ってまずはユーベルトへ向かうわ。ユーベルトからガレント王国の首都ガルザイルまで行って、そこから内陸の道を伝って学園都市ボヘーミャね。大体馬車でひと月半くらいかしら?」
エルさんはそう言ってあの魔法のポーチから地図を取り出す。
それを見ながらルート確認をして頷いている。
「うん、馬車なら迷うことはないだろうし、大丈夫よね?」
「あの、もしかしてエルさんって方向音痴なんですか?」
「な、何言ってるの、道はすべてつながっているわ! そのうち着くのよ目的地に!!」
はい、これダメなやつですね?
長寿族と言うか、ハーフエルフだって人間の倍以上の寿命があるって聞いているから、時間的感覚に狂いがあるって知識の中にはあった。
エルフ族も純粋なエルフだと最長でも万年単位で生きているらしいし、うわさではあの「女神戦争」で女神様のしもべとなり戦ったものもまだ健在だと聞く。
魔法王ガーベルが人の世界を作り上げたのが約三千五百年前と言われている。
そして人類史もそのくらいからの記憶がある。
特に「始まりの都市」であるイザンカ王国のブルーゲイルには当時の記録が残っていて、魔法王ガーベルの秘蔵の所があると言われている。
私は記憶がなくなってしまっているので、その辺が思い出せないけど中には禁書の部類もあって魔人を呼び出せる術もあったそうな……
ちょっとマテ。
そう言えばアビスって正体が魔人。
……いや、まさか。
いくら魔力が大きいからと言って自分がかかわっているということはないだろう。
多分。
そんなどこから来たかわからない知識をたどっていると馬車が動き出した。
「そういえば、最初に目指すのがユーベルトとか言ってなかったっけ?」
「はい、聖地ユーベルト。現女神様の誕生した地として有名ですね。ユーベルトには女神神殿があり、そこを守護するのが『女神殺しの赤竜』ともいわれてますからね」
「はぁ? 『女神殺しの赤竜』??」
何となく言ってみたそれにマリーが応えてくれるけど、ユーベルトの女神神殿に「女神殺しの赤竜」とかがいるって、矛盾してない??
そう思っていると首をかしげていると、マリーは続けて説明を始める。
「『女神殺しの赤竜』は『女神戦争』で敵対する女神様をその炎で焼き殺したと言われる竜ですね。しかし魔法王ガーベルによって封じられ南西の火山の中で古代魔法王国時代の秘宝の守護者として長らくいたそうです。その後にその秘宝を必要とする紅の『鋼鉄の鎧騎士』を駆る伝説のティアナ姫と現在の女神様がまだ人間の頃にその赤竜を倒し、大敗した赤竜は現女神様に仕えるようになったと聞きます」
マリーのその説明に私は驚きを隠せないでいた。
そんな神話級の存在がいるだなんて……
「ああ、セキおばさぁ…… いや、セキお姉さんは今はユーベルトにはいないわよ。ジルの村でのんびりしてるはず。まぁ、セキおばさ…… お姉さんだけは子供出来なかったからいろいろやる気が起こらないのよねぇ~。その代わりタルメシアナの娘であるイータルモア辺りはセキお姉さんに鍛えられたけど(笑)」
「エル殿、イータルモア様をご存じで?」
「モアとはモアがちっちゃいころから知り合いよ? 私もあそこで先生に鍛えられていたしね。なんか今はどこかの王族のお嫁さんになったって聞いたけど、どこだったっけな?」
うーん世の中狭いね。
そんなすごい人とつながりがあるだなんて。
と言うか、エルさん自身が「女神の伴侶」と言われるエルフの娘なんだからすごい人なんだよなぁ……
いやちょっとマテ?
「女神の伴侶」って、まさか文字通りなんじゃないだろうね?
女神様に常に付き添っている存在だからそう比喩されているんだよね?
いくら女神様でも女性同士で……
そんなことを思っていると、暇なのでいつの間にか馭者の席に移動していたカルミナさんが声を上げる。
「アルムぅ~、お客さんニャ。数は……ざっと五十人ニャ!」
「え? お客さん??」
「あら、この辺の野盗は前回私が全て壊滅したんだけどな? もう湧いて出た??」
カルミナさんの言葉に理解が追い付かなかったけど、エルさんはすぐにピンと来たようだ。
嬉しそうにこぶしをぽきぽき鳴らして馭者に指示をする。
「馬車を止めて。ここであいつらを迎え撃つわ!」
すると馬車はほどなく止まり、周りに人の気配がし始める。
「ひゃっはぁー! おいていくもんおいて行けば命まではとらねぇぜぇ~」
「おいおい、獣人がいるぞ!?」
「お、馬車から美人のねーちゃんが出て……」
「あ、あれってハーフエルフだよな?? お、おいまさか!?」
とりあえず私たちも外に出るけど、なんか周りの野盗さんがエルさんを見ておののく。
「ふぅ~ん、見ない顔ばかりね? と言うことは新しい連中ね?? まぁいいわ。悪人に人権はない! この正義の味方エル様が懲らしめてあげるわ!!」
「うわぁあああぁっ!!!! 『スタイリッシュ盗賊キラー』だっ!!」
「な、何だと、こいつが有名なドラコゴンさえも避けて通ると言われるトラブルメーカー、通称『ドラ除けハーフ』かっ!?」
「噂通りの貧乳だな……」
「そこっ! 特に最後の奴は絶対に許さないからねッ!!」
なんかすごい呼び名があるエルさんは顔を真っ赤にして体に風の精霊をまとわりつかせながら盗賊たちに突っ込んでいくのだった。
うん、私たちが何かする必要はなかったみたい。
私たちは盗賊たちが阿鼻叫喚になるのを、マリーが時間がかかるだろうと言って準備したお茶を飲みながら眺めるのだった。
なんかこういうのに全然驚かなくなっている自分がいることに違和感を感じなくなってきたなぁ~。
うん、今日も平和だ。
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